鈴鹿の伏流水が湧く造り酒屋

石川酒造は、三重県四日市市桜町にある天保元年(1830年)創業の造り酒屋で、主屋・大蔵・自噴井戸など15件の建造物が平成25年(2013年)3月29日に国の登録有形文化財に登録された。一つの蔵元の敷地から15件がまとめて登録された例で、四日市市の案内は、県内の登録有形文化財(建造物)として最も件数が多いと紹介している。

桜町は四日市市の西の端、鈴鹿山脈へ向かって土地がゆるやかに上がっていく一帯にある。山から下る水は地中を伝い、このあたりで地表近くに現れる。石川酒造の仕込み水もその伏流水で、蔵元の説明によれば、敷地には深さ200メートルの自噴する掘り抜き井戸と、深さ76メートルの井戸がある。硬度の低い超軟水で、発酵を穏やかに進める水だという。

酒銘の「噴井(ふきい)」は、この自噴水にちなむ。俳句では、湧き出す井戸を指す夏の季語でもある。屋号は「やまいし」で、2018年にはこの屋号を名にした純米酒の銘柄も立ち上げている。建物群は、いまも酒を造り続ける現役の蔵である。

15件が一度に登録された理由

石川酒造の15件は登録番号24-0131から24-0145まで連続し、すべて「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録された。個々の建物が意匠の手本として選ばれたわけではない。住まい、帳簿や家財を納める蔵、米を扱う小屋、酒を仕込み搾り詰める棟、水を汲む井戸までが、一つの敷地に欠けずに揃っている。その揃い方が評価の中心にある。

内訳を用途で分けると、次のようになる。

  • 住まいと接客の棟:主屋、西の座敷
  • 家の財を守る蔵:南文庫蔵、北文庫蔵
  • 米を受け入れ整える棟:旧精米場、旧米庫、納屋
  • 酒造りの工程を担う棟:大蔵、釜場、槽場、壜詰場、貯蔵庫及び事務所
  • 水と囲いの工作物:井戸屋形、自噴井戸、西土塀

年代は、明治中期(1883年から1897年)の旧精米場・旧米庫・納屋から、昭和前期(1926年から1945年)の北文庫蔵までの幅がある。建築年が一年単位で分かっているのは、明治24年(1891年)の主屋、明治31年(1898年)の西の座敷、大正5年(1916年)の大蔵と自噴井戸の4件である。創業の天保元年までさかのぼる建物は、登録された15件の中には無い。

なお、蔵元の公式サイトは登録を2012年のこととして記している。文化庁の国指定文化財等データベースが示す登録年月日は平成25年3月29日であり、本サイトはこちらに従う。

中庭を囲む配置

石川酒造の敷地は、中央の中庭に据えられた自噴井戸を核として組み立てられている。井戸屋形はその南西寄り、主屋のすぐ北に立つ。水の湧く場所を真ん中に置き、まわりに棟を並べた造り酒屋の配置が、ほぼ当時のまま読み取れる。

南側が表である。主屋と旧精米場が正門を挟んで通りに並び、大きな地酒屋の南の構えを作っている。東側では旧精米場・旧米庫・納屋が南から北へ一列に続き、腰の高さまで張った下見板の壁が通り沿いに途切れない。西側には、主屋と渡り廊下でつながる西の座敷、その北の南文庫蔵、さらに北東の北文庫蔵が並び、敷地の南西角から延びる西土塀が南文庫蔵まで囲いを閉じる。

北の端を占めるのが、桁行32.8メートルの大蔵である。高さ10メートルを超える黒い壁面は、敷地の外から見てもまず目に入る。大蔵の南に釜場が接し、その西に槽場と壜詰場が南北に連なる。敷地のほぼ中央には貯蔵庫及び事務所が立つ。

建物の名が示す工程をたどると、米は東の旧精米場で磨かれて旧米庫に納まり、釜場で洗われて蒸され、大蔵で仕込まれ、槽場で搾られ、貯蔵を経て壜詰場で詰められる。棟の並びと酒造りの順序が、敷地の中でおおむね対応している。外壁は黒漆喰、黒く塗った板張り、白漆喰の組み合わせでほぼ統一され、四日市市の解説もこの統一感を建物群の特色に挙げている。

見学とアクセス

石川酒造は稼働中の酒蔵で、15件の建物はいずれも生産や住まいに使われている。蔵元の公式サイトには、定期的な酒蔵見学の案内は載っていない。建物の内部は原則として公開されておらず、見学者が確実に見られるのは、敷地の外から見える南面・東面の外観と、北に高くそびえる大蔵の姿である。撮影の可否についての案内も公式サイトには見当たらないので、敷地内に立ち入る場合や撮影したい場合は、事前に蔵元へ問い合わせるのが確実である。

蔵元の事務所の受付は平日の午前9時から午後4時までで、土曜・日曜・祝日は休みとなっている。電話は059-326-2105。所在地は四日市市桜町129で、文化庁データベース上の地番は桜町字南垣内128ほかとなる。

最寄り駅は近鉄湯の山線の桜駅で、駅から歩いて5分ほどである。近鉄名古屋線の近鉄四日市駅で湯の山線に乗り換える。桜駅のすぐそばには、環境省の名水百選に選ばれた智積養水(ちしゃくようすい)が流れている。蔵元も仕込み水の環境を語る際にこの流れに触れており、鈴鹿の伏流水がこの地区の暮らしを支えてきたことを、駅から蔵までの短い道のりで確かめられる。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):石川酒造主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009479
国指定文化財等データベース(文化庁):石川酒造大蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009486
国指定文化財等データベース(文化庁):石川酒造自噴井戸
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009492
四日市市:石川酒造主屋・大蔵・自噴井戸など全15件
https://www.city.yokkaichi.lg.jp/www/contents/1001000002649/index.html
石川酒造株式会社 公式サイト
https://e-sakagura.co.jp/
観光三重:智積養水
https://www.kankomie.or.jp/spot/detail_8936.html

最終更新日: 2026.09.25

基本情報

名称石川酒造
所在地三重県四日市市桜町字南垣内128他
所有者石川酒造株式会社
指定登録有形文化財 15件
座標34.99437, 136.53974