松本市上下水道局城山配水地接合井―扉の上に紋章を掲げた、直径5メートルの中継施設
接合井は配管である。ある管が次の管へ水を渡す地点であり、一段では送りきれない規模の系統に置かれる中継の箱にすぎない。工学がこれに求めるのは、漏れない水槽と蓋だけだ。
この接合井には、扉の上に松本市水道のエンブレムが掲げられている。
建つのは城山の高台、旧配水池のすぐ西側。輪郭は円筒だ。煉瓦造・平屋建の丸い建物で、直径は約4.91メートル。全体に幾何学模様をあしらい、腰や柱形はモルタル塗としている。その煉瓦の胴の内側に、接合井の本体が座る。コンクリート造の円筒で、内径約3.34メートル、壁厚約0.34メートル。登録上の建築面積は20平方メートル。ワンルームより小さい。
ここが松本の最初の水道の蝶番だった。市街の北西、奈良井川沿いの島内の湧水が集水井に集まる。喞筒室のポンプがそれを約600メートル先のこの高台へ押し上げる。水はまずこの胴に到着した。ここから隣の配水池へ入り、配水池から先は自らの重さで市街地へ下っていった。
ポンプはこの建物で終わる。重力はこの建物から始まる。ここより手前は市が電気を払い、ここより先は無料だった。
意匠と、それがある理由
大正12年の煉瓦は高級な建材である。当時としては最高の建材だった、と松本市は登録の説明に明記している。接合井には煉瓦が使われた。配水池の入口棟にも使われた。島内に戻れば旧喞筒室にもアール・デコ調の意匠が施され、入口の上には、ここと同じ松本市水道のエンブレムが据えられている。三つの建物が、二つの敷地と600メートルの丘陵を挟んで一つの意匠言語を共有している。
胴の組み立て方を見てほしい。煉瓦の面には全体に幾何学模様が展開する。腰と柱形はモルタル塗で拾い出され、滑らかな灰色の面が煉瓦と対比をつくる。円筒に、構造上は不要な分節が与えられている。開口部の上に、紋章。
これらは水を一滴もきれいにしない。
していることは、主張である。大正初期の松本は繰り返し焼け、井戸から水を汲んでいた町だった。圧力のかかった水が管で届くようになったことは、この町に起きた出来事のなかでも重い部類に入る。これらの建物を発注した人々は、市の事業の達成は達成らしく見えるべきだと考えたらしい。市民が生涯訪れることのない場所であっても、である。現代の事業体が自らに許すとは考えにくい種類の自信がここにはある。
事業の背後には、我が国の近代水道施設の建設で先駆的役割を果たした二人の技術者がいる。水源を調査した佐野藤次郎と、設計を担当した武智正次郎である。
種別についての小さな話
国指定文化財等データベースは登録建造物を種別で分類しており、接合井と隣の旧配水池は違う種別に入っている。旧配水池は「その他工作物」、土木構造物の分類だ。接合井は「建築物」である。
理由は煉瓦の胴にある。地中のコンクリート水槽は工作物だが、その上に壁と扉と意匠をもつ屋根つきの煉瓦の家をかぶせれば、それは建築になる。種別が反映しているのは中の水槽ではなく外の覆屋のほうで、蓋で済むところに大正12年の誰かが建物を選んだことの、静かな追認である。
関連して一点。国の台帳の構造欄は「コンクリート造平屋建」と記し、これは接合井本体を指す。同じ台帳の解説文は煉瓦造上屋に触れる。松本市の解説は、本体がコンクリート造、覆屋が煉瓦造と明示している。円筒のなかの円筒として理解すれば、三つの記述は矛盾しない。
位置についても資料に軽い差がある。国の台帳は島内第一水源地より約六〇〇メートル北東の高台とし、松本市は600mほど東とする。距離では一致している。
現況と、見学
接合井はすでに使われていない。水はここを通らず、この施設が満たしていた配水池も空である。
残り方としては、隣より恵まれた。旧配水池は敷地内の新施設建設で北東の一角と階段の半分を失った。接合井は失っていない。扉を除いて大きな改修等の跡は見られず、ほぼ当初の姿が残されている、というのが松本市の評価だ。
登録は平成27年(2015年)8月4日、第81回登録、番号20-0484。基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録制度は平成8年に始まり、許可ではなく届出で動く。国宝や重要文化財を生む指定に比べて軽い道具であり、近代の建造物が壊される前に間に合う速度で動くために設計されている。この建物は施設群のなかで早くから目に留まっていた。平成19年度から20年度にかけての長野県教育委員会による近代遺産総合調査が旧城山配水池と接合井を候補に挙げ、平成25年9月に現地に入った文化庁調査官が、城山と島内の施設を一つの系として一体登録してはどうかと助言している。
敷地は通常公開されていない。松本市は出前講座「いい街つくろう!パートナーシップまつもと」を通じて施設見学を受け付けており、電子申請で生涯学習課へ申し込む。時期や工事の状況に左右される。城山そのものは松本城の北西の高台にあり、登る価値のある場所ではある。
Q&A
- 接合井は何をする施設ですか。
- 送水を中継する施設です。島内第一水源地から揚げられた水はまずここに届き、ここから隣の配水池へ送られました。長い送水を段に分けることで水圧を制御し流量を管理できます。接合井は、一つの段が終わり次の段が始まる地点にあたります。
- 水道施設になぜアール・デコの意匠が必要だったのですか。
- 松本市が最初の水道を、表現に値する市の達成として扱ったためと考えられます。煉瓦は当時最高の建材で、接合井、配水池の入口棟、島内の旧喞筒室がいずれも幾何学的なアール・デコ調の意匠を共有しています。接合井と喞筒室では、開口部の上に松本市水道のエンブレムが掲げられています。
- 隣の旧配水池は「その他工作物」なのに、接合井が「建築物」なのはなぜですか。
- 煉瓦造の覆屋があるからです。国指定文化財等データベースは、旧配水池を土木構造物にあたる「その他工作物」に、接合井を「建築物」に分類しています。接合井の本体はコンクリートの水槽ですが、壁と扉と意匠をもつ屋根つきの煉瓦の建物がそれを包んでおり、種別が捉えているのはこの覆屋のほうです。
- 大きさはどのくらいですか。
- 小さいです。煉瓦造の覆屋は直径約4.91メートル、登録上の建築面積は20平方メートル。内部のコンクリート造の本体は内径約3.34メートル、壁厚約0.34メートルです。構造物全体が、ちょっとした一部屋に収まる規模です。
- 見学はできますか。
- 事前の申込みが必要です。城山の敷地は通常公開されていません。松本市の出前講座を通じた施設見学の申込み制度があり、電子申請で生涯学習課へ送りますが、希望に沿えない場合もあります。
基本情報
| 名称 | 松本市上下水道局城山配水地接合井 |
|---|---|
| ふりがな | まつもとしじょうげすいどうきょくじょうやまはいすいちせつごうせい |
| 指定等区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成27年(2015年)8月4日/第81回登録/登録番号 20-0484 |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 種別 | 生活関連/建築物 |
| 時代・年代 | 大正12年(1923年) |
| 員数 | 1基 |
| 構造及び形式等 | コンクリート造平屋建、建築面積20平方メートル |
| 規模・形式 | 本体:コンクリート造円形水槽、内径約3.34メートル、壁厚約0.34メートル/覆屋:煉瓦造平屋建、直径約4.91メートル、全体に幾何学模様、腰・柱形等はモルタル塗、開口部上部に松本市水道のエンブレム |
| 位置 | 旧配水池のすぐ西側。島内第一水源地より約600メートル |
| 所在地 | 長野県松本市大字蟻ヶ崎字城山腰1133-1 |
| 所有者 | 松本市 |
| 現況 | 使用停止。扉を除いて大きな改修等の跡は見られない |
| 公開状況 | 通常非公開。松本市出前講座を通じた施設見学の申込みが可能(電子申請・生涯学習課) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース 松本市上下水道局城山配水地接合井(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010593
- 松本市 松本市上下水道局城山配水地〔2棟〕
- https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/134/3782.html
- 松本市上下水道局 文化財として登録されている水道施設
- https://www.city.matsumoto.nagano.jp/site/jougesuidou/123765.html
最終更新日: 2026.07.16