旧安倍家住宅主屋とは
旧安倍家住宅主屋(きゅうあべけじゅうたくおもや)は、岩手県奥州市水沢字日高小路にある明治前期(1868〜1882年)建築の近代和風住宅で、大正後期に増築され、令和4年(2022年)6月29日に登録有形文化財となった。
木造2階建、鉄板葺で、建築面積は191平方メートル。2階建の玄関棟と平屋の座敷棟からなり、旧安倍家住宅の5件のうち、ただ1棟の住まいである。江戸時代以来の木造の技術で建てながら、室内の随所に新しい時代の意匠を取り入れている点が、この主屋のいちばんの特徴といえる。
「造形の規範」として登録された理由
旧安倍家住宅主屋は、登録番号03-0114の登録有形文化財である。同じ屋敷のほかの4件が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」の基準で登録されたのに対し、主屋だけは「造形の規範となっているもの」の基準による。
文化庁の解説によれば、主屋は2階建寄棟造の玄関棟の西に、平屋建入母屋造の座敷棟を雁行させて配している。間取りは玄関から北西へ座敷をL字に並べ、北東の庭に面して縁をめぐらせる。玄関の上の2階は傘天井の座敷で、解説はここに数寄屋風の技巧が凝らされていると記す。
奥州市教育委員会の解説シートは、この2階座敷や、明治期の画家による襖絵を、江戸時代の武家住宅には見られない新しい時代性の表れとして挙げている。武家屋敷の構えを受け継ぎつつ、内部は近代の住まいへ踏み出した。その両面が1棟にそろっていることが、旧安倍家住宅主屋の価値になっている。
旧安倍家住宅主屋の見どころ
庭から見る2つの屋根
旧安倍家住宅主屋は、庭の側から眺めると屋根の違いがよく分かる。2階建の部分は軽やかな寄棟造、平屋の座敷部分は寺社建築のような入母屋造で、解説シートは形式をあえて違えた対比的な外観だと説明している。近づくと、妻飾りだけでなく戸袋にまで細かな彫刻が施されているのに気づく。
上座敷
庭に面した「上座敷」は、旧安倍家住宅主屋でもっとも格式の高い部屋である。天井の回縁を二重にまわし、床の間は杢目の美しいケヤキの板、杉皮付きの丸太を使った床柱、貝殻を混ぜた砂壁で構成される。隣の中座敷との境の欄間には、細かな組子細工が入る。
玄関まわりと佐藤耕雲の襖絵
武家住宅によくある式台付きの玄関ではなく、旧安倍家住宅主屋の入口は近代的な内玄関になっている。土間に敷かれたタイルは、大正時代に安倍家が医院として改造した頃のものと推定されている。
玄関の間の襖絵は、落款から佐藤耕雲(安政元年〈1854年〉〜大正9年〈1920年〉)の筆と分かる。耕雲は水沢伊達家の家臣、佐藤左衛門の息子で、この日高小路に住んでいた人物である。同じ部屋の天井は、板を矢羽根の形に張り合わせた凝ったつくりで、足もとと頭上の両方に目を配りたい。
茶の間
茶の間の壁には、金物で飾った箪笥と神棚が造り付けで埋め込まれている。その左手に平書院を設け、杉皮付き丸太の中敷居と合わせて、床を備えた座敷風の茶の間に仕立てている。
2階の座敷
玄関棟の2階は、1階の上座敷とは対照的に自由な意匠の部屋である。天井は中央が高く持ち上がり、文化庁の解説は傘天井、市の解説シートは舟底天井と表現している。砂壁には大粒の貝殻片を散らし、曲がった木を自在に組み合わせた床の間を構える。数寄屋造の遊び心が、旧安倍家住宅主屋のなかでもっともはっきり表れた空間である。
旧安倍家住宅主屋の見学
旧安倍家住宅主屋の内部は、奥州市が受け付ける予約制の見学で見ることができる。市の解説シートは上座敷・茶の間・玄関まわり・2階座敷を見どころに挙げているが、当日どの部屋まで案内されるか、2階に上がれるかは、予約の際に確かめておくとよい。
外観を見るなら、北側の庭に立って南を向くのがよい。左手の2階建の寄棟と、右手に低く広がる入母屋の座敷棟が並び、雁行する配置と屋根の違いが一度に目に入る。屋敷全体への行き方と公開期間は、旧安倍家住宅のページにまとめてある。
Q&A
- 旧安倍家住宅主屋はいつ建てられたのですか?
- 文化庁のデータベースでは明治前期(1868〜1882年)の建築で、大正後期に増築されたとされています。安倍家がこの地に屋敷を構えたのは弘化3年(1846年)と推定されており、主屋は明治前期に建て替えられたものです。
- 旧安倍家住宅主屋はなぜ登録有形文化財になったのですか?
- 「造形の規範となっているもの」の基準で、令和4年(2022年)6月29日に登録されました。寄棟造の玄関棟と入母屋造の座敷棟を雁行させた構成や、数寄屋風の2階座敷が評価されています。
- 旧安倍家住宅主屋の襖絵は誰が描いたのですか?
- 玄関の間の襖絵は、落款から水沢の画家、佐藤耕雲(1854〜1920年)の作と分かります。耕雲は水沢伊達家の家臣の息子で、同じ日高小路に住んでいました。
- 旧安倍家住宅主屋の2階座敷の天井はどんな形ですか?
- 中央が高く持ち上がった天井で、文化庁の解説は傘天井、奥州市の解説シートは舟底天井と呼んでいます。砂壁に大粒の貝殻片を散らし、曲木を組んだ床の間を備えた数寄屋風の部屋です。
- 旧安倍家住宅主屋の中は見学できますか?
- 奥州市の予約制見学で見られます。公開は3月20日から11月15日までの平日、午前10時から正午と午後1時から午後5時までで、無料です。申し込みは奥州市教育委員会の歴史遺産課へ。
基本情報
| 名称 | 旧安倍家住宅主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 岩手県奥州市水沢字日高小路21 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)、登録番号03-0114 |
| 指定年 | 令和4年(2022年)6月29日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、鉄板葺、建築面積191平方メートル |
| 所有者 | 奥州市 |
| 公開状況 | 予約制で公開(3月20日〜11月15日の平日、無料) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース 旧安倍家住宅主屋(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014220
- 歴史的建造物公開事業解説シート「近代和風建築 旧安倍家住宅」(奥州市教育委員会歴史遺産課)
- https://www.city.oshu.iwate.jp/material/files/group/79/54753_182573_misc.pdf
- 旧安倍家住宅(奥州市公式ホームページ おうしゅう旅浪漫)
- https://www.city.oshu.iwate.jp/kanko/osusume/4/3/889.html
最終更新日: 2026.09.28