中庭の南に横たわる蔵

篆刻美術館裏蔵棟(旧平野家裏蔵棟)は、茨城県古河市中央町にある大正9年(1920年)建築の石造2階建の蔵で、平成10年(1998年)に登録有形文化財となった。

通りに面した表蔵棟が上に伸びるのに対し、こちらは横に伸びる。古河市の記録では間口14.544メートル、奥行4.545メートル、建築面積66.10平方メートル。奥行は廊下ほどしかなく、間口はその3倍を超える長さになる。中庭の南側に沿って置かれ、庭の側を向いている。

屋根は瓦葺の切妻造で、飾りはない。文化庁の記録はこれを標準的な切妻造の石蔵と書いている。この「標準的」という一語が実情をよく示す。篆刻美術館裏蔵棟は旧平野家の作業側にあたる建物で、荷が入り、荷が出て、道から眺められることは想定されていなかった。

だから残り方がよい。飾らなかった蔵は、改装され続けなかった蔵でもある。石の積み方も、比率も、小屋組も、大正期の古河の商家が収納のために実際に建てたものとして今も読み取れる。

2棟が揃って登録された意味

篆刻美術館裏蔵棟が登録有形文化財として国の登録簿に載ったのは平成10年(1998年)10月9日で、登録番号は08-0005。適用基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。通りに面した表蔵棟も同じ日に08-0004として登録された。1件を分割したのではなく、別々の物件として2件が登録されている。

2棟とも登録されたことに意味がある。蔵が1棟だけ残っていても、商家が蔵を持っていたという事実しか伝わらない。表と裏が中庭を挟んで直角に建ち続けていれば、敷地がどう組み立てられていたかが分かる。通り側に見せる棟、奥に収納の棟という配置である。旧城下町・古河でこの対がまとまって残った例はまれで、先に失われやすいのは裏蔵棟にあたる奥側のほうである。

登録は使い続けることを前提とした制度なので、この建物も凍結されずに転用された。改修時には前後に事務棟と土庇が接続され、内部は篆刻美術館の第3・第4・第5展示室になった。篆刻美術館は平成3年(1991年)春、日本で最初の篆刻専門の美術館として開館している。

小屋組と越屋根、そして中庭

階段を上る価値は2階にある。篆刻美術館裏蔵棟の1階は2室に区分されるが、2階は仕切らず1室とし、その上の小屋組を見せている。キングポストトラスである。垂木がつくる三角形の頂点から、陸梁の中央へ真束が1本降りる形で、これは洋式の小屋組にあたる。大正9年の日本の石蔵の内側でこれに出会うのは、輸入された架構法が地方の大工にどれだけ早く届いていたかを示す小さな証拠になる。梁の上に長さの違う束を立てていく和小屋と見比べると違いが分かる。

次は光を探してほしい。棟の上に越屋根が載っている。屋根の一部を持ち上げ、その側面に開口を設けたもので、明かり取りとして働く。蔵は本来暗い。厚い石の壁は光も含めて外を遮るためにある。越屋根は壁に窓を増やさずに中央へ光を落とす仕掛けで、晴れた日にはそれが床のどこに届いているかを目で追える。

第3から第5展示室の内容はテーマ展ごとに入れ替わるので、篆刻美術館裏蔵棟の中の景色は訪れるたびに変わる。開館35周年にあたる2026年には、篆刻家・石井雙石の作品とあわせて石蔵そのものが企画展の主題に組み込まれ、掛かっている作品だけでなく建物も展示対象になった。

外へ出たら中庭に立ちたい。北側に表蔵棟が立ち上がり、2棟の屋根が空を四角く切り取る。旧平野家の敷地の骨格が一目で読めるのはこの位置だけである。

篆刻美術館裏蔵棟の見学方法

篆刻美術館裏蔵棟へは、通りに面した表蔵棟の脇を抜け、中庭を渡って入る。到達までの順序がそのまま旧平野家の敷地の使われ方をなぞっているので、急がずに歩きたい。

受付が開くのは午前9時、閉館は午後5時で、入れるのは午後4時30分まで。料金は一般が200円、小中高生が50円である。20名以上でまとまれば1人150円になり、古河歴史博物館・古河文学館と合わせた三館共通券なら600円で済む。企画展の会期中は別料金が設定されることがある。

閉まっているのは月曜日。ただし月曜が祝日なら開き、代わりに翌平日が休みになる。毎月第4金曜日は館内整理日、年末年始も休みで、古河市が年間の開館予定表を公開している。

館内撮影の扱いは古河市の公式ページに記載がなく、受付で尋ねるのが確実である。篆刻美術館裏蔵棟の外観については、公道からの撮影に制限はない。

最寄りはJR宇都宮線の古河駅で、西口から歩いて約8分、上野や新宿からは約60分かかる。西口を直進、花屋の先の交差点を左折し、本町二丁目の交差点を渡って館名を冠した信号まで進む。東武日光線の新古河駅からなら徒歩約25分。市の循環バス「ぐるりん号」西コースも古河駅西口から美術館前まで走っている。車の場合は入口の向かいに砂利敷きの駐車場がある。篆刻体験は駅寄りへ徒歩1、2分の美術学習室で、予約制。2棟を落ち着いて見るなら40分ほどをみておきたい。

Q&A

Q篆刻美術館裏蔵棟の内部は見学できますか。
A見学できます。篆刻美術館の第3・第4・第5展示室にあたり、開館日は午前9時から午後5時まで入れます。最終入館は午後4時30分、一般の入館料は200円です。
Q篆刻美術館裏蔵棟の小屋組はどのような構造ですか。
A2階に現しで見えるキングポストトラスです。棟から陸梁の中央へ真束が1本降りる形で、洋式の小屋組にあたります。大正9年(1920年)の日本の石蔵に採り入れられている点が見どころです。
Q篆刻美術館裏蔵棟はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A大正9年(1920年)に平野家の蔵として建てられ、平成10年(1998年)10月9日に登録有形文化財となりました。登録番号は08-0005です。
Q篆刻美術館裏蔵棟へは古河駅からどう行きますか。
AJR宇都宮線・古河駅西口から徒歩約8分です。西口を直進し、花屋の先を左折して本町二丁目の交差点を渡ります。裏蔵棟へは、通りに面した表蔵棟の脇から中庭を抜けて入ります。
Q篆刻美術館裏蔵棟の大きさはどのくらいですか。
A古河市の記録では間口14.544メートル、奥行4.545メートル、建築面積66.10平方メートルの2階建です。1階は2室に分かれ、2階は仕切りのない1室になっています。

基本情報

名称篆刻美術館裏蔵棟(旧平野家裏蔵棟)
所在地茨城県古河市中央町2丁目5655-1他
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成10年(1998年)登録
員数1棟
寸法間口14.544メートル、奥行4.545メートル、建築面積66.10平方メートル
所有者古河市
公開状況篆刻美術館の第3・第4・第5展示室として公開。午前9時から午後5時、有料

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「篆刻美術館裏蔵棟(旧平野家裏蔵棟)」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000812
古河市「【国登録文化財】篆刻美術館裏蔵棟 - 旧平野家裏蔵棟(建造物)」
https://www.city.ibaraki-koga.lg.jp/soshiki/bunka/15/siteitourokubunnkazai/kogabunkazaikennzoubutu/2417.html
古河市 篆刻美術館「利用案内」
https://www.city.ibaraki-koga.lg.jp/soshiki/tenkoku/16188.html
古河市 篆刻美術館「交通案内」
https://www.city.ibaraki-koga.lg.jp/soshiki/tenkoku/16190.html
古河市 篆刻美術館「開館35周年 篆刻美術館まるごと鑑賞 - 篆刻家石井雙石と石蔵 -」
https://www.city.ibaraki-koga.lg.jp/soshiki/tenkoku/exhibition/22746.html

最終更新日: 2026.09.07