旧飛田家住宅:茨城県最古の曲屋形式農家建築
茨城県古河市の古河公方公園(古河総合公園)の緑豊かな園内に佇む旧飛田家住宅(きゅうとびたけじゅうたく)は、18世紀前半に建てられた日本の農村建築の貴重な遺構です。1968年(昭和43年)に国の重要文化財に指定されたこのL字型の茅葺き農家は「曲屋(まがりや)」と呼ばれる独特の建築様式で、茨城県内に現存する曲屋形式の農家としては最も古いものとされています。
もともとは茨城県北部の久慈郡金砂郷村(現在の常陸太田市)にあった飛田徳有氏の住宅でしたが、1975年(昭和50年)に現在の古河市へ移築されました。ユネスコのメリナ・メルクーリ国際賞を日本で初めて受賞した文化景観公園の中で、江戸時代の農村の暮らしを今に伝える貴重な存在です。
曲屋(まがりや)とは? L字型農家の知恵
「曲屋」とは、母屋から馬屋(うまや)が突き出すようにL字型の平面を持つ独特の農家建築のことです。この建築様式は、主に関東北部から東北地方にかけての寒冷地で発展しました。
曲屋の最大の特徴は、農耕に不可欠だった馬を住居の一部として飼育したことにあります。厳しい冬の寒さの中で馬を屋外の厩舎に置くのは困難であったため、母屋に直結する形で馬屋を設けることで、人と馬が互いの体温と、かまど(kamado)の暖気を共有しながら厳冬を乗り越える工夫が生まれました。
岩手県遠野地方の「南部曲り家」が最もよく知られていますが、茨城県北部の常陸太田市や那珂市周辺にも同様のL字型農家が分布しています。旧飛田家住宅はこの伝統の中でも特に古い遺例であり、曲屋形式の成立時期を理解する上で極めて重要な建造物です。
なぜ重要文化財に指定されたのか
旧飛田家住宅が1968年に国の重要文化財に指定された理由は、主に以下の三つの価値に基づいています。
第一に、その建築年代です。構造手法の分析から18世紀前半の建立と推定されており、茨城県内で知られる曲屋形式の農家建築の中で最も古いものとされています。初代夫婦のものと思われる位牌に延享元年(1744年)および寛延元年(1748年)の没年が記されていることも、年代推定の重要な根拠となっています。
第二に、保存状態の良さです。数世紀にわたり幾多の改造や補修が行われてきたにもかかわらず、構造や平面にはそれほどの変化がなく、よく旧状態を残しています。この原形に近い姿が、学術研究においてきわめて高い価値を持っています。
第三に、建築史上の意義です。母屋から馬屋が突出する曲屋形式は、別棟形式の民家との関連を知るために重要な建築類型とされており、旧飛田家住宅はその貴重な実例として評価されています。
建築の特徴と見どころ
旧飛田家住宅は、寄棟造(よせむねづくり)の茅葺き屋根を持つ平屋建ての建物です。平面積は約142.46平方メートル、桁行(けたゆき)16.92メートル、梁間(はりま)7.399メートルという堂々たる規模を持ちます。
間取りは曲屋の典型的な配置に従っています。南側のL字型突出部には厩(うまや)が設けられ、農耕馬が飼育されていました。西側は広い土間(どま)で、炊事や農作業、日常の仕事場として使われた土足の作業空間です。中央には板の間(いたのま)が広がり、家族の主な生活空間でした。東北奥には寝室としての部屋があり、東側にはさらに座敷(ざしき)と板の間が続き、来客の応接や家事に使われていました。
見どころの一つは、釘を一切使わず組み上げられた見事な木組みの小屋組です。太い梁と精緻な継手仕口が、江戸時代の匠の技を雄弁に物語っています。また、茅葺きの厚い屋根は、夏の暑さと冬の寒さの両方から住まいを守る優れた断熱性能を持っています。
古河公方公園の魅力
旧飛田家住宅が保存されている古河公方公園は、約25ヘクタールの広大な都市公園です。15世紀中頃、鎌倉公方の足利成氏が古河に移り館を構えた歴史的な場所であり、園内には古河公方館跡の土塁や堀の跡が今も残っています。
公園は全国的に有名な花桃の名所であり、春には約2,000本の桃の花が紅白に咲き誇り、「古河桃まつり」が盛大に開催されます。初夏には、2,000年以上前の種子から蘇った大賀ハス(古代ハス)が蓮池に大輪の花を咲かせます。
2003年には、文化景観の保護と管理における顕著な功績が認められ、ユネスコとギリシャが主催する「メリナ・メルクーリ国際賞」を日本で初めて受賞しました。民家園には旧飛田家住宅のほか、延宝2年(1674年)頃の建築と推定される茨城県指定文化財の旧中山家住宅も併設されています。
見学のご案内
旧飛田家住宅は、古河公方公園の開園時間中(日の出から日没まで)に外観を見学することができます。内部見学についても可能な場合がありますので、事前に古河市教育委員会または公園管理棟にお問い合わせください。公園への入園は無料ですが、桃まつり期間中は駐車場が有料(約500円)となります。
旧飛田家住宅の見学と合わせて、広大な園内の散策をお楽しみください。復元された御所沼や森の小径、季節の花々を巡りながら、1〜2時間ほどでゆったりとお過ごしいただけます。
周辺情報
古河市とその周辺には、公園以外にも多彩な文化・歴史スポットがあります。古河歴史博物館では城下町としての古河の歴史を学ぶことができ、鷹見泉石記念館では江戸時代の蘭学者・画家として名高い鷹見泉石の足跡を辿ることができます。古河の中心部には昔ながらの商家や寺院が点在し、城下町の風情を残す落ち着いた街歩きが楽しめます。
伝統建築にさらに興味がある方には、同じ公園内の旧中山家住宅や、かすみがうら市の椎名家住宅(建立年代が判明している東日本最古の民家の一つ)など、茨城県内の他の重要な歴史的住宅の訪問もお勧めです。
Q&A
- 曲屋(まがりや)とは何ですか?旧飛田家住宅はなぜ重要なのですか?
- 曲屋とは、母屋に馬屋を直結させたL字型の平面を持つ伝統的な農家建築です。旧飛田家住宅は18世紀前半の建立と推定され、茨城県最古の曲屋として1968年に国の重要文化財に指定されています。
- 入場料はかかりますか?
- 古河公方公園への入園は無料です。駐車場も通常は無料ですが、桃まつり期間(3月下旬〜4月上旬)のみ約500円の駐車料金がかかります。
- 東京からのアクセス方法を教えてください。
- JR宇都宮線(東北本線)で上野駅または東京駅から古河駅まで約60〜70分。古河駅からはタクシーで約10分、徒歩では約40分です。市内循環バス「ぐるりん号」も利用可能です。お車の場合は、東北自動車道の館林ICから約20分です。
- 見学に最適な季節はいつですか?
- それぞれの季節に魅力があります。春(3月下旬〜4月上旬)は約2,000本の花桃が咲く桃まつり、夏(6〜7月)は大賀ハスの開花、秋は紅葉、冬は静寂の中でじっくり建築を鑑賞できる時期です。
- 休園日はありますか?
- 毎週月曜日・火曜日が休園日です(月曜・火曜が祝日の場合は開園し、水曜日が休園)。ただし3月〜5月は無休で開園しています。年末年始(12月29日〜1月3日)も休園となります。
基本情報
| 名称 | 旧飛田家住宅(きゅうとびたけじゅうたく) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国指定重要文化財(1968年〔昭和43年〕指定) |
| 推定建立年代 | 18世紀前半(江戸時代中期) |
| 建築様式 | 曲屋(まがりや)形式、寄棟造、茅葺き |
| 平面積 | 約142.46㎡ |
| 規模 | 桁行16.92m / 梁間7.399m |
| 旧所在地 | 茨城県久慈郡金砂郷村(現・常陸太田市) |
| 現所在地 | 〒306-0041 茨城県古河市鴻巣1024(古河公方公園内) |
| 所有者 | 古河市 |
| 開園時間 | 日の出から日没まで(管理棟・駐車場:9:00〜17:00) |
| 休園日 | 毎週月曜日・火曜日(祝日の場合は開園、翌水曜休園)、年末年始(12/29〜1/3)※3〜5月は無休 |
| 入園料 | 無料 |
| アクセス | JR宇都宮線 古河駅からタクシー約10分/徒歩約40分、東北自動車道 館林ICから車約20分 |
| お問い合わせ | 古河市教育委員会 生涯学習課:0280-22-5111 |
参考文献
- 旧飛田家住宅 – 茨城県教育委員会
- https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/kuni-14/
- 【国指定文化財】旧飛田家住宅(建造物) - 古河市
- https://www.city.ibaraki-koga.lg.jp/soshiki/bunka/15/siteitourokubunnkazai/kogabunkazaikennzoubutu/2400.html
- 旧飛田家住宅 | こがナビ|古河市観光協会
- https://www.kogakanko.jp/spot/tour/tobita
- 古河公方公園 公式サイト
- https://koga-kousya.or.jp/koga-park/
- 旧飛田家住宅 - Wikipedia
- https://ja.m.wikipedia.org/wiki/旧飛田家住宅
- 旧飛田家住宅(旧所在 茨城県久慈郡金砂郷村) - 日本文化財デジタルアーカイブ化
- https://bunka3d.com/heritage/783/
- 古河公方公園 公園案内
- https://koga-kousya.or.jp/koga-park/annai/
最終更新日: 2026.03.22