多度津の大通りに面した大正の医院建築

山本医院(やまもといいん)は、香川県仲多度郡多度津町大通りにある大正15年(1926年)建築の洋風医院建築で、平成14年(2002年)6月25日に国の登録有形文化財となった。大正最後の年に建てられ、現在も同じ場所で医院として使われている。

当時の多度津は静かな地方の町ではなかった。京極家の多度津藩の陣屋町として始まり、日本海と瀬戸内を結ぶ北前船の寄港地となり、金刀比羅宮へ向かう参詣者が上陸する港町でもあった。明治22年(1889年)には四国で最初の鉄道が多度津と琴平の間に開通し、続いて設けられた鉄道工場が町を工業の拠点に変えた。大正15年に医師が新しい建物を構えたのは、そうした購買力と要求水準を持つ人口を相手にしていたからである。

建物は大通りに南面して建つ。文化庁の解説は、当地域でひときわ目立つ存在になっていると率直に記す。目立つように設計された建物なのだから当然でもある。

つくりと登録の理由

登録上の記載は木造2階建、瓦葺、建築面積97平方メートル。まず引っかかるのは「木造」という一語だろう。この建物は木造建築には見えないからである。外壁はモルタル塗で仕上げられている。大正から昭和初期にかけて急速に広まった手法で、大工が慣れた在来の軸組で建てながら、正面は組積造のように見せることができた。

正面の構成は横三段に整理されている。腰部は石張。その上に主たる壁面が立ち上がる。頂部には背の高いパラペットが載り、背後の瓦屋根を隠して、通りに対しては平らな輪郭を見せる。瓦は今もその奥にある。ただ、正面が語ろうとしている話に瓦は加わっていない。

中央では玄関部が薄く前へ張り出し、頂部を山形のゲーブル状に納めている。張り出しはごくわずかだが、平坦な街路面では数センチの影が大きく効く。

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は37-0112。香川県内にはこの時期の小都市の洋風建築が相当数残っているが、この建物の価値は、設計された場所に、設計された用途のまま、街路に向いた構成をほぼ損なわず立ち続けている点にある。

見学の方法と近隣の文化財

山本医院は個人所有であり、内科と小児科を掲げる現役の医療機関である。内部の見学、拝観料、案内といったものは一切ない。博物館ではなく、扉をくぐるのは患者である。

できるのは公道からの外観の観察である。登録の対象は外観であり、解説が評価しているのも外観だから、これは代替手段ではなく本筋にあたる。道の向かい側に立って横三段の構成を確かめ、次に側面へ回ってパラペットと瓦屋根が接する部分を探してほしい。この建物が抱える二つの顔が出会う場所がそこにある。

公道からの外観撮影は差し支えない。出入りする人を写さないこと、見学のために医院の駐車場を使わないこと、診療時間中に建築について尋ねに立ち入らないことは守ってほしい。

場所はJR多度津駅から北西へ徒歩約8分、直線距離でおよそ600メートル、町の中心を通る県道沿いにある。歩いていく道すがら、多度津に残る他の登録建築の一帯を通ることになる。家中に建つ富井家住宅は、文政11年(1828年)以降に整えられた多度津藩陣屋の武家屋敷の姿を伝える。JR多度津工場には登録された工場建物が複数残り、うち職場15号は明治21年(1888年)に建てられたものである。駅構内の転車台と給水塔も登録されている。四国八十八箇所第77番札所の道隆寺は東へ少し行った先にあり、重要文化財の絹本著色星曼荼羅図を伝えている。

Q&A

Q多度津町の山本医院は内部を見学できますか。
Aできません。個人所有であり、内科・小児科を診療する現役の医療機関です。内部の公開や拝観の制度はありません。登録の対象である外観は、公道からいつでも見ることができます。
Q山本医院はいつ建てられ、いつ登録有形文化財になったのですか。
A建築は大正15年(1926年)、大正最後の年にあたります。登録は平成14年(2002年)6月25日、告示は同年7月16日で、登録番号は37-0112です。
QJR多度津駅から山本医院までどう行けばよいですか。
A駅から北西へ徒歩約8分、直線距離でおよそ600メートル、町の中心を通る県道沿いです。多度津駅はJR予讃線と土讃線が通り、高松からは40分ほどで着きます。
Q山本医院は木造なのに、なぜ石造のように見えるのですか。
A木造の軸組をモルタル塗で覆い、腰部を石張とし、背の高いパラペットで瓦屋根を隠しているためです。この組み合わせは大正から昭和初期の日本で広く用いられ、在来の大工仕事に洋風の外観を与える方法として普及しました。
Q山本医院の周辺で見学できる多度津町の文化財はありますか。
A家中の富井家住宅は江戸後期の武家屋敷の姿を残しています。JR多度津工場には登録された工場建物が複数あり、駅構内の転車台と給水塔も登録有形文化財です。東へ進むと四国八十八箇所第77番札所の道隆寺があります。

基本情報

名称山本医院(やまもといいん)
所在地香川県仲多度郡多度津町大通り甲1019-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号37-0112
指定年平成14年(2002年)6月25日登録、同年7月16日告示
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積97平方メートル。モルタル塗、腰部石張、背の高いパラペット
所有者個人
公開状況外観は公道から見学可。内部は非公開で、現役の医療機関として使用中

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 山本医院
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002844
文化遺産オンライン — 山本医院
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/115724
多度津町 — 町文化財の説明
https://www.town.tadotsu.kagawa.jp/soshikikarasagasu/kyoikuiinkaijimukyokusyougaigakusyuka/shakaikyoiku/2/563.html
香川県教育委員会 — 香川県内の登録有形文化財
https://www.pref.kagawa.lg.jp/kenkyoui/shogaigakushu/bunkazai/culturalassets/culturalassets_16.html

最終更新日: 2026.08.09