敷地の東裏手に独立して建つ蔵

旧磯部家住宅土蔵は、愛知県犬山市大字犬山字東古券にある明治8年(1875年)建築の土蔵で、平成17年(2005年)2月9日に国の登録有形文化財に登録された。土蔵造2階建、瓦葺、建築面積37平方メートル。屋敷の5棟のなかで最も小さい建物である。

建つのは敷地の東裏手。他の建物と接続せず、独立して立つ。桁行3間、梁間2間半で、屋根は切妻造桟瓦葺妻入の形をとる。西面には庇が付く。

本町通りに面した主屋から中庭を抜け、裏庭へ進んだ先にある。旧磯部家住宅土蔵は、商家の敷地が表から裏へどう構成されていたかを確かめる目印になる位置に立つ。

小さな蔵に、なぜ本格的な構えが必要だったのか

旧磯部家住宅土蔵の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。登録番号は23-0170、第45回の登録で、同じ敷地の主屋・裏座敷・奥土蔵・物置と同日に登録有形文化財となった。

この蔵の評価の中心は、規模ではなく仕上げにある。腰の部分は海鼠壁。平瓦を並べて貼り、目地を漆喰で盛り上げる技法で、雨と湿気から土壁の足元を守る。戸口と窓の周囲は掛子塗とし、開口部を段状に重ねて閉じたときに隙間ができないようにしてある。軒には蛇腹を回す。

いずれも防火と防湿のための本格的な手法で、小規模な蔵であっても手を抜いていない。文化庁の国指定文化財等データベースは、旧磯部家住宅土蔵を「小規模ながらも細部まで丁寧な造り」と記し、屋敷構えに欠かせない建物と評価している。

火事は商家にとって商品と帳簿を同時に失う災厄だった。土蔵の厚い壁は、その恐れに対する具体的な答えである。

見どころ

まず腰の海鼠壁を近くで見てほしい。瓦の並びと漆喰の盛り上がりが作る格子状の模様は、装飾のようでいて機能から生まれた形である。目地の漆喰が瓦の縁より高く盛られているのは、水を瓦の上に流して壁土に届かせないためである。

次に西面の庇と戸口。扉が何枚重なっているかを数えると、この建物が何を守ろうとしていたかが分かる。掛子塗の段は、閉めたときに煙と熱の通り道を断つためのものである。

近年、旧磯部家住宅土蔵の内部を見る機会が増えた。犬山市はこれまで防火扉だけを開けて裏白戸と銅網戸を閉じていたが、一部を改修し、天気のよい乾燥した日には裏白戸を開けて銅網戸越しに内部を見られるようにした。壁の厚みと、光の入らない蔵の暗さが、網戸越しに伝わってくる。

公開の可否はその日の天候に左右される。旧磯部家住宅土蔵の内部を目当てにするなら、晴れて乾いた日を選ぶとよい。

見学方法とアクセス

旧磯部家住宅土蔵は「旧磯部家住宅復原施設」の一部として通年公開されており、入館は無料である。開館時間は午前9時から午後5時まで、入館受付は午後4時30分まで。休館日は12月29日から12月31日で、警報が発令された場合は臨時に閉館することがある。

個人の記念撮影は可能である。商業・営利目的の撮影、機材を用いる撮影、特別な衣装を着ての撮影については、事前に犬山市役所歴史まちづくり課へ企画書を提出する必要がある。団体見学や学校の校外授業も、施設へ電話して事前打合せを行う。

名鉄犬山駅西口から徒歩約10分。名鉄名古屋駅からは快速特急・特急で約25分である。コミュニティバス「わん丸君バス」を使う場合は「駅前通り」停留所から徒歩2分ほど。施設に駐車場はない。

敷地内では奥土蔵と展示蔵が有料の貸室になっており、車いすでの入館には移動式スロープによる補助がある。希望する場合は犬山市教育委員会歴史まちづくり課(0568-44-0354)へ事前に申し込む。旧磯部家住宅土蔵そのものの見学に予約は要らない。

Q&A

Q旧磯部家住宅土蔵の内部は見学できますか。
A建物内に立ち入ることはできませんが、天気のよい乾燥した日には裏白戸が開けられ、銅網戸越しに内部を見ることができます。犬山市が一部を改修して実現した公開方法です。
Q旧磯部家住宅土蔵の入館料と開館時間を教えてください。
A入館は無料です。開館は午前9時から午後5時まで、入館受付は午後4時30分までとなっています。休館日は12月29日から12月31日です。
Q旧磯部家住宅土蔵はいつ建てられたのですか。
A明治8年(1875年)の建築です。同じ敷地の奥土蔵と物置も同じ明治8年、主屋は慶応年間、裏座敷は大正期の建築です。
Q旧磯部家住宅土蔵の海鼠壁とは何ですか。
A平瓦を壁面に並べて貼り、継ぎ目の漆喰をかまぼこ状に盛り上げた仕上げです。雨水を弾いて土壁の足元を守る役割があり、この蔵では腰の部分に用いられています。
Q旧磯部家住宅土蔵へは犬山駅からどう行けばよいですか。
A名鉄犬山駅西口から本町通りを北へ徒歩約10分です。「わん丸君バス」の「駅前通り」停留所からは徒歩2分ほど。施設専用の駐車場はありません。

基本情報

名称旧磯部家住宅土蔵
所在地愛知県犬山市大字犬山字東古券72
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成17年(2005年)登録
員数1棟
寸法土蔵造2階建、瓦葺、建築面積37平方メートル
所有者犬山市
公開状況一般公開、入館無料、9:00から17:00(入館は16:30まで)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧磯部家住宅土蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004566
犬山市「旧磯部家住宅復原施設について」
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001052/1003550/1001061.html
犬山市「施設案内 旧磯部家住宅復原施設」
https://www.city.inuyama.aichi.jp/shisetsu/koukyoshisetsu/1001550/1001500.html

最終更新日: 2026.08.31