城下町の一隅に残る昭和初期の土蔵
国宝犬山城へと続く本町通りから東へ入った東古券の一画に、宮田家の屋敷が構えられている。その敷地の西北隅に建つのが、昭和6年(1931年)に普請された土蔵造2階建の蔵である。宮田家住宅では主屋の對依軒、塀、井戸屋形とあわせて4件が国の登録有形文化財となっており、この蔵はそのうち最も早い時期に建てられた一棟にあたる。
規模は桁行4間、梁間2間半、建築面積はおよそ58平方メートル。屋根は切妻造で桟瓦を葺き、南面には1間半の下屋を差し掛けて蔵前を設ける。荷の出し入れに使うこの蔵前の奥、戸口には金庫を思わせる重い扉が吊られている。
「登録」という保護のかたち
文化財の保護には、古くからの「指定」制度と、平成8年(1996年)に設けられた「登録」制度の二つの道がある。国宝や重要文化財はいずれも指定制度によるもので、坂を上った先に建つ犬山城天守は国宝に指定されている。一方、宮田家住宅蔵が属するのは登録制度であり、近代以降に各地で数多く建てられた住宅や店舗、土蔵などを、緩やかな届出制のもとで守ろうとする仕組みである。所有者が建物を使い続け、手を入れながら保護していける点に特徴がある。
この蔵が登録されたのは平成18年(2006年)10月18日、登録番号は23-0230。登録基準は「再現することが容易でないもの」とされた。手作業による土塗りの壁、職人の手になる小屋組、目分量で積まれた基礎など、現代の建築では容易に再現しがたい仕事が評価されたものといえる。
足を止めて見たい細部
まず目を引くのは戸口の扉である。金庫のように頑丈なつくりで、貴重品や帳簿、家財を火や盗難から守るという蔵本来の役割を端的に示している。
視線を下げると、基礎の積み方に気づく。玉石を亀甲状に組んだ「ごんぼ積」と呼ばれる手法で、丸みのある川石を隙間なく噛み合わせる。外壁の腰には漆喰ではなく舟板が張られ、雨の跳ね返りや湿気から壁の足元を守る。小屋組は和小屋に登梁を併用し、限られた間口のなかで2階の荷重を受けている。いずれも昭和初期の土蔵普請の手仕事をよく示す細部である。
蔵と主屋、そして街並み
この蔵は、宮田家が手がけた一連の普請の出発点にあたる。地元の記録によれば、当主は眼科・内科・小児科を診る医院を自邸で営んだ人物で、昭和6年にまず蔵と高塀を築き、続いて数寄屋造の主屋の造営に向かったと伝わる。表千家の久田無適齋宗也の構想のもと、京の数寄屋師高橋為吉を招いて進められたその主屋が、現在「對依軒」として蔵とともに登録されている。なお主屋の年代について、文化庁のデータベースは昭和10年(1935年)とするが、地元で刊行された記述には昭和6年に着工し昭和19年(1944年)に完成したとするものもある。
宮田家住宅は現在も個人の住居であり、内部は公開されていない。蔵は公開された町並みの一部として、通りから外観を眺めるのがよい。
城下町をめぐる
宮田家の屋敷が面する本町通りは、大手門跡から犬山城へと南北に延びる城下町のメインストリートである。間口が狭く奥行きの長い町家が軒を連ね、電線の地中化によって城へ向かう眺めも整えられた。歴史的な建物の内部に入ってみたい場合は、同じ東古券にある旧磯部家住宅が公開されており(おおむね9時から17時)、江戸時代の町家のつくりを間近に見られる。総構えの外側に建つ旧堀部家住宅は、提灯工房とカフェを備えた登録有形文化財として親しまれている。坂の上には現存最古の天守として知られる国宝犬山城、有楽苑には国宝の茶室如庵がある。4月にはユネスコ無形文化遺産の犬山祭が催され、からくり人形を載せた車山が城下を巡る。
犬山へは名古屋から名鉄でおよそ30分。城下町は犬山駅・犬山遊園駅から歩いて近い。
Q&A
- 蔵の内部を見学できますか。
- いいえ。宮田家住宅は個人のお住まいで、内部は公開されていません。蔵は城下町の町並みの一部として、通りから外観をご覧いただけます。
- 土蔵とは何ですか。なぜ火に強いのですか。
- 木の軸組を厚い土壁で塗り込めた蔵が土蔵です。土の層が炎を遮るため、むき出しの木壁より火に強く、貴重品や帳簿の保管に用いられました。
- 登録有形文化財は国宝や重要文化財とどう違うのですか。
- 国宝・重要文化財は厳選して「指定」する制度によるものです。登録有形文化財は平成8年に始まった緩やかな「登録」制度で、近代以降の幅広い建物を、所有者が使い続けながら守れるよう保護します。
- 「ごんぼ積」とはどのようなものですか。
- 丸みのある川石(玉石)を亀甲状に組んだ基礎の積み方を指す地元の呼び名です。蔵の足元でその様子を見ることができます。
- 近くで実際に中に入れる歴史的建物はありますか。
- 同じ通りの旧磯部家住宅が公開されており、江戸時代の町家の内部を歩いて見られます。少し離れた旧堀部家住宅はカフェも備え、もう一つの選択肢になります。
基本情報
| 名称 | 宮田家住宅蔵(みやたけじゅうたくくら) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県犬山市大字犬山字東古券719 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 23-0230 |
| 登録年月日 | 平成18年(2006年)10月18日 |
| 年代 | 昭和6年(1931年) |
| 員数 | 1棟 |
| 構造及び形式 | 土蔵造2階建、桟瓦葺、切妻造、建築面積約58㎡ |
| 登録基準 | 再現することが容易でないもの |
| 内部公開 | 個人の住居のため非公開(外観は通りから見学可) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁):宮田家住宅蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005885
- 文化遺産オンライン(NII):宮田家住宅蔵
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/190610
- 文化遺産オンライン(NII):宮田家住宅對依軒
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/196879
- 犬山観光ナビ:犬山城下町特集
- https://inuyama.gr.jp/feature/detail/4/
- ニッポン旅マガジン:犬山本町通りの家並み
- https://tabi-mag.jp/ai0241/
最終更新日: 2026.06.18