岬の構内を画する石塀

永田岬の吹きさらしの尾根を屋久島灯台へと歩むと、低い石の塀が道連れのように延び、灯塔から東へ広がる敷地の縁をなぞっていく。これが屋久島灯台石塀である。守るべき灯台と同じ明治30年(1897)に築かれ、灯台とは別件の文化財として登録されている。

これほど厳しい岬に立つ灯台には、灯塔だけでは足りない。看守は年間を通じてここで暮らし働き、灯の背後の構内は、風と潮、そして東シナ海から押し寄せる嵐に抗して一つにまとめられねばならなかった。その役目を担ったのがこの塀である。延長136メートルに及ぶ連続した障壁が敷地を囲み、単独の建物というより、小さな砦のような構えを施設全体に与えている。

灯塔とともに残ったこと自体が、屋久島の灯台施設を際立たせている。明治期の灯台構内の多くは、その後の一世紀で附属の構造物を失った。ここでは塀が今も立ち、灯がはじめて守られた頃の敷地の姿がほぼそのまま読み取れる。

石塀の構造とつくり

塀の高さは約1.4メートル。地元の材と外来の技法が出会う一例といえる。下段は屋久島産の花崗岩を粗く加工し、三段に積んで築く。その上に煉瓦を三段積み、頂部をモルタルで仕上げて笠石状に成形する。笠石は雨水を下方の目地から逃がす傾いた冠であり、全体は重厚で意図的な造りとなる。気象が実際に建物を傷める場所にふさわしい寸法である。

石と煉瓦の組み合わせは、隣に立つ灯台と呼応している。灯台もまた御影石と煉瓦を併用しており、両者を並べて見れば、一つの建設事業が動いていたことがわかる。同じ材、同じ厳しい海岸への同じ応答が、灯塔の規模と境界の規模の双方に及んでいる。花崗岩には立ち止まる価値がある。島そのものの岩であり、粗く色は淡い。内陸の古い杉の森を支える地質と同じものである。

文化庁はこの石塀を令和3年(2021)6月24日、登録番号46-0126として、灯台と同じ日に登録した。基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。灯台の登録に含めず別件として扱ったことは、石塀を独立した設計構造物として認め、構内全体の記録を欠けなく保つ意味をもつ。

訪れる際の見どころ

石塀は近づく道すがらに味わうのがよい。その線が岬の先の灯塔へと視線を導く。塀に沿って進めば、延長のなかで表情が移り変わることに気づく。南側と西側の各区間は、それぞれ異なる仕方で地形に接し、岬の等高線に合わせて段をつけ、向きを変えていく。近くで見れば、下段の灰白色の花崗岩と上部の温かな煉瓦の対比が読み取れ、笠石には、海峡の気象をまともに受ける場所で造り手が排水をどう考えたかが表れている。

塀は灯塔の外にあるため、灯台内部が非公開でも自由に見ることができる。眺めを遮るのではなく縁取り、海の向こうの口永良部島を望むとき、構内の尺度を測る手がかりを与えてくれる。

灯台と合わせて見れば、この塀は稀な残存を完成させる。日本の南の島に、明治の航路標識施設がほぼ完全な姿で残り、しかもそれが世界自然遺産・屋久島のうちにある。岬へのゆるやかな道行きは、灯そのものと同じだけ、この塀に報いてくれる。

Q&A

Qこれは具体的に何ですか。
A屋久島灯台の構内を囲む外周の塀です。延長約136メートルで、灯塔から東へ広がる敷地を画します。2021年に灯台とは別の文化財として登録されました。
Q何でできているのですか。
A粗く加工した屋久島産の花崗岩を下段に三段積み、その上に煉瓦を三段積んで、モルタルで笠石状に仕上げています。高さは約1.4メートルです。
Qなぜ灯台と別に登録したのですか。
A石塀は、厳しい海岸の気象に抗して構内をまとめるために築かれた独立した構造物だからです。別件で登録することで、明治期の灯台施設全体の記録を欠けなく残せます。
Q間近で見られますか。
Aはい。石塀は灯塔の外にあり、灯台内部が非公開でも、岬への道すがら自由に眺めることができます。

基本情報

名称屋久島灯台石塀(やくしまとうだいいしべい)
所在地鹿児島県熊毛郡屋久島町永田字瀬切4143-3
指定区分登録有形文化財(交通/建築物)
登録年月日令和3年(2021)6月24日(登録番号46-0126)
年代明治30年(1897)
構造及び形式石造、延長136m、高さ約1.4m
員数1基
所有者国(海上保安庁)
関連文化財屋久島灯台(登録番号46-0125)、同日登録

References

国指定文化財等データベース — 屋久島灯台石塀
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013907
文化庁 近代の文化遺産の保存と活用 — 屋久島灯台石塀
https://www.bunka.go.jp/kindai/todai/068/index.html
文化庁 近代の文化遺産の保存と活用 — 屋久島灯台
https://www.bunka.go.jp/kindai/todai/067/index.html
海と灯台プロジェクト — 屋久島灯台
https://toudai.uminohi.jp/toudai/yakushima/
屋久島観光協会 — 屋久島灯台
https://yakukan.jp/spot/7004.html

最終更新日: 2026.07.05