松本市上下水道局城山配水地旧配水池―芝生の下に眠る1518平方メートルの構造物

松本城の北西、城山の芝生に立つとき、人は1518平方メートルの構造物の屋根の上に立っている。足の下に土があり、土の下にヴォールト状のコンクリートの蓋があり、その下に、かつて一つの市の飲料水を丸ごと蓄えた二つの池がある。

名称からして小さな謎かけだ。「城山配水地旧配水池」。読みは「じょうやまはいすいち・きゅうはいすいち」で、同じ音が二度続く。前の「はいすいち」は配水、施設の敷地全体を指す。後ろは配水、水を溜める池そのものを指す。同音異義の二語が並んで、城山配水地にある旧配水池、となる。

この池があるから、松本の水道はこの形をしている。町の反対側、奈良井川沿いの島内の湧泉が集水井に水を渡す。喞筒室のポンプがそれを約600メートル先のこの高台へ揚げる。水はまず隣の接合井に届き、それからこの池を満たした。ここから先に機械はいらない。市街地は下にあり、水は低いほうへ流れる。

自然流下式の配水とはそれだけの原理で、技術者がわざわざ水を高所へ汲み上げた理由もそこにある。一度だけ揚げて高い場所に貯めておけば、松本中の蛇口の水圧は以後ただで手に入る。敷設工事は大正13年(1924年)に竣工し、松本市の近代水道普及が始まった。

旧配水池はすでに現役を退いている。池は空だ。構造物は残っている。

どう造られているか

コンクリート造。地中に埋め、屋根の上に土を盛る。理屈は口にすれば当たり前だ。覆えば水は冷たく、暗く、清潔に保たれる。

屋根はヴォールト状。盛った土の重量をコンクリートが受けるための形である。中央には管理用通路が走り、煉瓦造の上屋から出入りする。この通路が容積を二つの池に分ける。池の内部には、およそ4メートルおきに壁が立てられている。

覆土が流れ出そうとする面には、煉瓦の壁を立ち上げて押さえている。ここで資料が分かれる。国指定文化財等データベースは、この煉瓦壁を南北二面に置く。松本市自身の解説は、東面と西面に煉瓦壁があるとする。一次資料である国の台帳を優先して本記事は南北とするが、二つの記述を読み比べる人は一致しないことに気づくはずで、この点は未解決である。

寸法にも同種の小さな食い違いがある。国の台帳は縦三五メートル、横四二メートル。松本市は縦約36メートル、横約42メートルとする。登録面積1518平方メートルを42で割ると約36.1となり、市の数値のほうに近い。差は1メートルで、見学者にとって重要ではないが、確かに存在する。

中央通路の南北両端に建つのが入口棟である。この旧配水池で誰もが写真を撮るのは、この部分だ。煉瓦造で、アール・デコ調である。

なぜ水槽に意匠が要るのか

大正12年の煉瓦は安価な選択肢ではなかった。松本市は登録の説明で、当時としては最高の建材だったと書いている。それが、生涯のほとんどを人に見られず暗がりで水を抱えて過ごす構造物に使われた。

アール・デコ調の意匠は施設群を横断している。ここの入口棟、すぐ隣の接合井を覆う煉瓦造の上屋、そして島内の旧喞筒室が、幾何学模様という共通の言語を持つ。喞筒室と接合井は、開口部の上に松本市水道のエンブレムを掲げている。

この事実は少し立ち止まる価値がある。第一次大戦後の地方都市の市営事業が、清浄な水を運ぶ機械は達成として見えるべきだと判断した。造った人々の判断は間違っていない。松本は繰り返し焼けた町であり、圧力のかかった配水管が通ったことは、この町に起きた出来事のなかでもかなり重い部類に入る。

事業には、我が国の近代水道施設の建設で先駆的役割を果たした二人の技術者が関わっている。水源を調査した佐野藤次郎と、設計を担当した武智正次郎である。二人の名は、松本市が登録に向けて挙げた根拠の一部でもある。

登録と、失われたもの

日本の文化財保護制度において、登録と指定は別の道具である。指定は古く重い制度で、国宝・重要文化財を厳しい規制のもとに置く。登録は平成8年(1996年)に設けられた。明治・大正・昭和初期の膨大な建造物が、評価される速度を上回る速さで消えていく。その状況に対する制度である。許可でなく届出、規制は軽く、速く動くことを前提に設計されている。

松本市の水道施設群のなかで、最初に注目を集めたのがこの旧配水池だった。平成19年度から20年度にかけての長野県教育委員会による近代遺産総合調査が、旧城山配水池と接合井を候補として挙げる。平成25年9月に文化庁調査官が現地に入り、より広い枠組みを助言した。城山の施設と島内第一水源地の施設は一つの系であり、まとめて登録すべきだ、と。松本市は平成26年9月末に意見具申を行い、平成27年8月4日、第81回登録で6件が登録された。旧配水池の登録番号は20-0485。基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

登録はすべてを守るには遅かった。新たな施設の建設に伴い、北東の一角は大きく改変され、階段の半分が破損している。入口棟の扉も近年になって造り変えられた。それ以外に大きな改変の跡は見られず、ほぼ当初の配水池の姿が残されている、というのが松本市の評価だ。

この率直な記述自体が役に立つ。文化財になったからといって稼働中のインフラが止まるわけではなく、水を送り続けなければならない事業者は、時に文化財の建つ場所に新しい施設を建てる。

見に行くには

内部は通常公開されていない。松本市上下水道局は、この配水池が造られた目的と水を運ぶ仕組みを説明した紹介動画を公開しており、そこには普段は見られない内部の映像も含まれる。多くの人にとって、ヴォールトと中央通路を目にする手段はこれになる。

見学の制度はある。松本市の出前講座「いい街つくろう!パートナーシップまつもと」を通じて申込みを受け付けており、電子申請で生涯学習課へ送る。見学時期や施設工事の関係で、希望どおりにならないこともある。

城山そのものは、それ抜きでも歩く価値がある。松本城の北西に位置する高台で、かつてこの池が水を送った市街地が眼下に広がる。この高低差そのものが、施設の設計理由だった。

Q&A

Qなぜ「はいすいち」が二度続く名称なのですか。
A同音の別語が並んでいるためです。「城山配水地旧配水池」の前半「配水地」は施設の敷地全体を指し、後半の「配水池」は水を溜める池そのものを指します。全体で「城山配水地にある旧配水池」という意味になります。台帳上の正式名称であり、誤記ではありません。
Qわざわざ高所へ汲み上げてから流し下ろすのはなぜですか。
A揚げるのが一度で済むからです。市街地より高い場所に水を貯めておけば、以後は機械なしで各戸の蛇口に水圧がかかります。ポンプが止まっても池の水は流れ続けるので、予備にもなります。それが自然流下式の配水池の役目で、島内の湧水を約600メートル先のこの高台まで揚げた理由でもあります。
Q寸法や煉瓦壁の位置について、資料の記述が食い違っています。どちらが正しいのですか。
A一次資料である国指定文化財等データベースは、縦三五メートル・横四二メートル、煉瓦壁は南北二面としています。松本市は縦約36メートル・横約42メートル、煉瓦壁は東面と西面とします。登録面積1518平方メートルは市の縦寸法のほうにやや整合します。本記事は国の台帳を優先しつつ、相違を明示しました。現地確認を要する事項です。
Q現在も配水に使われていますか。
A使われていません。旧配水池も隣の接合井も、すでに役目を終えています。松本市の給水はより新しい施設が担っており、その一部は同じ敷地内に建設されました。旧配水池の北東の一角が改変されたのは、その工事によるものです。
Q内部に入れますか。
A自由には入れません。内部は通常非公開です。松本市の出前講座を通じた施設見学の申込み制度があり、電子申請で生涯学習課へ申し込みますが、常に受けられるわけではありません。上下水道局が内部映像を含む紹介動画を公開しているので、そちらも参照できます。

基本情報

名称松本市上下水道局城山配水地旧配水池
ふりがなまつもとしじょうげすいどうきょくじょうやまはいすいちきゅうはいすいち
指定等区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日平成27年(2015年)8月4日/第81回登録/登録番号 20-0485
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
種別生活関連/その他工作物
時代・年代大正12年(1923年)
員数1基
構造及び形式等コンクリート造、面積1518平方メートル
規模・形式縦三五メートル×横四二メートル(国の台帳/松本市は縦約36メートル×横約42メートル)、覆土下にヴォールト状屋根、内部は二池、中央に煉瓦造上屋から入る管理用通路、煉瓦壁は南北二面(国の台帳/松本市は東面・西面)
所在地長野県松本市大字蟻ヶ崎字城山腰1133-1
所有者松本市
現況使用停止。新施設の建設に伴い北東の一角が大きく改変、階段の半分が破損。入口棟の扉は近年造り変え
公開状況内部は通常非公開。松本市出前講座を通じた施設見学の申込みが可能(電子申請・生涯学習課)

参考文献

国指定文化財等データベース 松本市上下水道局城山配水地旧配水池(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010594
文化遺産オンライン 松本市上下水道局城山配水地旧配水池
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/235948
松本市 松本市上下水道局城山配水地〔2棟〕
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/134/3782.html
松本市上下水道局 文化財として登録されている水道施設
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/site/jougesuidou/123765.html
松本市 国登録文化財
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/134/51915.html

最終更新日: 2026.07.16