白壁のなかの赤い柱
藤居本家の敷地北辺に一一メートルの高さで立つ煉瓦煙突は、長く低い土蔵が連なる敷地のなかで唯一の垂直の要素である。軸部は一辺約一・三メートルの矩形平面をもち、仕込蔵と清酒蔵の間に建って、酒米を蒸す釜場に接続する。両側に広がる土蔵の白漆喰と屋根瓦に対して、むき出しの赤煉瓦は意図された対照として目に映る。
建設は大正一二年(一九二三年)頃、昭和前期に改修が加えられた。この煙突が付属する東蔵群と同じ時期に築かれたもので、酒造場の作業部分に現在の姿を与えた一連の造営の一部をなす。
イギリス積の煙突
煉瓦の積み方は、日本でイギリス積と呼ばれる手法による。小口を見せる段と長手を見せる段を交互に重ねる積み方で、明治から大正にかけての産業用・公共用の煉瓦造で好まれた堅牢な方式である。この積み方が、軸部に規則正しい横縞の肌合いを与えている。蒸気を扱う釜に付く実用の煙道でありながら、目地の丁寧さそのものに見どころがある。
煙突は平成二〇年(二〇〇八年)一〇月、先の住宅の登録に東蔵の建物群を加える回で登録有形文化財となった。その登録上の価値は歴史的景観への寄与にある。稼働する酒造場の性格を、一本の垂直な形として定着させた煉瓦の標である。
立つ位置
藤居本家は天保二年(一八三一年)以来「旭日」を醸してきた蔵元であり、煙突は切り離された記念物ではなく、稼働する酒造場の一部である。無料の蔵見学が予約制で行われ、煙突は二棟の大きな土蔵の間に立ち上がる敷地北側から最も見やすい。仕込みは例年一一月から翌三月初めにかけて行われるため、冬は建物が最も活気づき、その構成も読み取りやすい。
隣に建つ清酒蔵の漆喰の妻面と、煉瓦とが接する部分を見てほしい。焼成された赤煉瓦と石灰の白漆喰という、性質の異なる二つの素材が出会うこの接点こそ、登録が取り上げる見どころであり、煙突と隣接する土蔵が一つの画面に収まる距離から眺めるのがよい。
Q&A
- 煙突は何に使われていましたか。
- 清酒蔵の釜場に接続し、酒米を蒸すための火を排煙する役割を担っていました。釜場に直接つながっています。
- イギリス積とは何ですか。
- 小口を見せる段と長手を見せる段を交互に積む煉瓦の手法です。明治・大正期の産業用煉瓦造で広く用いられました。
- 高さや建設年はどれくらいですか。
- 高さ約一一メートル、一辺約一・三メートルの矩形平面です。大正一二年(一九二三年)頃の建設で、昭和前期に改修されています。
- なぜ登録有形文化財なのですか。
- 平成二〇年(二〇〇八年)一〇月に登録され、稼働する酒造場で赤煉瓦が白い土蔵を引き立てる、歴史的景観への寄与が評価されています。
- 見学できますか。
- はい、予約制の無料蔵見学で見ることができます。二棟の土蔵の間に立つ敷地北側からの眺めがおすすめです。
基本情報
| 名称 | 藤居本家東蔵煙突(ふじいほんけひがしぐらえんとつ) |
|---|---|
| 所在地 | 滋賀県愛知郡愛荘町長野601 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成20年(2008年)10月23日 |
| 員数 | 1基 |
| 構造 | 煉瓦造、高さ約11m、一辺約1.3mの矩形平面、イギリス積 |
| 年代 | 大正12年(1923年)頃/昭和前期改修 |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 交通 | JR稲枝駅からタクシー約6分/近江鉄道愛知川駅から徒歩約15分 |
| 所有・運営 | 藤居本家(造り酒屋) |
参考文献
- 蔵元 藤居本家 — 公式サイト
- https://www.fujiihonke.jp/
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 藤居本家東蔵煙突
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007371
- 滋賀県観光情報 — 藤居本家
- https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/1075/
最終更新日: 2026.07.04