旧山本家住宅(山本清記念財団会館)主屋 ― 大阪三越の技師が設計した和洋折衷邸宅

設計者の岡田孝男は、大阪三越の住宅建築部に籍を置く技師でありながら、茶室研究家としても名を知られた人物だった。西宮市結善町に残るこの主屋には、その二つの顔が同じ屋根の下に同居している。

建物は木造2階建、一部平屋建で、屋根は桟瓦葺。建築面積は331平方メートル。通りの西側、敷地のほぼ中央に東を向いて建ち、主体部は寄棟造とする。その北側に平屋の台所まわりを付属させた構成である。

外壁はモルタル掻き落とし仕上げ。表面をわずかに削り取ってざらついた質感を残す仕上げで、正面では柱などの軸部をあえて外に見せ、足元には腰石を貼る。ハーフティンバーの意匠を思わせる正面だが、その壁の向こう側には座敷が控えている。

竣工年については資料に幅がある。文化庁の国指定文化財等データベースは昭和12年(1937年)とするが、財団の公式沿革や地元資料の多くは昭和13年(1938年)とする。最初の施主は鳥取県で鉄山経営により財を成した近藤壽一郎(1880年〜1958年)。施工は芦屋の笠谷工務店が担当した。敷地面積は1266.11平方メートル、約400坪。延床面積は628平方メートルである。

「登録」であることの意味

主屋の登録番号は28-0293。登録年月日は平成19年(2007年)12月5日、告示は同月19日、第57回の登録にあたる。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

ここで一度、制度の区別を確認しておきたい。国宝や重要文化財は国が価値を認めて「指定」するもので、現状変更には厳しい制限がかかる。これに対して登録有形文化財は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正で導入された比較的新しい枠組みで、性格がかなり異なる。

明治以降に建てられた住宅、工場、橋梁といった近代の建造物は、その価値が検討されるより先に取り壊されていく。それを食い止めるために設けられたのが登録制度だった。所有者の申請に基づいて文化財登録原簿に登録し、外観を変更する際には届出を求めるものの、日常的な使用や改修の自由は広く残される。使いながら守る、という発想である。

この敷地では、主屋・表門及び塀・門衛所・蔵・茶室の5棟が同じ日に登録された。優品を一棟だけ抜き出すのではなく、昭和10年代の郊外住宅を屋敷まるごと残した点に、この登録の意義がある。

その後、平成22年(2010年)に兵庫県の「ひょうごの近代住宅100選」に選定され、平成23年(2011年)には西宮市の都市景観形成建築物に指定されている。

玄関からスペイン、座敷から出雲

阪急神戸線が大阪から西へ延びると、六甲山地の南麓には実業家や商人の邸宅が次々と建った。庭があり、眺めがあり、会社まで電車で通える。この一帯で育った住宅の作法が、いわゆる阪神間モダニズムである。洋風の平面と地中海風の表層を、日本の座敷と接ぎ木する。旧山本家住宅は、その実験のなかでもかなり徹底した部類に入る。

ハーフティンバー風の玄関ポーチを抜けると、足元はスペイン風のタイル。ステンドグラスの入る応接室には、山本清と妻とみゑが集めた茶道具、漆器、絵画などのコレクションが並ぶ。客間、書斎と洋間が続き、そこで空間が切り替わる。庭に面した主座敷と縁側から先は、畳と障子と、庭石越しに見える茶室の世界になる。

階段の手すりは職人の手が入った仕事で、通り過ぎるのが惜しい。2階では同じ切り替えが逆向きに起こる。シャンデリアを吊った洋室の寝室があり、その先に和室が並ぶ。うち一室には神棚の間が組み込まれており、この時代の個人住宅としては珍しい設えと伝わる。

見学者の記憶に残るのは、たいてい奥の茶の間である。ここでは茶室研究家としての岡田が前に出る。網代を張った天井、部分的に組まれた格天井、そして当時としては新しかった掘りごたつ。窓の外の小さな庭には梅が植えられており、松平不昧ゆかりの木と伝えられている。不昧の茶は、庭の向こうの茶室にも影を落としている。

平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災では被害を受けたものの、躯体に致命的な損傷はなかった。前年に世を去った5代目所有者・山本清は、昭和41年(1966年)にこの家を購入した実業家で、遺言により邸宅と美術工芸品を財団に託した。財団の設立は1990年代後半(公式沿革では平成9年)で、以後この家は文化教室や施設貸出、一般公開の場として使われている。

見学は前日までの予約制。開館は10時30分から15時30分(入館は15時まで)、日曜・月曜・祝祭日は休館。入館料は大人300円、小中学生150円。阪急夙川駅から徒歩約9分、阪急苦楽園口駅から約8分、JRさくら夙川駅から約12分。春に訪れるなら、数分歩いた夙川の桜と合わせるのがいい。

Q&A

Q予約なしで見学できますか。
Aできません。見学は前日までの予約が必要で、公式サイトの問い合わせフォームまたは電話で申し込みます。文化教室や施設貸出で使用中の場合など、断られることもあります。
Q山本家が建てた家なのですか。
Aいいえ。当初の施主は鳥取県出身の鉄山経営者・近藤壽一郎です。山本清は昭和41年(1966年)に5代目の所有者となった人物で、その遺言で設立された財団が現在この建物を守っています。
Q登録有形文化財と重要文化財はどう違うのですか。
A登録は平成8年(1996年)に始まった仕組みで、指定より規制が緩やかです。所有者は建物を使い続けながら、外観を変更する際に届出を行います。重要文化財の指定は現状変更に厳しい制限がかかり、求められる価値の水準も高くなります。
Q敷地内のほかの建物も登録されていますか。
A主屋のほかに、表門及び塀、門衛所、蔵、茶室の4棟が登録されています。いずれも平成19年(2007年)12月に同時登録されました。
Q庭も見られますか。
A敷地内には前庭、中庭、茶の間から眺める小庭、そして主庭の4か所の庭があります。庭だけの見学ではなく、予約した見学のなかで建物とあわせて見ることになります。

基本情報

名称旧山本家住宅(山本清記念財団会館)主屋
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 28-0293
登録年月日平成19年(2007年)12月5日登録/同年12月19日告示(第57回)
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
年代昭和12年(1937年)/文化庁データベース。財団公式沿革は昭和13年(1938年)とする
構造及び形式等木造2階一部平屋建、瓦葺、建築面積331平方メートル
員数1棟
設計岡田孝男(大阪三越住宅建築部 技師)
施工笠谷工務店(芦屋市)
当初の施主近藤壽一郎(1880年〜1958年)
所在地兵庫県西宮市結善町(文化庁データベースは結善町3、財団公式サイトは結善町1番24号と表記)
所有者一般財団法人 山本清記念財団
交通阪急神戸線 夙川駅より徒歩約9分/阪急甲陽線 苦楽園口駅より徒歩約8分/JR神戸線 さくら夙川駅より徒歩約12分
公開状況前日までの予約制。10時30分〜15時30分(入館は15時まで)。日曜・月曜・祝祭日休館
入館料大人300円、小・中学生150円

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)旧山本家住宅(山本清記念財団会館)主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00006716
文化遺産オンライン 旧山本家住宅(山本清記念財団会館)主屋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/197709
一般財団法人 山本清記念財団 見学について
https://www.yamakiyo.jp/about.html
一般財団法人 山本清記念財団 文化財としての認定について
https://www.yamakiyo.jp/approval.html
西宮流(にしのみやスタイル)山本清記念財団(旧山本家住宅)
https://nishinomiya-style.jp/glossary/yamamotokiyoshi

最終更新日: 2026.07.22