元禄の墨書が見つかった茅葺の曲屋
島家住宅主屋は、茨城県東茨城郡城里町の古内地区にある江戸中期の茅葺民家で、平成14年(2002年)8月21日に国の登録有形文化財に登録された。文化庁の国指定文化財等データベースは建設年代を江戸中期、西暦でいえば1661年から1750年ごろとし、江戸末期の1830年から1867年ごろに改造を受けたと記録している。
建物は2つの棟が直角に取り付く形をとる。桁行7間の「おもや」が暮らしの中心で、これに桁行6間の「かまや」がつながり、「かまや」の東南隅には内馬屋が設けられている。「おもや」の梁間は4間。全体の建築面積は165平方メートルで、木造平屋建、屋根は茅葺である。
茨城県教育委員会は、この構成を「分棟型民家」の系統に属するものと説明する。炊事のための小屋を主屋とは別の棟として立てる形式のことで、島家住宅主屋ではそれが一続きの曲屋のようにつながっている。裏づけとされるのが、内部に独立した扨又(さす)組を持つ架構である。棟木を合掌型の斜材で支えるこの組み方は、もともと別棟だった建物の名残と考えられている。
建てられた時期には、はっきりした物証が一つだけある。土間の柱と梁を新材に取り替えたとき、梁組から「元禄」の年号を記した墨書が見つかったと伝えられている。元禄は1688年から1704年にあたる。一方で「おもや」は柱の仕上げ方から幕末の改造と推測されており、1棟の建物に2つの時代が重なっている。
なぜ登録されたのか
島家住宅主屋の登録基準は「造形の規範となっているもの」である。登録番号は第08-0073号。景観への寄与ではなく、建物の形そのものが評価された登録だということになる。
評価の的になっているのは、曲屋部「かまや」の屋根である。南面の屋根を兜造風に切り落とし、その下の出窓に格子を立てる。茨城県教育委員会はこれを「前かぶと」式の切り落としと呼ぶ。屋根を途中で断つことで、深い茅葺の下に光と風が入る。土間の内馬屋の上は中二階になっており、屋根裏まで使い切る造りである。
登録有形文化財は、所有者が使い続けながら守っていく制度である。島家住宅主屋の場合、その担い手が平成28年(2016年)に替わった。個人の住まいだった建物が城里町へ寄贈され、以後は町と地域の人たちが手を入れている。
所在地の表記には資料によって揺れがある。文化庁のデータベースは「大字神古内字竹ノ内480」とするが、茨城県教育委員会と城里町はいずれも「上古内480番の1」と記している。地元で通っているのは上古内である。
煙が屋根を守っている
島家住宅主屋で最初に気づくのは、たいてい建物の姿より先ににおいのほうである。屋内で薪を燃やし、その煙で茅葺の裏側を燻す。燻蒸と呼ばれるこの作業を、城里町の地域おこし協力隊が月に1回ほど続けている。煙は虫の害を抑え、材を乾いた状態に保つ。人が住み、毎日かまどと囲炉裏に火を入れていた家では自然に起きていたことを、住む人がいなくなった今は意識してやらなければ成り立たない。作業は朝から夕方まで、ひたすら火を絶やさずに行われる。
土間に立てば、かまどと囲炉裏がそのまま残っているのが見える。座敷は続き間で、梁は煤を吸って黒い。
敷地の一角は茶畑である。城里町によれば、平成29年(2017年)4月、古内茶生産組合が島家住宅の圃場に「初音」の苗木を約250本植えた。下古内の清音寺に残る母木から採り育てた苗で、水戸藩主の徳川光圀が愛飲し名づけたと伝えられる茶を復活させる試みである。収穫は5月。古内茶は藤井川沿いで栽培されてきた茶で、建物とその庭の茶が同じ人たちの手で管理されているところに、この文化財の今の姿がある。
島家住宅主屋の見学とアクセス
島家住宅主屋は城里町が所有しているが、常時開いている施設ではない。公開は月に1回ほどの燻蒸日にあわせて行われ、その日は一般の見学を受け入れている。日程は月ごとに決まるので、訪ねる前に城里町役場(029-288-3111)へ確認したい。見学に料金はかからない。
外観の撮影に制限はない。屋内では火を扱っている人がいるため、三脚を立てる前にひと声かけたい。囲炉裏の煙が満ちているので、服にはにおいが残る。
古内は町の北寄りにあり、公共交通だけで着くのは容易ではない。茨城交通の路線バスはJR常磐線の水戸駅・赤塚駅と町の中心である石塚を結んでいるが、そこから先へ入る便は限られる。水戸駅から車でおよそ40分、常磐自動車道の水戸インターチェンジからは30分ほど。道は藤井川に沿って北へ上がっていく。
Q&A
- 島家住宅主屋は見学できますか。公開日と料金は?
- 月に1回ほどの燻蒸日が公開日を兼ねており、料金はかかりません。日程は月ごとに決まるため、城里町役場(029-288-3111)へ事前にご確認ください。
- 島家住宅主屋はいつ建てられたのですか?
- 文化庁の記録では江戸中期、1661年から1750年ごろの建築です。梁組から「元禄」の年号を記した墨書が見つかったと伝えられており、元禄は1688年から1704年にあたります。
- 島家住宅主屋の「かまや」とはどの部分ですか?
- 「おもや」に直角に取り付く桁行6間の棟で、もとは炊事のための別棟にあたります。東南隅に内馬屋があり、南面の屋根は兜造風に切り落とされています。
- 島家住宅主屋で行われている燻蒸とは何ですか?
- 屋内で薪を燃やし、煙で茅葺屋根の裏側を燻す保全作業です。虫の害を抑える効果があり、城里町の地域おこし協力隊が月に1回ほど実施しています。
- 島家住宅主屋へ車を使わずに行けますか?
- 難しいのが実情です。路線バスは水戸駅・赤塚駅と町中心部の石塚を結びますが、その先の便は限られます。水戸駅から車で約40分を見込み、タクシーか車の利用をおすすめします。
基本データ
| 名称 | 島家住宅主屋(しまけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 茨城県東茨城郡城里町上古内 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 2002年登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、茅葺、建築面積165平方メートル |
| 所有者 | 城里町 |
| 公開状況 | 月1回程度の燻蒸日に無料公開。日程は要事前確認 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 島家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002879
- 文化遺産オンライン 島家住宅主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/193879
- 茨城県教育委員会 島家住宅主屋
- https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-6615/
- 城里町 公共施設ガイドマップ
- https://www.town.shirosato.lg.jp/map.php?type=0&category=5
- 城里町 町長フォトニュース(平成30年4月)
- https://www.town.shirosato.lg.jp/mayor-room/mayor-photonews/mayor-photonews-heisei30/page003684.html
- 城里町 城里町ブランド推奨品 農産品
- https://www.town.shirosato.lg.jp/kankou/tokusanhin/shirosatomachi-brand-suisyouhin/page003992.html
- 城里町 都市交流日記 令和3年度
- https://www.town.shirosato.lg.jp/gyousei/toukyouto-edogawaku-toshikouryoujigyou/edogawaku-toshikouryujigyounikki/page005034.html
最終更新日: 2026.09.09