再度公園・再度山永久植生保存地・神戸外国人墓地 — 森に刻まれた近代日本の記憶
神戸三宮の市街地から車でわずか20分。六甲山地の奥深く、再度山(標高470m)の北麓にひろがる「再度公園」は、修法ヶ原池をかこむ豊かな森と、明治以来人の手によって甦った植生、そして近代神戸の国際性を今に伝える神戸外国人墓地が一体となった、稀有な文化的景観です。
2006年(平成18年)に再度公園と再度山永久植生保存地が、都市公園として日本で初めて登録記念物(名勝地関係)に登録され、翌2007年(平成19年)2月には神戸外国人墓地を加えた三者一体で「再度公園・再度山永久植生保存地・神戸外国人墓地」として国の名勝に指定されました。森林の再生史、近代都市計画の歩み、そして異国の人々と交わった神戸の物語が、ひとつの場所に重なり合う場所です。
はげ山から甦った森 — 日本最初の都市山林緑化
幕末の慶応3年(1867年)に神戸が開港されると、街は急激に発展し、人口も建築用材・薪炭の需要も爆発的に増加しました。背後にそびえる六甲山地は、その需要に応えるかたちで樹木の乱伐がすすみ、明治末期には再度山一帯までもがはげ山と化していました。土砂崩れが頻発し、生活用水の水源も濁る——そんな環境危機のなかで、神戸市が乗り出したのが本格的な山林緑化事業でした。
1902年(明治35年)から、再度山を含む約600ヘクタールの山域で、石垣による山腹工と20数種類におよぶ多様な樹種の植栽がはじまります。これは六甲山域における最初の植生再生事業であり、その後の日本各地での都市近郊林の再生のモデルとなりました。今でも、六甲全山縦走路から再度公園へ抜ける通称「再度越」付近では、明治期に築かれた石積みを足元に確認することができます。一つひとつの石が、100年以上前にこの森を育てた人々の手仕事の痕跡です。
緑化と並行して、上水道の確保と土砂災害の防止のために修法ヶ原池が貯水池として整備され、森が十分に成熟した1937年(昭和12年)、再度公園として正式に開園しました。さらに1974年(昭和49年)、国際植生学会日本大会の現地見学会が再度山で開催されたことを契機に、神戸市は森の一部を「再度山永久植生保存地」に指定。以後5年ごとに植生や土壌の変化を継続的に調査・記録しており、その学術データは今日の六甲山系全体の緑の管理にも活かされています。
なぜ国の名勝に指定されたのか
文化庁の指定理由は、大きく二つの価値に支えられています。第一は歴史的価値。再度山一帯は六甲山域における最初の植生再生事業の舞台であり、近代日本における公園・造園文化の発展に寄与した記念的な場所です。第二は景観上の価値。指定書は「風致に富んだ優秀な景趣及び設計思想には高い芸術上又は観賞上の価値が認められる」と評しており、森と池と墓地が偶然そこにあるのではなく、明確な意図のもと一体的に構成されてきたことを高く評価しています。
そこに神戸外国人墓地が加わることで、近代神戸の発展と日本の近代化、そして国際的な交流の記憶という、もうひとつの層が重なります。森林再生史・都市公園史・国際交流史が、ひとつの景観のなかに凝縮されている——それがこの名勝の独自性です。
見どころ
修法ヶ原池と再度山の眺望
園内のハイライトは、再度山を映す修法ヶ原池です。春はツツジ、夏は深い緑、秋は紅葉と、四季それぞれに表情を変え、特に晩秋(10月下旬〜11月)の紅葉は六甲連山屈指と評されます。早朝には水面に薄い霧が立ちこめ、まるで山水画のような景観に出会えることもあります。「修法ヶ原」という地名は、弘法大師(空海)が唐に渡る前にこの地で修行したという伝承に由来します。
「再度(ふたたび)」という名の由来
再度山という名は、平安時代の高僧・弘法大師空海にまつわる伝承に由来すると伝えられています。唐への渡航前、無事を祈ってこの山で修行を行った空海が、無事帰国した後、感謝のため再びこの山を訪れて修法を行った——そこから「再び訪れた山」、すなわち「再度山」と呼ばれるようになったとされています。
外国人墓地の礼拝堂と展望台
外国人墓地は通常一般の立入が制限されていますが、高台にある礼拝堂と展望台はどなたでも入場できます(10時〜16時30分、12月〜3月は閉鎖)。展望台からは段々に並ぶ墓石が森のなかに連なる様子を一望でき、礼拝堂では墓地の歴史を紹介する映像資料も視聴できます。墓地の景観構成を理解するうえで、まず立ち寄りたい場所です。
明治期の石積み
再度越などの遊歩道沿いには、1902年の緑化事業で築かれた山腹の石積みが今も現役で土を支えています。注意深く歩くと、ほぼ全ルートに点在しているのがわかります。100年以上の時を超えて森を支え続ける、地味だが確かな歴史の証人です。
外国人墓地 — 近代日本をつくった人々が眠る森
神戸外国人墓地のはじまりは、慶応3年(1867年)12月25日、開港直前の小野浜(現在の中央区浜辺通り付近)で行われた最初の埋葬にさかのぼります。明治31年に小野浜が満杯になると春日野に新たな墓地が設けられ、昭和27年(1952年)から昭和36年(1961年)にかけて、両墓地の墓碑が修法ヶ原の現在地に移転・統合されました。約14ヘクタールの森のなかに、61か国・約2,900柱が眠っています。
埋葬されている人々のなかには、現代の私たちの生活文化に直接つながる先人たちの名が並んでいます。
- ジョン・マーシャル — 初代神戸港長
- エドワード・ハズレット・ハンター — 大阪鉄工所(現・日立造船)の創立者で、近代造船業の礎を築いた人物
- アレキサンダー・キャメロン・シム — 「ラムネ」を日本に普及させたスコットランド人薬剤師。神戸レガッタ・アンド・アスレチック・クラブ(KR&AC)の設立にも関わり、日本の近代スポーツ振興に貢献
- ヴァレンティン・F・モロゾフ — ロシア出身の洋菓子職人。日本の洋菓子文化、そしてバレンタインデーにチョコレートを贈る習慣の普及に大きな影響を与えた
- ハインリヒ・フロインドリーブ — 神戸のパン文化の礎を築いたドイツ人パン職人
- ウォルター・R・ランバス/J・W・ランバス — 関西学院創立に携わった宣教師教育者父子
- イライザ・タルカット — 神戸女学院の創立者
- エドワード・B・クラーク — 日本にラグビーを伝えた人物
また、慶応4年(1868年)の堺事件で命を落としたフランス水兵11名もここに眠り、フランス艦船が神戸港に寄港するたびに乗組員が花を手向けに訪れることで知られています。
訪問のご案内
アクセス
再度公園は神戸市北区山田町、市街地のすぐ背後の山中にあります。最も手軽な公共交通は、JR三ノ宮駅から神戸市バス25系統「森林植物園」行きに乗り、約30分で「再度公園」バス停に到着するルートです(4月〜11月の土日祝のみ運行、冬季運休)。それ以外の時期や平日は、三宮からタクシーで約20分が確実です。
季節ごとの楽しみ方
春(4〜5月)はツツジと新緑、夏(6〜7月)は涼やかな深緑、秋(10月下旬〜11月)は燃えるような紅葉。特に紅葉シーズンは六甲屈指の名所として人気があります。山間部のため携帯の電波が入りにくい場所もあり、地図はあらかじめダウンロードしておくと安心です。
外国人墓地の見学
墓地内部の一般公開は、4〜6月および9〜11月の第4日曜日のみ、事前申込制で実施されています(7・8月は熱中症予防、12〜3月は市バス運休のため非実施)。係員の案内による徒歩見学で、無料で参加できます。詳細・申込は神戸市の観光案内ページをご確認ください。墓地内部に入れない時期でも、上の礼拝堂と展望台は所定の時間内であれば自由に訪れることができます。
注意事項
園内では、バーベキュー・花火・釣り・キャンプは禁止されています。犬を連れて入る際は必ずリードを着けてください。墓地での撮影は節度ある範囲でお願いします。
周辺情報
再度公園の周辺は、神戸の歴史と自然をめぐる絶好のフィールドです。すぐ南には、弘法大師ゆかりの古刹・大龍寺がたたずみ、対照的な静寂を味わえます。近隣には世界各地の樹木を集めた神戸市立森林植物園があり、植物好きにはこちらも見逃せません。麓まで下りれば、ハイキングと組み合わせやすい布引の滝・布引ハーブ園、そして外国人墓地に眠る人々が暮らしていた異人館街・北野が広がります。森から街へと連なる空間体験こそ、この名勝を訪ねる醍醐味のひとつです。
Q&A
- なぜ再度公園は国の名勝に指定されているのですか?
- 優れた景観美と深い歴史的価値を併せ持つためです。1902年から始まった六甲山地最初の植生再生事業の舞台であり、森林・池・外国人墓地が一体となって、近代神戸の発展と日本の近代化、国際交流の歴史を物語っているという、複合的な価値が評価されています。
- 「再度(ふたたび)」というユニークな名前の由来は?
- 「再度(ふたたび)」とは、二度・もう一度という意味です。弘法大師空海が、唐への渡航前にこの山で無事を祈願して修行し、無事帰国した後、感謝のため再びこの山を訪れて修法を行ったことから「再度山」と呼ばれるようになったと伝えられています。
- 外国人墓地はいつでも見学できますか?
- 墓地内部の一般公開は、4〜6月と9〜11月の第4日曜日のみ、事前申込制で実施されます。それ以外の日は遺族以外立ち入れませんが、上部にある礼拝堂と展望台は所定の時間内(10:00〜16:30、12〜3月閉鎖)であれば自由に訪れることができ、再度公園自体は通年無料で開放されています。
- 最も美しい季節はいつですか?
- 最も人気が高いのは、修法ヶ原池の周りの紅葉が見頃を迎える10月下旬〜11月です。春のツツジと新緑、初夏の涼やかな深緑も見ごたえがあり、市街地よりも気温が低いため夏の散策にも適しています。
- 園内の施設はどのようなものがありますか?
- ビジターセンターや「こうべ森の学校」の活動拠点があり、再度公園に関する展示や資料閲覧ができます。2025年12月からはログハウス前広場にKobe Free Wi-Fiも整備され、休憩や情報収集の利便性が向上しています。
基本情報
| 指定区分 | 国指定名勝(2007年〈平成19年〉2月指定) |
|---|---|
| 登録記念物 | 2006年(平成18年)登録(都市公園として日本初) |
| 所在地 | 兵庫県神戸市北区山田町下谷上字中一里山4-1 |
| 面積 | 再度公園 約51.5ヘクタール/神戸外国人墓地 約14ヘクタール |
| 公園開園 | 1937年(昭和12年) |
| 緑化事業開始 | 1902年(明治35年)— 六甲山域における最初の植生再生事業 |
| 外国人墓地の現在地への統合 | 1961年(昭和36年)— 小野浜・春日野両墓地から移転完了 |
| 埋葬数 | 61か国 約2,900柱 |
| 所有・管理 | 神戸市 |
| アクセス | JR三ノ宮駅より車で約20分/神戸市バス25系統「再度公園」下車(4〜11月の土日祝のみ運行) |
| 料金 | 公園は無料/外国人墓地内部は事前申込制の公開日のみ見学可 |
参考文献
- 国名勝「再度公園・再度山永久植生保存地・神戸外国人墓地」(神戸市)
- https://www.city.kobe.lg.jp/a17526/kanko/leisure/mountain/futatabi.html
- 再度公園(神戸市建設局公園部)
- https://www.city.kobe.lg.jp/a17526/kurashi/machizukuri/park/intoro/kobepark/futatabi.html
- 神戸市立外国人墓地の公開(神戸市)
- https://www.city.kobe.lg.jp/a17526/kanko/event/graveyard.html
- 再度公園・再度山永久植生保存地・神戸外国人墓地(文化遺産オンライン)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/174035
- 神戸市立外国人墓地(Wikipedia)
- https://ja.wikipedia.org/wiki/神戸市立外国人墓地
- 再度公園(Wikipedia)
- https://ja.wikipedia.org/wiki/再度公園
- 名勝再度公園・再度山永久植生保存地・神戸外国人墓地:保存管理計画策定報告書(全国遺跡報告総覧)
- https://sitereports.nabunken.go.jp/en/67902
最終更新日: 2026.05.10