武蔵屋店舗 ― 旧日光街道に佇む明治中期の土蔵造り料理屋建築

茨城県の西端に位置する古河市。かつて古河藩の城下町であり、日光街道の宿場町として栄えたこの町の中心部、よこまち柳通り(旧日光街道)に面して、堂々とした黒壁の二階建て建物が静かに佇んでいます。これが国登録有形文化財「武蔵屋店舗」(むさしやてんぽ)です。明治中期の建築と伝わる土蔵造2階建の料理屋建築で、現在も創業から100年を超えるうなぎ料理店として営業を続けています。

武蔵屋は、単に古い建物として保存されているだけではありません。現役の飲食店として人々を迎え入れ、古河宿の歴史と街道筋の記憶を、今を生きる時間のなかに繋いでいる、貴重な「生きている文化財」です。

武蔵屋店舗とは

武蔵屋店舗は、土蔵造2階建、寄棟造桟瓦葺の料理屋建築です。外壁は艶やかな黒塗りで、腰の部分まで石貼りが施されています。この黒壁と石貼りの組み合わせは、防火性に優れているとともに、店構えに重厚な風格を与えています。2階前面には開放的な縁側が通され、木製の手摺りが設けられており、かつて二階のお座敷からは旧日光街道の往来を眺めることができたと考えられます。

建築面積は約72平方メートル、敷地正面には門が設けられています。規模としては大きすぎず小さすぎず、明治期の都市型料理屋建築として、品格と職人の技量がよく伝わる端正な構えを保っています。

江戸時代まで遡る歴史

武蔵屋の歴史は江戸時代末期まで遡ります。当時、この地には「漆屋(うるしや)」という名の茶屋が営まれており、日光街道を行き交う旅人たちに憩いの場を提供していました。古河宿は江戸・日本橋を起点とする日光街道の宿場のひとつで、将軍家による日光社参の際には岩槻城・宇都宮城と並んで将軍の宿城とされた重要な拠点でもありました。

明治44年(1911年)、漆屋は本格的な料理屋へと業態を改め、屋号も「武蔵屋」と改称されました。現存する建物は明治中期の建築と伝えられ、築130年以上の年月を経ています。明治・大正・昭和・平成・令和の五代にわたり、戦争や時代の大きな変化を経ながら、建物と暖簾を守り続けてきました。

平成22年(2010年)11月から平成23年(2011年)12月にかけては大規模な修復・模様替えが行われ、古い柱や壁を保存しつつ内部設備が整えられました。新装開店から間もない平成25年(2013年)6月21日、「武蔵屋店舗」として国の登録有形文化財に登録されています。

なぜ文化財に指定されたのか

登録有形文化財は、特に明治・大正・昭和初期の近代建築を中心に、地域の文化的景観を形づくる歴史的建造物を幅広く保護するために設けられた制度です。武蔵屋店舗は、古河宿の面影を今に伝える宿場町の街並みの核となる建物であり、また土蔵造の都市型料理屋建築という、現存例が次第に少なくなっている類型を代表する建造物として、登録対象に選ばれました。

その文化財としての価値は、おおむね三点にまとめることができます。第一に、明治後期の宿場町における高品質な商家建築の現存例であること。黒漆喰の外壁、腰までの石貼り、開放的な二階縁側など、上質な都市型料理屋の意匠的特徴をよく備えています。第二に、旧日光街道(現・よこまち柳通り)の街路景観を構成する重要な要素であり、近世から近代にかけての街道風景の記憶を保存していること。第三に、同じ家業が建物の中で100年以上にわたり料理屋として継続的に営まれてきたという、まれに見る「生きた文化遺産」としての側面を持つことです。

見どころ

黒壁の店構え

武蔵屋の最も印象的な特徴は、街道に面して堂々と立ち上がる艶やかな黒壁の外観です。土蔵造特有の厚い土壁の上に幾層もの漆喰が塗り重ねられ、最後に黒塗りで仕上げられています。これは美観のためだけでなく、家屋が密集した宿場町で常に脅威であった火災から建物を守るための実用的な工夫でもありました。通りから見上げると、明治の頃にはこの建物が周囲よりひときわ高く堂々と聳え立ち、店の格を強く印象付けていたことが想像されます。

2階の縁側と手摺り

建物正面、2階に通された開放的な縁側と、その縁を縁取る細やかな木製の手摺りは、装飾以上の意味を持っています。明治・大正の頃、二階の座敷に上がった客は、この縁側越しに往来の賑わいを眺めながら酒食を楽しむことができました。料理屋ならではの「もてなしの建築意匠」を象徴する場所と言えるでしょう。

うなぎ料理の老舗として

現在の武蔵屋は、うなぎ料理の専門店として知られています。長年受け継がれてきたタレで丁寧に焼き上げられたうなぎを、ご飯とともに重箱で味わう喜びは、日本料理の代表的な伝統のひとつ。文化財に指定された建物の中で、その伝統に直に触れることができます。1階はホール席、2階はお座敷席となっており、5~15名程度の小宴会から、貸し切りでの団体利用まで対応しています。

旧日光街道の街並み

武蔵屋が面しているのは、現在「よこまち柳通り」と呼ばれている旧日光街道の一角です。問屋場、旅籠、茶屋などが軒を連ねた、かつての古河宿の中心部にあたります。この通りを散策しながら、武蔵屋を含む歴史的建物群を眺めることで、江戸・明治の宿場町の雰囲気を肌で感じることができます。

関東の奇祭・古河提灯竿もみまつり発祥の地

武蔵屋の向かい側には、「関東の奇祭・古河提灯竿もみ祭り 発祥の地」の碑が建っています。毎年12月第1土曜日に開催されるこの祭りは、各団体が長さ20メートル近い竹竿の先につけた提灯を激しく揉み合い、相手の火を消し合うという勇壮な伝統行事です。江戸時代に古河藩領であった野木神社の神事「七郷めぐり」を終えた神官たちを、提灯を持って迎え寒さを凌いだことに由来し、横山町は古くからその中心舞台でした。

周辺情報 ― 古河の歴史散策

古河の歴史的中心部は、徒歩でゆっくり巡るのに最適な広さです。武蔵屋を起点に半日から一日かけて散策する楽しみは格別です。徒歩圏内には、旧古河城出城跡に建つ古河歴史博物館があり、古河藩家老で蘭学者であった鷹見泉石の収集資料(国指定重要文化財)をはじめ、古河の文化的偉業を伝える常設展示が見られます。博物館の向かい側には、その鷹見泉石が晩年を過ごした武家屋敷を改修した鷹見泉石記念館が静かに佇んでいます。

近くの篆刻美術館は日本初の篆刻専門美術館で、大正9年築の石蔵を改修した建物自体が国登録有形文化財です。ほかに古河文学館、歴史小説家・永井路子の旧宅、そして地域屈指の古社である雀神社、関東足利氏ゆかりの古河公方公園などがあります。早春には、古河総合公園で「古河桃まつり」が開催され、色とりどりの花桃が咲き誇ります。

Q&A

Q武蔵屋店舗は中に入って見学できますか?
A武蔵屋は現役の料理店として営業しているため、お食事をされる方は店内に入ることができます。1階のホール席や2階のお座敷で食事をしながら、文化財建築の内部空間や古い梁・柱を直接味わえるのが大きな魅力です。特に2階のお座敷や団体での利用は、事前のご予約をおすすめします。
Q東京方面からのアクセス方法を教えてください。
A武蔵屋はJR古河駅西口から徒歩約8分の距離にあります。JR古河駅は宇都宮線(上野東京ライン・湘南新宿ラインも停車)の沿線で、上野駅・東京駅から直通でおおむね60〜70分。東京都心からの日帰り訪問にも適した立地です。
Q建物の建築年代と文化財登録の時期を教えてください。
A現存する建物は明治中期(おおむね1880〜1890年代頃)の建築と伝えられています。同じ場所には江戸時代末期に「漆屋」という茶屋があり、明治44年(1911年)に料理屋へ転業して屋号を「武蔵屋」に改めました。建物は平成25年(2013年)6月21日に国登録有形文化財として登録されています。
Qどのような料理が味わえますか?
A武蔵屋はうなぎ料理を専門とする料理店です。代表的なお品書きには、香ばしく焼き上げたうなぎを重箱でいただく鰻重をはじめ、季節の和惣菜を伴う本格的なうなぎ料理コースなどがあります。2階座敷を利用した宴会やご会食にも対応しています。
Q訪問におすすめの時期はありますか?
A古河は四季を通じて魅力ある町ですが、特に3月下旬の「古河桃まつり」と、12月第1土曜日に武蔵屋の目の前の通りで行われる「古河提灯竿もみまつり」は見応え十分です。日本では夏の土用の丑の日にうなぎを食する習慣があり、夏の訪問も格別の意味を持ちます。いずれの季節でも、よこまち柳通り一帯の歴史的な街並みは静かで風情があり、観光客で混み合うことが少ないのも魅力です。

基本情報

名称 武蔵屋店舗(むさしやてんぽ)
指定区分 国登録有形文化財(建造物)/登録番号 第08-0256号
登録年月日 平成25年(2013年)6月21日
建設年代 明治中期(19世紀後半)
構造 土蔵造2階建、寄棟造桟瓦葺、外壁黒塗りで腰まで石貼り、門付、建築面積約72㎡
用途(沿革) 料理屋。江戸末期に同地で営まれた茶屋「漆屋」を前身とする
現在の用途 うなぎ料理店「武蔵屋」
所在地 〒306-0022 茨城県古河市横山町1-5535-2(旧日光街道・よこまち柳通り沿い)
所有者 株式会社武蔵屋
アクセス JR古河駅(宇都宮線/上野東京ライン/湘南新宿ライン)西口より徒歩約8分
備考 営業中の料理店です。営業時間・定休日等は変更となる場合がありますので、ご訪問前に公式ウェブサイトでご確認ください。お食事のご予約をおすすめします。

参考文献

武蔵屋店舗 ― 茨城県教育委員会「いばらきの文化財」
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-6017/
武蔵屋公式ウェブサイト(国登録有形文化財 旧日光街道沿いの鰻料理店)
http://www.musashiya.info/index.html
指定・登録文化財 ― 古河市公式ホームページ
https://www.city.ibaraki-koga.lg.jp/soshiki/bunka/15/siteitourokubunnkazai/index.html
古河宿 ― ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E6%B2%B3%E5%AE%BF
日光街道から肴町通りへ ― 古河市観光協会(こがナビ)
https://www.kogakanko.jp/history/nikkokaido_sakanamachi
提灯竿もみまつり ― 古河市観光協会
https://www.kogakanko.jp/chochin
古河歴史博物館 ― 古河市公式ホームページ
https://www.city.ibaraki-koga.lg.jp/soshiki/rekihaku/top.html

最終更新日: 2026.05.06