台湾航路のために築かれた灯台

明治30年(1897)1月10日、屋久島北西端の永田岬に据えられた灯がはじめて海へと放たれた。この屋久島灯台が建てられた背景には、明治28年(1895)の下関条約による台湾の割譲がある。日清戦争の講和によって台湾が日本領となり、本土と新領土を結ぶ南方の航路整備が急務となった。屋久島灯台は、この整備にあわせて設けられた台湾航路灯台8基のうちの1基である。

注目したいのは、建設を担ったのが逓信省の航路標識管理所ではなく、陸軍省のもとに置かれた臨時台湾灯標建設部だった点である。当時の灯台建設は逓信省の直轄が通例であり、軍が主体となった経緯にこの事業の緊急性がうかがえる。同建設部は屋久島のほか、下甑島の釣掛埼、奄美大島の曽津高埼、沖縄の伊江島などにも灯台を築き、台湾島内にも2基を設けている。

選ばれた永田岬は、東シナ海に張り出した険しい岬で、風の強い一帯として知られる。壁体の煉瓦は沖縄県監獄署で製造されたものが用いられ、土台にはセメントが使われた。屋久島でセメントが使用された最初の例と伝わる。

登録有形文化財としての価値

屋久島灯台は令和3年(2021)6月24日、登録番号46-0125として国の登録有形文化財に登録された。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、竣工以来ほとんど姿を変えていない点がその根拠となっている。

灯塔は円形で、煉瓦積みを基本としながら壁の一部に御影石を組み込んだ折衷の造りとなる。高さは約20メートル、灯塔上部にはバルコニーがめぐらされ、下段には扇形平面の附属舎が張り出す。入口にはペディメントと柱形が表され、灯塔・附属舎とも軒には歯飾(デンティル)が並ぶ。これらの意匠は、イギリス人技師リチャード・ヘンリー・ブラントンが一世代前に日本の灯台建築へもたらした様式に連なる。屋久島灯台は、ブラントン帰国後に築かれたブラントン型煉瓦灯台としては日本で最後の作例とされる。

立地も価値の一部をなす。現存する明治期の煉瓦灯台のなかで、この灯台は最も南に位置する。敷地の東側には同じ日に別件として登録された石塀が長く連なり、灯台の構内をひとまとまりの近代化遺産として画している。

訪れる際の見どころ

灯塔の内部には立ち入れない。灯は現役の航路標識として稼働を続け、屋久島海峡を横切る船の目標となっている。見学の主眼はむしろ立地の環境にある。岬の突端に立てば、視界は東シナ海へと開け、正面に口永良部島の火山の稜線を望む。眼下の海峡を大型のフェリーや貨物船が行き交う。

永田集落から坂を上がると、白亜の灯塔が海を背に早くから姿を見せる。建物は歳月を軽やかに帯びている。太平洋戦争中の米軍による攻撃を経ながら建設当初の形を損なわず、灯塔にのぞく通気口は、断熱と防湿をはかる中空壁の構造を示すと考えられている。

灯器は第3等フレネルレンズを用い、光は約40キロメートル沖まで達する。日が傾き、暮れゆく空にレンズが回りはじめる時刻を待つ人も多い。屋久島そのものが世界自然遺産に登録された島であり、岬への道行きは、明治の土木技術と、島を代表する杉の森や海岸線とを一度に結びつける。

Q&A

Q灯台の中に入れますか。
A内部は公開されていません。灯は現役で稼働しているため塔内には立ち入れませんが、周囲の敷地からは海の眺めを楽しめます。
Qなぜ陸軍省が建設したのですか。
A明治28年の台湾割譲後、台湾への航路を整える緊急事業の一環だったためです。臨時台湾灯標建設部(陸軍省)がこの航路の8灯台を担い、通例の逓信省直轄とは異なる経緯をたどりました。
Q建築としてどこが貴重なのですか。
A煉瓦と御影石を併用し、扇形の附属舎、バルコニー、ペディメントの入口、歯飾の軒をもつ点です。ブラントン型煉瓦灯台としては日本最後の作例とされ、現存する明治期煉瓦灯台では最南端に位置します。
Qどうやって行けばよいですか。
A屋久島北西端の永田岬、永田集落の先に立っています。岬へ向かう道があり、最後は徒歩で近づきます。
Q灯はいまも点いていますか。
Aはい。第3等フレネルレンズを用い、屋久島海峡を通る船の航路標識として稼働しています。光達距離は約40キロメートルです。

基本情報

名称屋久島灯台(やくしまとうだい)
所在地鹿児島県熊毛郡屋久島町永田字瀬切4143-3
指定区分登録有形文化財(交通/その他工作物)
登録年月日令和3年(2021)6月24日(登録番号46-0125)
年代明治30年(1897)/初点灯 明治30年1月10日
構造及び形式煉瓦造、建築面積約91㎡、高さ約20m
員数1基
所有者国(海上保安庁)
灯器第3等フレネルレンズ、光達距離約40km、内部非公開

References

国指定文化財等データベース — 屋久島灯台
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013906
文化庁 近代の文化遺産の保存と活用 — 屋久島灯台
https://www.bunka.go.jp/kindai/todai/067/index.html
文化遺産オンライン — 屋久島灯台
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/519754
海と灯台プロジェクト — 屋久島灯台
https://toudai.uminohi.jp/toudai/yakushima/
屋久島観光協会 — 屋久島灯台
https://yakukan.jp/spot/7004.html

最終更新日: 2026.07.05