旧野﨑家住宅とは ― 塩田王・野﨑武左衛門の屋敷

旧野﨑家住宅は、岡山県倉敷市児島味野にある江戸時代末期の大庄屋の屋敷で、天保4年(1833年)頃に建てられた主屋をはじめとする12棟が、平成18年(2006年)に国の重要文化財に指定された。塩田開発で財を成した野﨑武左衛門(1789〜1864年)が築いた邸宅で、現在は公益財団法人竜王会館が「野﨑家塩業歴史館」として公開している。文化庁のデータベースでの読みは「きゅうのざきけじゅうたく」で、地元では「野﨑家旧宅」の名でも通っている。

野﨑家は、16世紀中頃(館の案内では16世紀後半)にこの地へ移り住んだと伝わる旧家である。18世紀末に家運がいったん傾いたが、武左衛門が足袋の製造販売で蓄えた資金を元手に、文政12年(1829年)、児島の沖合に入浜式の野﨑浜塩田を築いて成功を収めた。新田開発にも力を入れて大地主となり、天保4年(1833年)には大庄屋格に取り立てられている。孫の野﨑武吉郎(1848〜1925年)は、明治23年(1890年)に貴族院議員に選ばれた。

屋敷は西に竜王山を背負い、その麓に南北に細長く広がる。敷地のほぼ中央に主屋が東を向いて建ち、南東へ玄関棟を介して表書院が続く。東辺の中ほどに長屋門と御成門が並び、主屋の北には土蔵が一列に整然と並ぶ。

館の案内によれば、敷地はおよそ3,000坪、建物の延床面積は約1,000坪に及ぶ。家業は昭和9年(1934年)に法人経営へ移り、旧野﨑家住宅は昭和45年(1970年)に竜王会館の所有となった。昭和62年(1987年)に一般公開が始まり、平成7年(1995年)には登録博物館となっている。

重要文化財としての旧野﨑家住宅 ― 12棟と附8棟

旧野﨑家住宅は、平成18年(2006年)12月19日に重要文化財に指定された。対象は主屋・玄関棟・表書院・長屋門・御成門・内蔵・夜具蔵・大蔵・書類蔵・新蔵・岡蔵・味噌蔵の12棟である。これに加えて、納屋、便所、容膝亭・観曙亭・臨池亭の茶室3棟、腰掛待合、雪隠2棟の計8棟が附(つけたり)として指定に含まれている。文化庁の指定基準では「流派的又は地方的特色において顕著なもの」にあたる。

建築年代は、棟札や家の記録からかなり細かくわかっている。主屋が天保4年(1833年)頃、長屋門と御成門が天保9年(1838年)、玄関棟と表書院が嘉永5年(1852年)。土蔵は江戸末期から明治中期にかけて順に建て足され、書類蔵は明治23年(1890年)、内蔵は明治34年(1901年)の建築である。夜具蔵は江戸末期に建てられたのち、明治22年(1889年)に移築された。

文化庁の解説が評価する点は2つある。1つは、長大で独特な間取りの主屋と、上質な材でまとめた表書院を備える、規模の大きな上層民家としての質の高さ。もう1つは、主屋や書院だけでなく土蔵群、味噌蔵、庭の茶室までが揃い、屋敷全体の構成が江戸末期以来のかたちで保たれていることだ。解説はこの旧野﨑家住宅を、江戸時代末期の瀬戸内地方を代表する民家の1つと位置づけている。

旧野﨑家住宅の見どころ

九つの座敷を見通す主屋

旧野﨑家住宅の中心は、南北に長く延びる主屋である。北側の居室部は桁行30.2メートル、梁間14.1メートルの2階建で、その南に桁行11.1メートルの平屋の座敷部が接続する。館は主屋の長さを23間(約42メートル)と案内しており、連なる9つの座敷を端から端まで見通せる。

居室部は、ほぼ中央に設けた玄関と通り土間を境に南北に分かれる。北側は6室の間取りで、通り土間の西には広い台所がある。日中にはおよそ50人がこの屋敷で暮らし、働いていたといい、台所には当時の道具が数多く残る。座敷部は床の間・棚・付書院を備えた8畳の上ノ間と10畳の次ノ間からなり、西へ突き出した部分には置床のある「源氏ノ間」が設けられている。屋根は入母屋造、本瓦葺で、2階の軒を出桁造とする。

客を迎えた表書院と玄関棟

表書院は嘉永5年(1852年)の建物で、桁行16.2メートル、梁間11.4メートル。南に床・棚・付書院を構えた12畳半の座敷、北に床付きの15畳間を置き、東から南へ鉤の手に畳廊下と縁を回す。柱や長押には良質の檜が使われ、座敷境には波をかたどった欄間が入る。後世の改造がほとんどなく、軸部から小屋組まで建てられた当初の形式をよく保っている。

縁に腰を下ろして軒先を見上げてほしい。深い庇を支える長い桁は、館の案内ではアカマツの一本物で、長さ17メートルに及ぶという。表書院と主屋をつなぐ玄関棟は、式台を備えた玄関と、日常の出入りに使われた内玄関からなる。

石垣の上の長屋門と御成門

旧野﨑家住宅の正面を構えるのは、精緻に積んだ石垣の上に東面して建つ長屋門である。桁行25.9メートルの入母屋造で、表側の開口部には出格子を付け、壁の腰は押縁下見板張とする。門口の南に2室、北に4室が並び、休憩所や簡易な宿泊の場としても使われたという。

長屋門の南に寄り添う御成門は、間口2メートルの一間一戸薬医門で、左右に屋根付きの塀を延ばす。御成門とは本来、身分の高い来訪者を迎えるための門を指す。長屋門とともに天保9年(1838年)の建築であることが記録から判明している。

6棟の土蔵と味噌蔵

主屋の北には、南から内蔵・夜具蔵・大蔵・書類蔵・新蔵・岡蔵の6棟の土蔵が並ぶ。いずれも土蔵造2階建、本瓦葺で、外壁の上部や隅に海鼠壁を回す。最も大きい大蔵は桁行16.3メートル、梁間7.9メートル。館によれば、蔵ごとに建てられた年代も海鼠壁の模様も異なるので、並んだ壁面を順に見比べると違いが拾える。岡蔵は平成9年(1997年)に第2展示館へ改装され、江戸時代以来の民具や生活道具を展示している。

土蔵群の背後に建つ味噌蔵は江戸末期の建物で、1階北側に約4メートル四方の「ムロ」を設け、南西の隅には井戸が残る。屋敷の食を支えた裏方の建物まで指定に含まれている点に、旧野﨑家住宅の屋敷構成の厚みがうかがえる。

枯山水の庭と3席の茶室

表書院の南東に広がる庭は、平らな部分を海に見立てた枯山水で、築山や石組、露地が巧みに配されている。奥の築山には犬島石を用いた蓬莱石組が据えられ、枯滝の表現も兼ねる。初夏にはサツキが咲きそろう。庭には附指定の茶室3席が点在し、容膝亭は裏千家の名席「又隠」を写したもの、観曙亭は築山の上に杉材で建てられ、臨池亭は丸窓のある面を苔むした枯池に向けている。

旧野﨑家住宅の見学方法とアクセス

旧野﨑家住宅は「野﨑家塩業歴史館」として公開されており、主屋や表書院、土蔵の展示館をめぐって見学できる。開館は午前9時から午後4時30分までで、午後5時に閉門する。休館日は毎週月曜日(祝日の場合はその翌日)と年末年始(12月25日〜1月1日)。臨時の休館日が設けられることもあるので、出かける前に公式サイトのお知らせを見ておきたい。

入館料は大人(高校生以上)500円、小中学生300円で、幼児は無料。土曜・日曜・祝日は小中学生と高校生が無料になる。30人以上の団体は2割引で、事前の予約が必要だ。

公共交通では、JR瀬戸大橋線(本四備讃線)の児島駅から北西へ約1キロメートル、公式サイトの案内で徒歩約25分。車なら瀬戸中央自動車道の児島インターチェンジから約10分で、無料駐車場(乗用車36台、大型バス5台)がある。

訪問前に知っておきたいのが耐震工事である。旧野﨑家住宅では令和8年度(2026年度)から耐震工事が始まり、終了は令和19年(2037年)の予定とされる。このうち令和8年から令和12年(2030年)にかけては、長屋門と御成門をいったん解体し、液状化に備えて石垣上の基礎を補強したうえで組み直す工事が行われる。これに伴って受付は表玄関へ移り、敷地内には高さ約2メートルの工事用囲いが設けられる。建物後方の崖地側は見学できない。工事箇所以外は見学を続けられるが、景観は大きく変わると館は案内している。

撮影の可否について、公式サイトには明記がない。展示室や企画展によって扱いが異なることも考えられるため、受付で確かめるとよい。予約をすれば、学芸員の手ほどきで昔ながらの製法による塩づくり体験(参加無料、小学生以上)もできる。

Q&A

Q旧野﨑家住宅の開館時間と入館料は?
A開館は午前9時から午後4時30分まで(午後5時閉門)です。入館料は大人(高校生以上)500円、小中学生300円、幼児無料で、土曜・日曜・祝日は小中学生と高校生が無料になります。休館日は毎週月曜日(祝日の場合は翌日)と12月25日〜1月1日です。
Q旧野﨑家住宅へJR児島駅から歩いて行けますか?
A行けます。児島駅から北西へ約1キロメートル、公式サイトの案内では徒歩約25分です。車の場合は瀬戸中央自動車道の児島インターチェンジから約10分で、無料駐車場があります。
Q旧野﨑家住宅は耐震工事中でも見学できますか?
A工事箇所以外は見学できます。令和8年度(2026年度)から令和19年(2037年)までの予定で工事が進められ、令和12年(2030年)までは長屋門と御成門の解体・復旧が行われます。建物後方の崖地側は見学できず、受付は表玄関に移っています。
Q旧野﨑家住宅の重要文化財にはどの建物が含まれますか?
A主屋・玄関棟・表書院・長屋門・御成門・内蔵・夜具蔵・大蔵・書類蔵・新蔵・岡蔵・味噌蔵の12棟です。ほかに茶室3棟(容膝亭・観曙亭・臨池亭)や腰掛待合など8棟が附として指定されています。
Q旧野﨑家住宅はいつ、誰が建てたのですか?
A塩田開発で財を成した野﨑武左衛門が、天保4年(1833年)頃の主屋を皮切りに建てていきました。長屋門と御成門は天保9年(1838年)、表書院と玄関棟は嘉永5年(1852年)の建築で、土蔵は明治中期にかけて建て足されています。

基本情報

名称旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野)
所在地岡山県倉敷市児島味野1丁目11番19号
指定区分重要文化財(建造物)
指定年平成18年(2006年)
員数12棟(附8棟)
寸法主屋居室部 桁行30.2m・梁間14.1m、主屋座敷部 桁行11.1m・梁間7.0m、長屋門 桁行25.9m・梁間4.9m
所有者公益財団法人竜王会館
公開状況公開(野﨑家塩業歴史館、有料、月曜休館)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004147
文化庁 国指定文化財等データベース「旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 表書院」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004149
文化庁 国指定文化財等データベース「旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 長屋門」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004150
文化庁 国指定文化財等データベース「旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 新蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004156
文化遺産オンライン「旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/177352
倉敷市「旧野﨑家住宅(きゅうのざきけじゅうたく・のざきけきゅうたく)」
https://www.city.kurashiki.okayama.jp/culture/art/1007596/1007597/1011206/1007603/1007609.html
文化庁 日本遺産ポータルサイト「旧野﨑家住宅」
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/2902/
旧野﨑家住宅 野﨑家塩業歴史館「見どころ」
https://www.nozakike.or.jp/point
旧野﨑家住宅 野﨑家塩業歴史館「野﨑家について」
https://www.nozakike.or.jp/about-nozakike
旧野﨑家住宅 野﨑家塩業歴史館「歴史・沿革」
https://www.nozakike.or.jp/history
旧野﨑家住宅 野﨑家塩業歴史館「営業時間・料金」
https://www.nozakike.or.jp/information
旧野﨑家住宅 野﨑家塩業歴史館「交通アクセス」
https://www.nozakike.or.jp/access
旧野﨑家住宅 野﨑家塩業歴史館「工事開始」
https://www.nozakike.or.jp/post/_%E5%B7%A5%E4%BA%8B%E9%96%8B%E5%A7%8B
旧野﨑家住宅 野﨑家塩業歴史館(公式サイト トップ・お知らせ)
https://www.nozakike.or.jp/
岡山観光WEB「旧野﨑家住宅」
https://www.okayama-kanko.jp/spot/detail_10299.html

最終更新日: 2026.09.25

同エリアの文化財

いずれも同じエリアの徒歩圏内にあるので、あわせての見学がおすすめです。

  1. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 新蔵 0.00 km
  2. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 岡蔵 0.01 km
  3. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 書類蔵 0.01 km
  4. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 味噌蔵 0.02 km
  5. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 大蔵 0.02 km
  6. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 内蔵 0.03 km
  7. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 夜具蔵 0.03 km
  8. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 主屋 0.05 km
  9. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 長屋門 0.05 km
  10. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 玄関棟 0.06 km
  11. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 御成門 0.07 km
  12. 旧野﨑家住宅(岡山県倉敷市児島味野) 表書院 0.08 km