JR善通寺駅本屋――明治の息吹を今に伝える、現役最古級の木造駅舎
香川県善通寺市の中心に佇むJR善通寺駅本屋は、明治22年(1889年)の開業以来、130年以上にわたって旅人を迎え続けてきた木造駅舎です。大正11年(1922年)の大改修で加えられたハーフティンバー風の車寄せポーチが和洋折衷の趣を醸し出し、平成14年(2002年)に国の登録有形文化財に登録されました。弘法大師空海ゆかりの地・善通寺への玄関口として、また四国の近代化を支えた鉄道遺産として、この駅舎は静かに歴史を語り続けています。
四国鉄道黎明期に生まれた駅
JR善通寺駅の歴史は、明治22年(1889年)5月23日に讃岐鉄道の「吉田駅」として開業したことに始まります。讃岐鉄道は丸亀〜多度津〜琴平間の約15.5キロメートルを結ぶ路線で、善通寺や金刀比羅宮への参拝客を数多く運んだことから「巡拝鉄道」とも呼ばれていました。当時は琴平方面行きが「上り列車」とされており、現在とは逆の運行概念であったことも興味深い歴史の一端です。
駅舎には「明治22年3月30日」と刻まれた建物財産標が現存しています。建物財産標とは、旧国鉄が建物の竣工日や用途を記録するために掲げた銘板のことで、明治20年代の建物財産標を持つ現役の駅舎は全国でもごくわずかしかありません。「日本最古の現役駅舎」として知られる武豊線・亀崎駅よりも古い可能性が指摘されており、日本の鉄道史において極めて貴重な存在です。
明治37年(1904年)に讃岐鉄道が山陽鉄道に買収され、さらに明治39年(1906年)には国有鉄道法により国有化されました。昭和62年(1987年)の国鉄分割民営化に伴い四国旅客鉄道(JR四国)の駅となり、現在も善通寺市の中心駅として全特急列車が停車します。
大正の陸軍大演習がもたらした大改修
善通寺駅の駅舎が現在の姿となったのは、大正11年(1922年)秋の大改修によるものです。この年、善通寺に駐屯していた陸軍第11師団を中心として西讃地域で陸軍特別大演習が開催され、皇太子(のちの昭和天皇)が臨席されました。善通寺駅はこの大演習の「玄関駅」として位置づけられ、師団の威容にふさわしい駅舎へと大規模に改修されたのです。
この改修により、正面の車寄せポーチ、石段、ホーム上屋などが新たに整備・拡張されました。現在も表玄関やホームに残る木組みは大正11年当時のものであり、一世紀を超えて往時の風格を今に伝えています。
建築の見どころ――和洋が融合する意匠美
JR善通寺駅本屋の建築的な魅力は、日本の伝統建築と西洋の意匠が見事に融合している点にあります。本屋は桁行16間、梁間5間規模の木造平屋建てで、建築面積は約301平方メートル。屋根は桟瓦葺きの寄棟造で、外壁には木造の軸組が露出する真壁造を採用しています。
最大の特徴は、西正面のやや北寄りに張り出した車寄せポーチです。切妻造の屋根を持つこのポーチには、ハーフティンバー(木骨構造)風の意匠が施され、ヨーロッパの伝統建築を思わせる外観となっています。一方で、舟肘木(ふなひじき)状の持送りなど日本の伝統的な建築装飾も随所に認められ、和と洋が一つの建物の中で自然に調和する、大正時代ならではの建築美を味わうことができます。
平成3年(1991年)の改修で屋根は当初の切妻造から寄棟造に変更されましたが、車寄せポーチの木組み、玄関の石段、ホームの木造柱や上屋は大正時代のままの姿を保っています。本屋に加えて、一番ホーム上屋、二番ホーム上屋、跨線橋もそれぞれ登録有形文化財に登録されており、駅全体が近代鉄道建築の生きた博物館のような存在です。
登録有形文化財としての価値
JR善通寺駅本屋は平成14年(2002年)2月14日、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。文化遺産オンラインには、善通寺市街の都市的起点をなす位置に西面して建つこと、真壁造による日本的な構法に切妻造のハーフティンバー風車寄せポーチを組み合わせた和洋折衷の意匠が評価されたことが記録されています。
さらに平成21年(2009年)には、経済産業省の「近代化産業遺産」にも認定されました。琴平駅や多度津駅(給水塔・転車台など)とともに「全国に遍く人と物を運び産業近代化に貢献した鉄道施設の歩みを物語る近代化産業遺産群」(JR予讃線・土讃線の関連遺産)として位置づけられており、四国の産業史・交通史における重要性が広く認められています。
駅の楽しみ方――見どころガイド
駅の西側から近づくと、まず目に入るのが大正時代に造られた石段と、ハーフティンバー風の車寄せポーチです。重厚な木組みの風合いは一世紀の歳月を経て味わい深く、妻面に設置された電飾式の駅名表示が夕暮れ時にはノスタルジックな雰囲気を醸し出します。
駅舎内に入ると、天井の高さと空間の広がりが印象的です。現在は駅舎の一部にコンビニエンスストアが入っていますが、構造を支える木の柱や梁は往時のまま残されています。
ホームに出れば、年月を経て黒く艶を増した太い木の柱が支える上屋が頭上に広がります。ホーム間をつなぐ跨線橋も登録有形文化財であり、鉄と木の構造が大正の鉄道最盛期を偲ばせます。
駅舎を出て西を望めば、町並みの向こうに五岳山の緑が広がります。大正時代に造られた石段を降りるとき、一世紀以上前の旅人と同じ景色を眺めていることに気づくでしょう。
弘法大師ゆかりの地・善通寺への玄関口
善通寺駅は四国霊場第75番札所・善通寺の最寄り駅です。駅表示パネルには「弘法大師ゆかりの駅」と記されており、駅から善通寺までは西へ徒歩約15〜20分の道のりです。
善通寺は弘法大師空海の誕生地として知られ、真言宗善通寺派の総本山です。境内には四国最大級の五重塔がそびえ、宝物館には貴重な仏教美術品が収蔵されています。県指定天然記念物の大楠木や、地下を巡る戒壇めぐりなど、見どころも豊富です。四国遍路のお遍路さんはもちろん、歴史や文化に関心を持つ海外からの旅行者にとっても深い感動を与えてくれる場所です。
周辺情報――西讃の歴史と文化を巡る
善通寺駅を拠点に、西讃地域の多彩な歴史・文化スポットを巡ることができます。
- 金刀比羅宮(こんぴらさん):善通寺の隣駅・琴平にある海上交通の守り神を祀る神社。1,368段の石段を登った先に本宮が鎮座します。参道沿いには旧金毘羅大芝居(金丸座)など見どころも多数。
- 丸亀城:日本に現存する12の天守の一つを持つ名城。石垣の高さは約60メートルで日本一を誇り、天守からの瀬戸内海の眺望は格別です。JR丸亀駅から徒歩圏内。
- 中津万象園:丸亀藩主京極氏の庭園で、琵琶湖を模した池泉回遊式庭園が美しい。松の手入れが行き届いた静謐な空間は、国内外の庭園愛好家に人気です。
- 讃岐うどん:香川県は「うどん県」として知られ、善通寺駅周辺にも名店が点在しています。打ちたてのうどんは旅の楽しみの一つです。
- 多度津駅と鉄道遺産:善通寺の隣の多度津駅は予讃線と土讃線の分岐駅で、旧国鉄時代の給水塔や転車台が近代化産業遺産として保存されています。
Q&A
- 善通寺駅の駅舎はどのくらい古いのですか?
- 善通寺駅は明治22年(1889年)の開業時に建てられた駅舎を基本とし、大正11年(1922年)に大改修を受けた構造が現在まで引き継がれています。「明治22年3月30日」と刻まれた建物財産標が現存しており、日本最古の現役駅舎の一つとされています。
- 駅舎の見学に入場料はかかりますか?
- 善通寺駅は現役の鉄道駅ですので、駅舎の外観や待合室は無料でご覧いただけます。ホームに出て上屋や跨線橋を見学するには、乗車券またはICカードが必要です。
- 善通寺駅へのアクセス方法を教えてください。
- 新大阪からは山陽新幹線で岡山まで約45分、岡山でJR特急「南風」に乗り換えて約1時間20分で到着します。JR高松駅からは予讃線で多度津乗り換え、土讃線で約1時間です。善通寺駅には全ての特急列車が停車します。
- 外国語の対応はありますか?
- 駅の案内表示は主に日本語ですが、ホームの基本的な案内には英語表記もあります。みどりの券売機プラスが設置されており、ICOCAなどの交通系ICカードもご利用いただけます。駅の構造はシンプルですので、日本語が話せない方でも迷わずご利用いただけます。
- おすすめの訪問時期はありますか?
- 一年を通じて楽しめますが、特におすすめは春(3月下旬〜4月中旬)です。駅の東側には旧陸軍将校官舎の庭から移植されたと伝わる桜の大樹があり、満開の時期にはホームからも美しい花を眺めることができます。秋は気候も穏やかで、善通寺への散策にも最適です。
基本情報
| 名称 | JR善通寺駅本屋 |
|---|---|
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物)/平成14年(2002年)2月14日登録 |
| その他の認定 | 近代化産業遺産(経済産業省)/平成21年(2009年)認定 |
| 建築年 | 明治22年(1889年)竣工/大正11年(1922年)大改修/平成3年(1991年)屋根改修 |
| 構造 | 木造平屋建、瓦葺(寄棟造)、建築面積約301㎡、ホーム上家建築面積約476㎡付 |
| 建築様式 | 真壁造、切妻造ハーフティンバー風車寄せポーチ付、和洋折衷 |
| 所有者 | 四国旅客鉄道株式会社(JR四国) |
| 所在地 | 〒765-0013 香川県善通寺市文京町1丁目7-1 |
| 路線 | JR四国 土讃線(駅番号D14) |
| 駅員配置 | 日中配置あり(早朝・19時以降は無人) |
| ICカード | ICOCA等の交通系ICカード利用可 |
参考文献
- JR善通寺駅本屋 — 文化遺産オンライン(文化庁)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/149295
- 善通寺駅 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%96%84%E9%80%9A%E5%AF%BA%E9%A7%85
- JR善通寺駅 — 善通寺市観光協会(空海NAVI)
- https://www.kukainavi.com/spot/watch/entry-484.html
- 善通寺駅木造駅舎 — 木の情報発信基地
- https://wood.jp/9-building/station/station-108.html
- 善通寺駅 — ニッポン旅マガジン
- https://tabi-mag.jp/ka0243/
- 善通寺市のむかしの写真「明治22年善通寺駅」 — 善通寺市公式サイト
- https://www.city.zentsuji.kagawa.jp/soshiki/50/m22zentsujistation.html
- 【香川県善通寺市】明治由来の古い構造を持つ善通寺駅 — 四国遍路情報サイト「四国遍路」
- https://pilgrim-shikoku.net/zentsujistation-firstpart
最終更新日: 2026.03.26