旧上杉伯爵邸の中心をなす大広間・玄関棟
上杉神社に隣接する敷地に足を踏み入れると、まず目に入るのが檜と銅板の低く長い屋根である。米沢市上杉記念館の大広間・玄関棟。江戸期を通じて二百六十余年にわたり米沢を治めた上杉家が、伯爵となってからの本邸として構えた建物の中核にあたる。いま見る棟は大正14年(1925年)の竣工で、火災で失われた先代の邸宅を全面的に建て直したときの、正面玄関と接客の要となった部分である。
建築面積は426平方メートル、木造で、平面の大半を平屋とし、屋根を銅板で葺く。設計は米沢出身の建築家、中條精一郎。東京で洋風の煉瓦建築を数多く手がけて名を成した人物だが、この邸宅では洋の語彙をいったん脇に置き、純和風でまとめている。仕口の一つ、板の一枚に至るまで、その丁寧さが伝わってくる。
この地に最初に建てられた邸宅は明治29年(1896年)にさかのぼる。米沢藩最後の藩主で上杉家14代当主にあたる茂憲(もちのり)の本宅として造営され、鶴鳴館(かくめいかん)と称された。大正8年(1919年)5月、米沢を襲った大火に類焼して焼失する。茂憲の逝去からわずか数週間後のことであった。再建は大正11年(1922年)に着工し、大正14年に落成の祝宴を迎えている。
登録の理由と価値
大広間・玄関棟は、平成9年(1997年)6月12日に登録有形文化財(建造物)となった。登録番号は06-0007。同じ敷地に建つ客間棟や土蔵、門までを含む一連の建物群を束ねる、その中心の棟である。
この棟を特色づけるのは、設計者の顔ぶれである。中條精一郎は曾禰達蔵とともに曾禰中條建築事務所を興し、慶應義塾図書館旧館などの洋風建築で知られた。和風の住宅建築は、本来その主戦場ではない。それでも彼はこの仕事を個人として引き受けた。理由もまた個人的なものだった。中條は米沢の生まれであり、若き日にイギリスへ留学した折、後にこの邸を建て直させた上杉家15代当主・憲章と机を並べていたのである。
その経歴は平面にも表れている。各室は武家の接客建築である書院造の伝統を踏まえながら、大広間から居間、さらに奥の紅の間へと、公から私へ移ろう配列は、近代の紳士の邸宅を思わせる。建物は庭園に面して雁行に配され、いずれの部屋も緑へと開く。施工を託されたのは、上杉家に出入りしていた棟梁の江部栄蔵。その手仕事が、この構成全体を上質な仕上がりに保っている。
見どころ
玄関から少し離れて、屋根の稜線を眺めたい。上を寄棟、下を切妻とする入母屋の形は、延びやかに長く低く引かれる。屋根と庇の間には、柱と梁を見せる真壁が現れ、露出した木部の奥に漆喰を控えさせている。華やかさではなく、簡素で清らかな意匠。抑制を重んじた家のための建物であることが、ひと目で見て取れる。
内部では、大広間が広い縁を隔てて庭園に向かう。庭は東京の浜離宮に倣って作られたもので、部屋はほとんどが緑を望むように配された。母屋は総檜で建てられ、その木肌は歳月を経て静かな温もりを帯びている。
この邸は、いまも第二の役目を担っている。昭和54年(1979年)以来、上杉記念館として開かれ、接客の間は米沢の郷土料理で知られる食事処となった。献立には、名君・上杉鷹山が飢饉に備えて広めた救荒食「かてもの」の流れをくむ品も並ぶ。庭は自由に歩くことができ、開館時間には内部を見学でき、かつて伯爵が客を迎えた場で食事もできる。敷地は上杉神社や伝国の杜へも歩いてすぐの距離にある。
Q&A
- 中に入れますか。入館料は必要ですか。
- 庭園は終日出入りが自由で、内部も日中の開館時間に見学できます。入館料はかかりません。建物は食事処も兼ねているため、食事を予定される場合は事前の予約が安心です。
- いま建っているのは、藩主の時代のままの建物ですか。
- 現在の棟は大正14年(1925年)のものです。明治29年(1896年)の最初の邸宅は大正8年の米沢大火で焼失したため、いま見る建物は中條精一郎の設計で再建されたものです。
- 「入母屋」とはどのような屋根ですか。
- 上部を寄棟、下部を切妻とした格式の高い屋根形式です。この棟では長く低く引き延ばされ、屋根と庇の間に真壁を見せる点が外観の見どころになっています。
- 訪れるのに適した時期はありますか。
- 庭園は四季それぞれに見どころがあり、隣接する上杉神社との散策とあわせやすい立地です。毎週水曜が休館で、敷地内にトイレの設備がない点はご留意ください。
基本情報
| 名称 | 米沢市上杉記念館 大広間・玄関棟 |
|---|---|
| 所在地 | 山形県米沢市丸の内1-3-60 |
| 区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成9年(1997年)6月12日(登録番号06-0007) |
| 建築年 | 大正14年(1925年) |
| 構造 | 木造、大半を平屋建、銅板葺/建築面積426平方メートル/1棟 |
| 設計・施工 | 設計:中條精一郎/施工:棟梁 江部栄蔵 |
| 所有者 | 米沢市 |
| 公開 | 上杉神社に隣接。庭園は自由、内部は開館時間に見学可/水曜休館 |
参考文献
- 文化遺産オンライン — 米沢市上杉記念館大広間・玄関棟
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/180093
- 上杉伯爵邸 — 上杉伯爵邸について
- https://hakusyakutei.jp/about/
- 山形の宝 検索navi — 米沢市上杉記念館客間棟
- https://www.pref.yamagata.jp/cgi-bin/yamagata-takara/?m=detail&id=1700
最終更新日: 2026.07.04