犬山城天守:木曽川を望む日本最古級の国宝天守

愛知県犬山市、木曽川南岸の断崖上にそびえる犬山城天守は、日本に現存する最古級の天守として知られています。姫路城、松本城、彦根城、松江城と並び、天守が国宝に指定されたわずか5城のうちの一つであり、江戸時代以前に建造された「現存12天守」にも数えられる極めて貴重な文化財です。

犬山城は、その美しい佇まいから「白帝城(はくていじょう)」という雅名でも親しまれています。これは、江戸時代の儒学者・荻生徂徠が、木曽川沿いの丘上に立つ城の姿を、中国・長江流域の白帝城を詠った唐代の詩人・李白の詩「早発白帝城」になぞらえて名付けたものと伝えられています。

戦国から現代へ:犬山城の歩み

犬山城は、天文6年(1537)頃、織田信長の叔父にあたる織田信康によって築城されたとされています。尾張国(愛知県西部)と美濃国(岐阜県南部)の国境に位置し、木曽川の渡河地点や中山道・木曽街道への要路を押さえる軍事上の重要拠点でした。

戦国時代を通じて城主はめまぐるしく入れ替わりました。天正10年(1582)の本能寺の変後の混乱を経て、天正12年(1584)の小牧・長久手の戦いでは、羽柴秀吉(豊臣秀吉)が犬山城に本陣を構え、小牧山城に陣取る徳川家康と対峙しました。織田信長・豊臣秀吉・徳川家康という天下人の三人がそれぞれの時代に犬山城を手中にしたという事実が、この城の戦略的重要性を物語っています。

元和3年(1617)、尾張徳川家の付家老・成瀬正成が城主となり、以後、成瀬家が幕末まで9代にわたって城を守り続けました。正成の時代に唐破風の出窓が増築されるなどの改修が加えられ、現在の優美な姿が完成したとされています。明治維新後は廃城となり天守以外の建物はほとんど取り壊されましたが、明治24年(1891)の濃尾地震で半壊した天守の修復を条件として、県から旧藩主の成瀬家に無償譲渡されました。以来、日本で唯一の個人所有の城として保存されてきましたが、平成16年(2004)に公益財団法人犬山城白帝文庫に移管されています。

国宝に指定された理由

犬山城天守は昭和10年(1935)に旧国宝に指定され、昭和27年(1952)に文化財保護法のもとで改めて国宝に指定されました。その文化的・建築的価値は多岐にわたります。

まず、江戸時代以前に建造された天守が当時に近い姿で現存していること自体が極めて稀少です。犬山城天守は、低層部の建物の上に望楼を載せた「望楼型」天守の最も古い部類に属し、日本の城郭建築の発展過程を伝えるかけがえのない遺構です。

昭和36年(1961)から昭和40年にかけて行われた解体修理調査では、当初は二層の櫓として建てられ、その後に望楼が増築されて現在の姿になったと考えられていました。しかし近年の年輪年代測定の結果、現存の天守は天正18年(1590)頃に当初から現在と同じ三層四階として建てられた可能性を示す有力な新説も提唱されています。柱や梁には大鋸(おが)や釿(ちょうな)など、古い製材技法の痕跡が残されており、往時の職人の息吹を今に伝えています。

天守の構造と見どころ

天守は石垣を含めて高さ約24メートル(石垣部分約5メートル)を誇り、外観三層・内部四階・地下二階の望楼型構造です。入口は正面石垣の南面にあり、薄暗い地下二階・地下一階を経て一階に上がります。

一階は台形の平面で、中央に4つの部屋が配置され、その周囲を「武者走り」と呼ばれる回廊が取り巻いています。南西の「上段の間」は畳敷きの格式ある座敷で、押板床・違い棚・帳台構を備えた書院造りの意匠が見られます。ただし、この上段の間の造作は文化年間(1804〜1818年頃)の改造によるものとされています。北西隅と北東隅には石落としが設けられ、石垣に迫る敵を攻撃するための軍事的工夫が随所に見られます。

二階は武具の間として、中央に武器を配置して迅速な応戦に備えた構造になっています。三階は屋根裏に隠れるように造られた「隠し階」の二部屋で構成されています。そして最上階の四階には、天守の外周をめぐる「廻縁(まわりえん)」と高欄(手すり)が設けられ、ここに立つと360度の絶景が広がります。眼下に木曽川と濃尾平野、遠くに岐阜城や御嶽山まで望むことができ、戦国武将たちが天下取りを夢見た眺望を追体験できます。

「後堅固の城」:地形を活かした要塞設計

犬山城は「後堅固の城(うしろけんごのしろ)」の典型例として知られています。標高約85メートルの城山の頂に本丸が置かれ、背後は木曽川に面した断崖となっているため、北方からの攻撃はほぼ不可能でした。木曽川自体が天然の巨大な堀の役割を果たしていたのです。

本丸から南方の斜面に沿って、杉之丸・樅之丸・桐之丸・松之丸が階段状に連なる縄張りが施され、城下町全体を堀で囲む「総構え」の構造を持っていました。現在も天守のほか、曲輪の区画や大手道のルート、古い石垣が残されており、往時の城郭構造をしのぶことができます。

訪れる前に知っておきたいこと

犬山城は年間を通じて見学が可能で、開城時間は9:00〜17:00(最終入場16:30)、12月29日〜31日のみ休城です。混雑を避けるには、開城直後の朝一番か15時以降の訪問がおすすめです。特に週末や祝日の10時〜14時は混み合い、天守内の急な階段のため入場制限がかかることもあります。

天守内の階段は急勾配で幅も狭いため、動きやすい服装と靴でお越しください。多言語の案内板や音声ガイドも用意されており、海外からの来訪者も犬山城の歴史をじっくり味わうことができます。

城山のふもとには、朱塗りの鳥居が連なる三光稲荷神社やハート型の絵馬で知られる縁結びスポット、毎年4月に壮大なからくり山車の巡行が行われる犬山祭(国指定重要無形民俗文化財)の舞台となる針綱神社があります。

風情あふれる犬山城下町

犬山城から南に広がる城下町は、江戸時代の町割りがそのまま残されている貴重なエリアです。戦争の被害を受けなかったため、江戸から昭和にかけての歴史的建造物が軒を連ね、町家を活用したカフェや工芸品店、名物グルメの店が立ち並んでいます。

犬山名物の五平餅(くるみ味噌のたれで香ばしく焼いた粒つぶしのご飯)、田楽(八丁味噌を塗って焼いた豆腐やさといも)、彩り鮮やかな串団子など、食べ歩きも楽しみのひとつ。着物レンタルで城下町を散策すれば、タイムスリップしたような特別な体験が待っています。

また、犬山城の東側には日本庭園「有楽苑」があり、織田信長の弟・織田有楽斎が建てた国宝茶室「如庵」を見学することができます。犬山城と有楽苑のセット券を利用すれば、徒歩10分圏内で二つの国宝建造物を堪能できます。

周辺の観光スポット

犬山エリアには、城と城下町以外にも多彩な見どころがあります。車で約20分の「博物館 明治村」は、明治時代の建造物60棟以上を移築保存した野外博物館で、フランク・ロイド・ライト設計の旧帝国ホテル玄関も展示されています。同じく車で約20分の「野外民族博物館 リトルワールド」では世界各国の民家や文化を体験でき、「日本モンキーセンター」は世界最多の霊長類飼育種数を誇ります。

木曽川沿いの犬山温泉では、城と川を望む風情ある旅館でくつろぐことができます。毎年6月〜10月には1300年以上の伝統を持つ木曽川の鵜飼い観覧も楽しめ、夏の風物詩として多くの観光客を魅了しています。名古屋駅から犬山駅まで名鉄電車で約25分と好アクセスで、日帰り観光にも宿泊旅行にも最適です。

Q&A

Q犬山城天守は復元(再建)ですか?
Aいいえ、犬山城天守は江戸時代以前から現存する「現存天守」です。一度も建て直されたことはなく、昭和36年〜40年の解体修理でも元の部材を活かした修復が行われました。日本にわずか12城しかない現存天守のうちの一つであり、その歴史的真正性が高く評価されています。
Q名古屋から犬山城へのアクセス方法は?
A名鉄名古屋駅から名鉄犬山線で犬山駅まで約25分です。犬山駅から城下町を通って徒歩約20分で到着します。犬山遊園駅からは徒歩約15分です。名鉄の「犬山城下町きっぷ」を利用すると、往復乗車券と犬山城入場券がセットになりお得です。中部国際空港(セントレア)からは電車で約1時間でアクセスできます。
Q外国語の案内はありますか?
A天守内には多言語の案内板が設置されており、音声ガイドも利用可能です。公式ウェブサイトにも英語のページが用意されています。城下町の一部店舗では対応言語が限られる場合がありますが、主要な観光施設では海外からの来訪者への対応が整っています。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A四季折々の魅力があります。春(3月下旬〜4月中旬)は桜と犬山城の共演が美しく、4月上旬の犬山祭ではからくり山車の巡行も見物できます。秋(11月)は紅葉に彩られた城山の風景が格別です。夏は木曽川の鵜飼い観覧、冬は澄んだ空気の中で御嶽山まで見渡せる天守からの眺望が楽しめます。平日の朝がもっとも静かに見学できます。
Q車いすやベビーカーでの見学はできますか?
A天守内の階段は非常に急勾配で幅も狭いため、車いすやベビーカーでの天守内入場は困難です。エレベーターはありません。ただし、車いす利用者と介助者は入場無料(2名まで)で、城の外観や周辺の庭園は見学可能です。城下町エリアは比較的平坦で歩きやすく、多くの観光スポットやグルメを楽しむことができます。

基本情報

名称 犬山城天守(いぬやまじょうてんしゅ)
別名 白帝城(はくていじょう)
指定区分 国宝(昭和10年指定、昭和27年再指定)/城跡は国指定史跡「犬山城跡」(平成30年指定)
築城 天文6年(1537)頃、織田信康による築城。元和3年(1617)、成瀬正成により改修され現在の姿に
構造 望楼型天守、三層四階地下二階、高さ約24m(石垣約5mを含む)
所有 公益財団法人犬山城白帝文庫
所在地 〒484-0082 愛知県犬山市犬山北古券65-2
開城時間 9:00〜17:00(最終入場 16:30)/休城日:12月29日〜31日
入場料 大人(高校生以上)550円、小中学生110円 ※令和8年3月1日より大人1,000円、小中学生200円に改定予定
アクセス 名鉄犬山駅から徒歩約20分、犬山遊園駅から徒歩約15分。名鉄名古屋駅から犬山駅まで約25分。
公式サイト https://inuyama-castle.jp/
電話 0568-61-1711(犬山城管理事務所)

参考文献

国宝犬山城 – 犬山城について
https://inuyama-castle.jp/about/
犬山城白帝文庫 – 犬山城について
https://www.inuyamajohb.org/inuyama-castle
文化遺産オンライン – 犬山城天守
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/200169
国宝五城「犬山城」の歴史と特徴 – ホームメイト
https://www.homemate-research-castle.com/useful/16939_tour_020/
犬山観光ナビ(公式)
https://inuyama.gr.jp/
国宝犬山城 公式サイト
https://inuyama-castle.jp/

最終更新日: 2026.03.16