瀬川酒店東蔵:善通寺に佇む大正時代の酒蔵建築
香川県善通寺市、JR善通寺駅から西へ延びる駅前通り沿いに、大正時代の面影を今に伝える酒蔵が静かに佇んでいます。瀬川酒店東蔵(せがわさけてんひがしぐら)は、1917年(大正6年)に建てられた木造平屋建ての酒蔵で、2002年に国の登録有形文化財として登録されました。隣接する主屋とともに、老舗の風格ある店構えを形成し、善通寺の歴史的景観に彩りを添えています。
軍都・善通寺と「師團一」の歴史
瀬川酒店の歴史は、善通寺の近代史と深く結びついています。1898年(明治31年)、旧陸軍第11師団が善通寺に開設されると、この静かな門前町は一躍「軍都」として活気づきました。瀬川酒店はこの機に合わせて酒造りを始め、師団にちなんだ銘柄「師團一(しだんいち)」を世に送り出しました。この銘柄は兵士や町の人々に広く親しまれ、善通寺の街とともに歩んできた歴史を物語っています。
東蔵は1917年に酒の貯蔵用として建設され、主屋と一体となった酒造施設の中核を担いました。大正という新しい時代の息吹の中で、伝統的な建築技法を用いて建てられたこの蔵は、善通寺の商業的繁栄の証でもあります。
登録有形文化財としての価値
瀬川酒店東蔵は2002年(平成14年)6月25日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」であり、以下のような建築的・歴史的特徴が評価されています。
- 南北棟の桟瓦葺切妻造という、酒蔵建築の典型的な構造を忠実に伝えていること。
- 南面の腰壁に施された海鼠壁(なまこかべ)が、防火・防湿の実用性と装飾性を兼ね備えた優れた意匠であること。
- 東西棟・平入の店舗主屋と一体となって、老舗酒店の佇まいと歴史的な街並みを今日に伝えていること。
建築の見どころ
東蔵は建築面積約146平方メートルの木造平屋建てです。南北に長い切妻造の屋根には桟瓦が葺かれ、質実剛健な蔵建築の美しさを見せています。主屋の東側に接して建ち、南妻面(切妻の三角形の壁面)を通りに向けているため、行き交う人々の目を自然と引きつけます。
最大の見どころは、南面の腰壁に施された海鼠壁です。海鼠壁は、平瓦を壁面に貼り、目地を漆喰で盛り上げて仕上げる日本の伝統的な壁仕上げ技法で、その名の通り海鼠(なまこ)の模様に似た独特の紋様が特徴です。防火・防水の実用的な目的に加え、格式ある商家の象徴としての装飾的な役割も果たしています。
隣接する主屋は、間口8間ほどの堂々たる構えを持つ塗屋造の2階建て店舗で、虫籠窓(むしこまど)や長大な入母屋造の本瓦葺屋根が特徴的です。棟梁は音田定吉と伝えられています。主屋と東蔵が一体となった景観は、大正時代の商家建築の粋を今に伝える貴重な存在です。
周辺の見どころ
瀬川酒店は善通寺市の中心部に位置しており、周辺には魅力的な観光スポットが点在しています。
最も有名なのは、四国八十八箇所霊場第75番札所であり、弘法大師空海の誕生地として知られる総本山善通寺です。広大な境内には金堂や五重塔など複数の登録有形文化財があり、四季折々の表情を楽しめます。
善通寺市役所の敷地内にある旧善通寺偕行社は、明治36年に建てられた陸軍将校の親睦施設で、洋風建築の美しさを堪能できます。また、JR善通寺駅自体も登録有形文化財であり、ハーフティンバー風の意匠を持つ大正期の駅舎は一見の価値があります。
香川県といえば讃岐うどん。善通寺市周辺には「長田 in 香の香」や「山下うどん」など、本場の味を堪能できる名店が数多くあります。また、金刀比羅宮で有名な琴平町へも電車で簡単にアクセスできます。
Q&A
- 瀬川酒店東蔵の内部は見学できますか?
- 東蔵は個人所有の建物であり、一般的な内部公開は行われていません。ただし、海鼠壁をはじめとする外観の建築的特徴は通りから鑑賞できます。見学の際は、所有者や近隣の方々へのご配慮をお願いいたします。
- JR善通寺駅からのアクセスは?
- JR善通寺駅から西へ延びる駅前通り沿い、善通寺市役所の向かいに位置しています。駅から徒歩約5分です。
- 銘柄「師團一」のお酒は現在も購入できますか?
- 現在「師團一」は綾菊酒造が製造しており、購入可能です。善通寺市のふるさと納税の返礼品としても取り扱われていますので、お取り寄せで楽しむこともできます。
- 訪問に適した季節はありますか?
- 通年楽しめますが、街歩きに適した春(3月〜5月)や秋(10月〜11月)が特におすすめです。善通寺では季節ごとに様々な行事やライトアップが行われるため、事前に確認するとより充実した訪問となるでしょう。
基本情報
| 名称 | 瀬川酒店東蔵(せがわさけてんひがしぐら) |
|---|---|
| 文化財区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 2002年(平成14年)6月25日 |
| 建築年代 | 大正6年(1917年) |
| 構造・形式 | 木造平屋建、桟瓦葺切妻造、建築面積約146㎡ |
| 所在地 | 香川県善通寺市上吉田町1-4-10 |
| アクセス | JR善通寺駅より西へ徒歩約5分 |
| 関連文化財 | 瀬川酒店主屋(登録有形文化財) |
参考文献
- 瀬川酒店東蔵 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/179046
- 瀬川酒店主屋 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/168002
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002826
- 善通寺市観光協会 空海NAVI
- https://www.kukainavi.com/
- 善通寺市ホームページ — 市内の指定文化財
- https://www.city.zentsuji.kagawa.jp/soshiki/50/bunkazai.html
最終更新日: 2026.03.26