旧苅田家住宅とは ― 津山城下で酒造りを続けた栄屋の屋敷

旧苅田家住宅(きゅうかんだけじゅうたく)は、岡山県津山市勝間田町にある江戸時代中期から明治時代にかけて整えられた酒造家の屋敷で、平成28年(2016年)に主屋をはじめとする10棟が重要文化財に指定された。「苅田」は「かんだ」と読む。

屋敷は旧津山城下の東側、城東地区の町並みの西寄りにあり、出雲往来に北面して建つ。文化庁の解説によれば、主屋は旧城下に残る町家のなかで最も大きい。

苅田家は元和8年(1622年)に近郷の植月村(現在の勝央町植月)から城下へ移り住み、はじめは問屋業を営んだ。宝暦8年(1758年)に6代治七郎が酒造業を始めたと伝えられ、屋号を「栄屋」として商いを広げた。江戸時代後期には年寄役や質屋頭などの役を務める城下屈指の大店になり、明治以降も酒造を本業としながら銀行業や電力業にも手を広げている。

指定されたのは、主屋、三階蔵、米蔵、前蔵、西蔵、大蔵、醤油蔵、新蔵、巽門及び浴室、裏門の10棟である。主屋と西蔵の祈祷札、三階蔵と米蔵の棟札も附(つけたり)として指定に含まれる。所有者は津山市である。

重要文化財としての価値 ― 史料でたどれる屋敷の成長

文化庁は旧苅田家住宅を、「歴史的価値の高いもの」と「流派的又は地方的特色において顕著なもの」の2つの基準で評価した。主屋の構造や間取り、意匠が地方の町家の典型を示すこと、そして酒造業の発展とともに屋敷が広がっていった過程が史料で裏づけられることが、その理由である。

家屋の売買証文や家割図を突き合わせると、敷地の拡大はかなり細かく追える。享保15年(1730年)、4代源右衛門が角地にあった間口4間半の町家を買ったのが出発点である。治七郎の代に西隣の買収が進み、間口は宝暦6年(1756年)に9間半、天明8年(1788年)に12間半、寛政2年(1790年)に14間に達して、ほぼ今の幅になった。

敷地の南半分は、町人地と武家地を分けていた背割溝を越えて鉤形に延びている。天保3年(1832年)に8代與惣左衛門が藩から武家地を借りる許可を得て、醸造場を南側へ広げたためである。9代與惣左衛門がさらに設備を整え、江戸時代末期には現在の屋敷構えがおおむね出来上がった。北半分が住まい、南半分が仕事場という使い分けは、この経緯をそのまま映している。

各棟の年代も多くが史料で押さえられている。棟札などから、西蔵は寛政2年(1790年)、三階蔵と米蔵は天保3年(1832年)、主屋の新座敷は天保10年(1839年)の建築と分かる。大蔵と醤油蔵は売買証文から天保5年(1834年)頃、巽門及び浴室と新蔵は家相図から明治の建築とされる。裏門は前身の武家屋敷の遺構とみられ、10棟のなかで唯一、江戸時代中期の建築と考えられている。

主屋そのものの年代ははっきりしない。文化庁の詳細解説は、宝暦6年から寛政2年のあいだに建てられ、天保年間に接客部分を改築し、明治30年(1897年)頃に望楼付きの二階座敷を増築したと推定している。なお文化庁のデータベースでは、西蔵の時代区分が「江戸末期」、年代が「寛政2」と記されており、両者は一致していない。

旧苅田家住宅の見どころ

28.5メートルに及ぶ主屋の正面

旧苅田家住宅の主屋は、主体部が桁行19.7メートル、梁間9.9メートルのつし二階・切妻造・桟瓦葺で、四方に下屋を回し、通りに面した北と東の下屋は本瓦葺にしている。西側には新座敷及び玄関が軒を連ねて続き、正面の総長は28.5メートルになる。通りの端から端まで歩いてみると、その長さが実感できる。

表構えは、出入口脇の窓に格子、ほかの窓に出格子を付け、1階の腰壁を下見板張り、2階の腰壁を海鼠壁とする。文化庁はこれを当地方の町家に典型的な形と説明している。表の出入口が半間ほど奥まって引違いの格子戸を構えている点も、正面から見ると分かる。東側の路地に面した壁は2階から上を塗り込め、水切庇と海鼠壁で仕上げている。

内部は、東側に幅3間半の土間(ニワ)を通し、その西に3列で部屋を並べる。表から店之間(ミセ)と店中之間(チョウバ)が続き、奥には本座敷が庭園に向かって開く。

望楼をもつ二階座敷

主屋の背面中央から南へ突き出すのが、明治に増築された二階座敷である。桁行7.9メートル、梁間5.9メートルの入母屋造で、その上に桁行3.9メートル、梁間2.9メートルの寄棟造の望楼が載る。望楼の中は四畳半の1室で、竿縁天井を矢筈(やはず)に張り、東・西・南の三方をすべて窓にして高欄付きの小縁を回している。文化庁は、この二階座敷に近代的な趣向が表れていると評価している。

土蔵群と長い裏門

主屋の裏には土蔵が集まる。三階蔵は桁行6.8メートル、梁間4.9メートルの3階建で、家財道具をしまう蔵だった。土戸や銅板包みの窓扉、水切瓦を備え、腰壁や四隅を海鼠壁で丁寧に仕上げている。隣の米蔵は造りこそ似ているが、窓の庇や水切瓦を省いた簡素な仕上げで、並べて見比べると仕上げの差が分かる。

醸造の中心は、桁行19.7メートルの大蔵である。前蔵と西蔵は2階を渡廊下でつなぎ、1階の南面を大蔵へ開いて一体の醸造蔵として使われてきた。醤油蔵は桁行18.4メートルと細長く、北側の3間半だけに2階を設けている。新蔵は桁行13.7メートルで、屋根はスレート葺である。

巽門及び浴室は、路地側の高塀を兼ねた小さな建物で、北半分に門を開き、南半分の屋根を葺き下ろして浴室とし、煉瓦造の煙突を立てている。敷地の南端を区切る裏門は、桁行29.0メートルに及ぶ長屋門で、10棟のなかでいちばん長い。

旧苅田家住宅の見学方法とアクセス

旧苅田家住宅の内部は、通常は公開されていない。津山市は主屋ほか9棟の保存修理工事(第1期)を計画しており、令和7年度(2025年度)の発注見通しでは、その設計監理業務の期間を69か月としている。内部を見られる機会は限られるため、公開の予定は津山市や津山市観光協会の告知で確かめたい。

外観は公道から見ることができる。北側の出雲往来に立つと主屋の長い正面が、東側の路地からは三階蔵や米蔵、巽門の並びが見える。南側では、旧堤防上の通りに面して裏門が延びている。周囲は住宅地でもあるので、撮影は通行や近隣の迷惑にならない範囲で行いたい。

城東地区へは、JR津山駅から市内循環の「ごんごバス」に乗り、「東新町」で降りるとすぐ町並みに入る。旧苅田家住宅は地区の西寄りにあるため、そこから通りを西へ歩くことになる。車の場合は中国自動車道の津山インターチェンジから城東地区まで約15分で、城東観光駐車場を使える。町並みの案内は城東観光案内所(電話0868-24-6288)が受け付けている。

Q&A

Q旧苅田家住宅の内部は見学できますか?
A通常は非公開です。津山市は保存修理工事を計画しており、内部を見られる機会は限られます。公開の予定は津山市や津山市観光協会の告知で確認してください。
Q旧苅田家住宅の外観はどこから見るのがよいですか?
A北側の出雲往来からは総長28.5メートルの主屋正面が、東側の路地からは三階蔵・米蔵・巽門が見えます。南側の通りには長さ29.0メートルの裏門が面しています。
Q旧苅田家住宅へはJR津山駅からどう行けばよいですか?
AJR津山駅から市内循環「ごんごバス」で「東新町」へ行くと城東地区の町並みに入れます。旧苅田家住宅は地区の西寄りにあるので、通りを西へ歩いてください。車なら城東観光駐車場が使えます。
Q旧苅田家住宅の「苅田」は何と読みますか?
A「かんだ」と読み、旧苅田家住宅は「きゅうかんだけじゅうたく」です。苅田家は「栄屋」の屋号で酒造業を営みました。
Q旧苅田家住宅で重要文化財に指定されているのはどの建物ですか?
A平成28年(2016年)に、主屋、三階蔵、米蔵、前蔵、西蔵、大蔵、醤油蔵、新蔵、巽門及び浴室、裏門の10棟が指定されました。祈祷札と棟札も附として含まれます。

基本情報

名称旧苅田家住宅(岡山県津山市勝間田町)
所在地岡山県津山市勝間田町17番地
指定区分重要文化財(建造物)
指定年平成28年(2016年)
員数10棟 附 祈祷札3枚、棟札2枚
寸法主屋 主体部 桁行19.7m・梁間9.9m、正面総長28.5m
所有者津山市
公開状況内部は通常非公開(外観は公道から見学可)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧苅田家住宅(岡山県津山市勝間田町) 主屋」(詳細解説を含む)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004907
文化庁 国指定文化財等データベース「旧苅田家住宅(岡山県津山市勝間田町) 裏門」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004916
文化遺産オンライン「旧苅田家住宅(岡山県津山市勝間田町) 主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/288293
津山市「津山市内の国指定文化財」
https://www.city.tsuyama.lg.jp/article?articleId=65b39558319ffe392a806840
津山市「令和7年度 公共工事の発注見通し【業務】」(PDF)
https://prdurbanostymapp1.blob.core.windows.net/common-article/67314c22523bee40a3d43b92/%E3%80%90%E6%A5%AD%E5%8B%99%E3%80%91%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%A7%98%E5%BC%8F%EF%BC%88%E7%B5%B1%E4%B8%80%E6%A7%98%E5%BC%8F%EF%BC%89%EF%BC%9CR7%E5%B9%B44%E6%9C%88%E5%85%AC%E8%A1%A8%E5%88%86%EF%BC%9E.pdf
岡山観光WEB(岡山県観光連盟)「城東伝統的建造物群保存地区」
https://www.okayama-kanko.jp/spot/detail_10510.html

最終更新日: 2026.09.16

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