雪舟の寺として知られる備中の禅林
寶福寺は、岡山県総社市井尻野にある臨済宗東福寺派の寺院で、戦国時代の兵火のあと江戸時代から明治時代にかけて整えられた建造物24件が、平成21年(2009年)に国の登録有形文化財に登録された。一般には「宝福寺」、山号を冠して「井山宝福寺(いやまほうふくじ)」とも書かれる。文化庁の登録名称は旧字の「寶福寺」を用いている。
総社市の説明によれば、寺はもともと天台宗の寺院として開かれ、鎌倉時代の中頃に、岡山県内ではいち早く臨済宗へ改宗した。京都の東福寺と結びつきが強く、最も栄えた時期には塔頭・学院が55、山外の末寺が300余りを数えたと伝えられる。
寺の名をいちばん広く知らしめているのは、画僧雪舟である。雪舟は応永27年(1420年)に備中赤浜、現在の総社市赤浜に生まれたとされ、幼くして寶福寺に入った。涙でネズミの絵を描いたという逸話がこの寺に残る。のちに京都の相国寺へ移り、周文のもとで水墨画を学んだ。ネズミの逸話は方丈を舞台として語られている。
伽藍のうち最も古いのは、仏殿の後方の小高い場所に建つ三重塔である。解体修理の際に永和2年(1376年)の墨書銘が見つかっており、岡山県内では2番目に古い塔とされる。三重塔は昭和2年(1927年)に国の指定を受けた重要文化財で、登録有形文化財の24件とは制度の異なる文化財である。
兵乱からの再建と24件の登録
天正3年(1575年)の備中兵乱で、寶福寺は伽藍の多くを失った。何が焼け残ったかについて、総社市の説明は二通りある。三重塔の紹介では戦火を免れた唯一の建物を三重塔とし、登録建造物群の紹介では仏殿と三重塔を除く多くの建物が焼失したと書く。現在の仏殿は文化庁のデータベースで享保20年(1735年)の建築とされており、今日見る仏殿自体は再建後の建物である。
江戸時代以降、領主や近隣の豪商の援助と歴代住職の尽力によって、堂舎は少しずつ建て直された。その積み重ねが、仏殿・方丈・庫裏・禅堂などの七堂伽藍に、鐘楼・経蔵・開山堂、さらに井戸や石垣、石橋までを加えた現在の境内である。総社市はこれを、七堂伽藍を整えた近世禅宗寺院の代表的な例として紹介している。
登録は2回に分けて行われた。平成21年(2009年)1月8日に方丈・玄関及び食堂・庫裏・宝蔵・中井戸・典座井戸の6件が登録され、同年4月28日に仏殿・山門・経蔵・鐘楼・禅堂・書院・開山堂、秋葉宮の社殿群など18件が加わった。登録番号は33-0204の方丈から33-0227の秋葉宮石垣及び玉垣まで連続している。
年代の幅は広い。最も古いと伝わるのは江戸時代前期の千尺井で、建築年が明らかなものでは享保20年の仏殿が最も早い。宝暦14年(1764年)の経蔵、寛政5年(1793年)の宝蔵、文化3年(1806年)の開山堂表門と石垣・土塀、文化11年(1814年)の禅堂と典座井戸、文政元年(1818年)の鐘楼、文政11年(1828年)の獨木橋と続き、明治25年(1892年)の秋葉宮五社明神宮と明治27年(1894年)の秋葉宮手水舎、明治後期の山門で終わる。江戸時代前期から明治時代後期まで、再建の順序を一つの境内でたどれる。
境内の歩き方
伽藍は東を正面とする。東の端に明治後期の楼門である山門が建ち、その前の石段の両側を、江戸時代後期の石垣と白漆喰の土塀が固める。石段の東方には花崗岩の石橋、獨木橋が架かる。山門をくぐると正面に仏殿が東を向いて構え、仏殿の背後の高みに三重塔が建つ。山門・仏殿・三重塔がほぼ東西の軸線上に並ぶ配置である。
仏殿の西北の一段高い場所に白壁の経蔵、南西に千尺井がある。仏殿から北へ進むと、方丈を中心に、その東に玄関及び食堂、さらに東に庫裏が南を向いて並ぶ。方丈の前は土塀で区切られ、庫裏の南に鐘楼、周囲に典座井戸・中井戸・宝蔵・書院・禅堂が配される。住持の居所と台所、修行の場がこの北側の一画にまとまっている。
仏殿の南方には、一段高く造成された開山堂の区画がある。北向きの表門と石段、その両脇から延びる石垣と土塀は、いずれも文化3年の築造である。
境内の北西、長い石段を上った高台には秋葉宮がある。石段の途中に石門が立ち、上りきると手水舎と拝殿、拝殿から渡殿でつながる本殿、その背後に5基の石祠が並ぶ。いずれも明治期の建造物で、禅寺の山内に設けられた社である。寺の背後にそびえる秋葉山(標高247.4メートル)の山頂にも、寺の鎮守として秋葉・金毘羅の二神が祀られていると岡山県は紹介している。
山門から仏殿、北側の方丈・庫裏の一画、南の開山堂、北西の秋葉宮と回ると、登録された24件をひととおり見ることができる。建物の多くは寺の日常に使われており、堂内や室内を常時公開するという案内は、県や市の観光案内には出ていない。見学は外観が中心になる。
拝観とアクセス
岡山県の観光案内によれば、参拝時間は午前5時から午後5時まで。境内の拝観料の記載はなく、料金が示されているのは坐禅の参加費だけである。定例の坐禅会は8月を除く毎月第2日曜日に開かれ、中学生以上500円。坐禅体験は電話で日時を決める形で、小学生以上1,000円。問い合わせ先は寶福寺(0866-92-0024)である。
電車ではJR総社駅が最寄りで、歩くと約30分、車なら約10分。車では岡山自動車道の岡山総社ICから約15分で、境内には普通車75台分の駐車場がある。大型車は西側の第二駐車場を使う。
歩いて訪ねるなら、岡山県が紹介している「秋葉山と井山宝福寺を訪ねるみち」がある。JR豪渓駅から秋葉山を越えて寶福寺に下り、JR総社駅へ抜ける7.8キロメートルの道で、山頂の展望台からは南側の眺めが開けるという。
境内の紅葉は例年11月中旬が見ごろとされる。建物の撮影を制限する掲示は寺や観光案内には見当たらないが、法要や坐禅会の最中は控え、寺の方々の生活の場である方丈・庫裏まわりでは出入口をふさがないようにしたい。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)寶福寺方丈
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007587
- 国指定文化財等データベース(文化庁)寶福寺仏殿
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007671
- 国指定文化財等データベース(文化庁)寶福寺秋葉宮石垣及び玉垣
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00007688
- 総社市 国登録_宝福寺建造物群(方丈・庫裏・仏殿など全24件)
- https://www.city.soja.okayama.jp/soshiki/26/2960.html
- 国指定文化財等データベース(文化庁)宝福寺三重塔
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/3028
- 総社市 国指定_宝福寺三重塔
- https://www.city.soja.okayama.jp/soshiki/26/2878.html
- 総社観光ナビ(総社市)宝福寺
- https://www.city.soja.okayama.jp/site/kanko/3605.html
- 岡山県 秋葉山と井山宝福寺を訪ねるみち
- https://www.pref.okayama.jp/page/573726.html
- 岡山観光WEB 宝福寺
- https://www.okayama-kanko.jp/spot/detail_10821.html
最終更新日: 2026.09.25
基本情報
| 名称 | 寶福寺 |
|---|---|
| 所在地 | 岡山県総社市井尻野1968-1 |
| 所有者 | 宗教法人寶福寺 |
| 指定 | 重要文化財 1件・登録有形文化財 24件 |
| 座標 | 34.69125, 133.73406 |