香川県立善通寺第一高等学校 旧正門 ― 大正の煉瓦が語る善通寺の百年
香川県善通寺市の閑静な学園地区に、ひっそりと佇む煉瓦造りの門があります。香川県立善通寺第一高等学校(旧私立善通寺高等女学校)の旧正門です。大正11年(1922年)、陸軍特別大演習の統監部がこの女学校に設置されたことを記念して建てられたこの門は、百年以上の時を経た今もなお、重厚な姿で地域の歴史を静かに伝え続けています。
歴史的背景 ― 女学校の歩みと旧正門の誕生
この旧正門の歴史は、善通寺における女子教育の歴史と深く結びついています。学校の前身は、明治39年(1906年)に古市カネによって創立された「私立静修裁縫女学校」です。まだ地方における女子教育の機会が限られていた時代に、この地に学びの場が生まれました。その後、明治44年に「私立善通寺実科高等女学校」、大正9年には「私立善通寺高等女学校」と名称を変えながら発展を続けます。
大正11年(1922年)、この地域で陸軍特別大演習が実施されました。陸軍特別大演習とは、複数の師団が参加する大規模な軍事演習であり、天皇が大元帥として統裁する国家的行事でした。善通寺は旧陸軍第11師団の所在地として「軍都」と呼ばれるほど軍との結びつきが強く、この大演習の統監部が善通寺高等女学校に置かれました。この歴史的な出来事を記念して建設されたのが、現在まで残る煉瓦造りの正門です。
学校はその後、昭和19年に香川県立に移管され、昭和24年には共学の高等学校となり、現在の「香川県立善通寺第一高等学校」に至っています。幾度もの変遷を経てもなお、大正時代に築かれたこの門は変わらぬ姿で立ち続けています。
登録有形文化財としての価値
令和7年(2025年)3月、国の文化審議会は旧正門を登録有形文化財(建造物)とするよう文部科学大臣に答申し、同年8月に正式に登録されました。評価のポイントはいくつかあります。
まず、構造上の特徴として、旧正門は4本の煉瓦造の柱で構成されています。中央の親柱2本は高さ約3.5メートル、その東西に配された脇柱2本は約2.8メートルです。いずれの柱も花崗岩の基礎の上に煉瓦を積み上げ、頂部には花崗岩製の帯飾りと笠石を載せています。この煉瓦と花崗岩の組み合わせが、大正期の建造物にふさわしい重厚かつ端正な外観を生み出しています。
加えて、この門が地域の歴史を伝える貴重な存在であることも高く評価されました。善通寺市は旧陸軍第11師団の拠点として近代日本の軍事史と深い関わりを持つ都市であり、旧正門はその歴史の一端を物語る生きた証人といえます。
見どころ ― 煉瓦と花崗岩が織りなす大正の美
歴史的建造物に関心のある方にとって、この旧正門には多くの見どころがあります。まず目を引くのは、百年以上を経てなお良好な状態を保つ煉瓦積みの美しさです。赤褐色の煉瓦は温かみのある色合いを呈し、花崗岩の灰白色と美しいコントラストを描いています。
門の構成は、中央の背の高い親柱2本が正門としての威厳を示し、両脇の低い脇柱がそれを引き立てるという伝統的な四柱門の形式をとっています。笠石の端正な佇まいや、帯飾りの繊細な仕上げなど、細部に大正期の職人の丁寧な仕事ぶりがうかがえます。
現在、学校の正門は別の場所に設けられているため、旧正門は比較的静かな環境に保たれています。近年、善通寺第一高等学校の生徒たちが門柱の計測調査に参加し、文化財登録に向けた研究に貢献してきたことも特筆すべき点です。地域の若い世代が自らの学び舎にある文化遺産の価値を再発見する取り組みは、文化財保護の理想的なあり方を示しています。
周辺の魅力 ― 善通寺市の見どころ
旧正門が位置する善通寺市は、歴史的・文化的な見どころが凝縮された魅力的な街です。
善通寺市といえば、まず挙げられるのが総本山善通寺です。弘法大師空海の誕生地として知られるこの寺院は、四国八十八ヶ所霊場の第75番札所であり、高野山・東寺と並ぶ弘法大師三大霊跡のひとつです。約45,000平方メートルの広大な境内には、国の重要文化財である金堂や五重塔が建ち、樹齢千数百年と伝わる大楠が圧巻の存在感を放っています。
善通寺の軍事遺産も見逃せません。旧善通寺偕行社は、明治36年(1903年)に建設された旧陸軍第11師団の将校集会所で、国の重要文化財に指定されています。美しい洋風建築を間近に見学でき、カフェも併設されています。また、乃木館(旧第11師団司令部)は資料館として一般公開されており、善通寺と軍との関わりを学ぶことができます。
食の楽しみも豊富です。香川県は讃岐うどんの本場であり、善通寺市周辺にも山下うどんや長田 in 香の香など名店が点在しています。また、善通寺門前の熊岡菓子店で販売される石のように硬い伝統菓子「カタパン」は、ユニークなお土産として人気を集めています。
アクセス・見学情報
旧正門は、香川県善通寺市文京町一丁目1391の香川県立善通寺第一高等学校の敷地内に位置しています。JR土讃線善通寺駅から南へ徒歩約10分です。高松駅からはJR特急列車で善通寺駅まで約40分、高松空港からは車で約1時間のアクセスです。
門は学校の敷地内にあるため、公道からの見学が基本となります。入場料は不要です。旧正門の見学と合わせて、近隣の総本山善通寺や旧善通寺偕行社、乃木館などを巡るコースを組むと、善通寺の多層的な歴史を半日ほどで堪能できるでしょう。
車でのアクセスの場合は、高松自動車道の善通寺インターチェンジから市内中心部まで約5分です。
Q&A
- 旧正門はどのような経緯で建てられたのですか?
- 大正11年(1922年)に実施された陸軍特別大演習の際、当時の私立善通寺高等女学校に統監部が設置されました。この歴史的な出来事を記念して建てられたのが旧正門です。煉瓦造りの4本の門柱からなり、花崗岩の基礎と笠石を備えた重厚な造りが特徴です。
- 見学は自由にできますか?
- 旧正門は現役の高等学校の敷地内にあります。公道からはいつでも無料で見学可能です。敷地内に入って近くで見たい場合は、授業時間帯を避けるなど配慮をお願いします。
- 最寄り駅からのアクセスを教えてください。
- JR土讃線の善通寺駅が最寄り駅です。駅から南方向へ徒歩約10分で到着します。高松駅からは特急列車で約40分、高松空港からは車で約1時間です。
- 周辺のおすすめ観光スポットはありますか?
- 善通寺市内には総本山善通寺(四国霊場第75番札所)、国の重要文化財である旧善通寺偕行社、乃木館(旧陸軍第11師団司令部資料館)などがあります。また、隣接する琴平町の金刀比羅宮(こんぴらさん)も訪れやすい距離にあります。
- 外国語の案内はありますか?
- 旧正門は学校敷地内にあるため、専用の外国語案内板は限られています。事前にインターネットで情報を調べてから訪問されることをお勧めします。善通寺門前の善通寺市観光交流センターでは、観光案内を受けることができます。
基本情報
| 名称 | 香川県立善通寺第一高等学校(旧私立善通寺高等女学校)旧正門 |
|---|---|
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 建築年 | 大正11年(1922年) |
| 構造 | 煉瓦造、間口4.0m、左右脇門付。花崗岩基礎、花崗岩製帯飾・笠石 |
| 登録年月日 | 令和7年(2025年)8月6日 |
| 所在地 | 香川県善通寺市文京町一丁目1391 |
| 所有者 | 香川県 |
| アクセス | JR土讃線 善通寺駅から南へ徒歩約10分 |
| 見学料 | 無料(公道からの見学) |
参考文献
- 香川県立善通寺第一高等学校(旧私立善通寺高等女学校)旧正門 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/623539
- 善通寺第一高校の旧正門を国の登録有形文化財に答申 — KSB瀬戸内海放送
- https://news.ksb.co.jp/article/15677690
- 香川県立善通寺第一高等学校 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/香川県立善通寺第一高等学校
- 旧善通寺偕行社 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/旧善通寺偕行社
- 総本山善通寺 — うどん県旅ネット
- https://www.my-kagawa.jp/point/332/
最終更新日: 2026.03.24