醸造場と住まいが一つの屋敷地に並ぶ醤油屋

山吉醤油・山本家住宅は、香川県小豆郡小豆島町の醤の郷(ひしおのさと)にある明治時代の醤油醸造所と醸造家の屋敷で、明治21年(1888年)から明治後期にかけて建てられた9件が平成17年(2005年)2月9日に国の登録有形文化財に登録された。醸造場の4件は「山吉醤油」、住まいの5件は「山吉山本家住宅」の名で登録されている。

「山吉」の名を共有する二つの登録は、文化庁の解説文を読み合わせると同じ屋敷地に属していることが分かる。醸造場の諸味蔵は「離れ屋の北方」に建ち、住まいを囲う練塀は「諸味蔵手前」で折れ曲がる。互いの位置を互いで説明しているのである。醤油をつくる場所と、それを商う家族の暮らす場所が、水路と塀を境に隣り合っていた。

9件の内訳は次のとおり。醸造場は諸味蔵、圧搾場及び仕込場(以上、明治21年)、原料蔵及び帳場、釜屋(以上、明治41年(1908年))。住まいは主屋と練塀(明治後期)、番屋・離れ屋・土蔵(明治41年)。醸造場が先にでき、明治41年に醸造場の2棟と住まいの3棟が同時に建っている。この年に屋敷全体へ大きく手が入ったと読める並びである。

なお文化庁のデータベースでは、所在地が住まいの5件は「馬木字今坂」、醸造場の4件は「苗羽字今坂」と、同じ屋敷地でありながら異なる大字で記載されている。

屋敷の配置:南に住まい、北に醸造場

屋敷地を東西に水路が横切っている。9件の配置は、この水路を目安にすると理解しやすい。

いちばん南が住まいの表である。長屋門の番屋が屋敷の南の縁に構え、その北、敷地の中央やや東に主屋が建つ。主屋の西には渡り廊下で結ばれた離れ屋があり、その裏手に土蔵が接する。番屋の西の妻から出た練塀が南西の隅で北へ折れ、住まいの西側を囲っている。

練塀が東へ曲がる地点の先、離れ屋の北、水路の南側に諸味蔵が南北に長く建つ。その東に圧搾場と仕込場の2棟が平行に並ぶ。ここまでが水路の南である。水路を渡った北側に原料蔵及び帳場があり、その東、圧搾場の北に釜屋が東西に棟を通す。釜屋から立ち上がる高さ15メートルの煉瓦煙突は、文化庁の解説文が山吉醤油のランドマークと書く目印である。

工程に沿って見ると、原料を納める原料蔵、火を使う釜屋、麹と塩水を合わせる仕込場、発酵を待つ諸味蔵、絞る圧搾場と、醸造の流れが水路の両岸に振り分けられている。住まいから醸造場までは数十歩の距離で、門、母屋、隠居の離れ、道具蔵、諸味の蔵と、暮らしと仕事の場が途切れずに続く。

醤の郷のなかの山吉醤油

小豆島醤油協同組合がまとめた沿革によれば、島の醤油が京阪神へ盛んに出荷されるようになったのは寛政年間以降で、明治11年(1878年)から明治19年(1886年)ごろには醸造家が約400戸に達したという。のちに業者の淘汰が進み、明治34年(1901年)には同業組合が結成された。諸味蔵が建った明治21年はこの最盛期の直後、住まいを整えた明治41年は再編を経て島の醤油業が足場を固めた時期にあたる。

馬木は、播州赤穂から移り住んだ塩づくりの人々が開いた集落と伝えられ、製塩から醤油醸造へと生業を移した地域とされる。小豆島町は、醤の郷に並ぶ醸造蔵と、醤油業で財を成した人々の邸宅が一体となって独特の景観をつくっていると説明している。醸造場と住まいの両方がそろって登録されている山吉醤油・山本家住宅は、その組み合わせを一か所で見られる例である。

建物を支えてきた技術も評価されている。小豆島を含む香川県内の「讃岐の醤油醸造技術」は、令和3年(2021年)に国の登録無形民俗文化財となった。小豆島町によれば、この年の文化財保護法改正で新設された制度による全国で最初の登録である。

山吉醤油は平成14年(2002年)に廃業した。正金醤油株式会社の会社案内によれば、同社は近所の同業者として古くから親交のあった山吉醤油の廃業に伴い、その蔵を引き継いで製造を始めた。醸造場の建物はいまも正金醤油の仕込みに使われている。

見学とアクセス

山吉醤油・山本家住宅の9件はいずれも私有地にあり、一般公開や内部見学の案内は2026年9月時点で確認できなかった。文化庁のデータベースには所有者名の記載がない。小豆島町は醤の郷の登録文化財について、見学の可否を各施設に確認するよう案内している。敷地内へは立ち入らず、外観を道から眺めるにとどめたい。

醸造場は正金醤油が稼働させている作業場である。蔵の内部を見たい場合は、訪ねる前に同社へ問い合わせるのが確実だ。住まいの側は、人が暮らす場所でもありうる。撮影は公道から行い、門口や窓、作業中の人にレンズを向けないよう配慮してほしい。

道から目に入りやすいのは、屋敷の縁に建つ番屋と練塀、そして屋根の上に突き出た釜屋の煙突である。

小豆島へはフェリーで渡る。醤の郷は島の東部にあり、坂手港や草壁港が近い。路線バスは小豆島オリーブバスが運行しており、最寄りの「馬木」停留所から屋敷までは直線でおよそ550メートルある。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース:山吉山本家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004660
文化庁 国指定文化財等データベース:山吉山本家住宅番屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004661
文化庁 国指定文化財等データベース:山吉山本家住宅離れ屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004662
文化庁 国指定文化財等データベース:山吉山本家住宅土蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004663
文化庁 国指定文化財等データベース:山吉山本家住宅練塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004665
文化庁 国指定文化財等データベース:山吉醤油諸味蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004666
文化庁 国指定文化財等データベース:山吉醤油圧搾場及び仕込場
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004667
文化庁 国指定文化財等データベース:山吉醤油原料蔵及び帳場
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004668
文化庁 国指定文化財等データベース:山吉醤油釜屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004669
小豆島町:醤の郷の近代化産業遺産群
https://www.town.shodoshima.lg.jp/gyousei/kakuka/shogaigakushuka/2/1/3151.html
小豆島町:「讃岐の醤油醸造技術」が国の登録無形民俗文化財になりました
https://www.town.shodoshima.lg.jp/gyousei/kakuka/shogaigakushuka/2/5909.html
小豆島醤油協同組合:小豆島醤油の歩み
https://shima-shoyu.com/history/
小豆島町商工会:観光(醤の郷・馬木散策路)
https://shokokai-kagawa.or.jp/shoudoshima/sightseeing/
正金醤油株式会社:正金醤油のご案内
https://shokinshoyu.jp/company/
小豆島オリーブバス:時刻表
https://www.shodoshima-olive-bus.com/dia/

最終更新日: 2026.09.26

基本情報

名称山吉醤油・山本家住宅
所在地香川県小豆郡小豆島町馬木字今坂甲710
指定登録有形文化財 9件
座標34.47514, 134.32458