車山蔵とは ― 車山一輌のために寸法が決まった建物

車山蔵は、愛知県犬山市大字犬山字東古券779に建つ明治42年(1909年)建築の山車格納庫で、平成11年(1999年)8月23日に国の登録有形文化財に登録された。犬山では山車を「車山」と書いて「やま」と読み、これを納める蔵を車山蔵(やまぐら)と呼ぶ。所有者は犬山市本町町内会である。

木造平屋建、瓦葺。間口4.55メートル、桁行8.22メートル、建築面積は37平方メートルしかない。ところが桁高は7メートルある。10坪あまりの平屋で軒がここまで立ち上がる建物は、町のなかを歩いていてもそう出会わない。

高さの理由は中身にある。本町町内会が持つ車山「咸英」(かんえい)は三層構造で、上から上山・中山・下山と呼び分ける。上山はからくり人形の舞台にあたり、人形を操作する中山から吹き抜けになっている。犬山祭に曳き出される13輌のうち、船型の1輌を除く12輌がこの犬山型と呼ばれる形式をとる。車山蔵の間口も高さも、この一輌を出し入れするという一点から決められている。

屋根は瓦葺の切妻造で、短い辺を正面にとる妻入。奥行のある建物を、いちばん狭い面から使う構えである。

「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された

文化庁の国指定文化財等データベースは、車山蔵の登録基準を「国土の歴史的景観に寄与しているもの」と記載する。登録番号は23-0033、第19回の登録にあたる。同じ平成11年(1999年)8月23日には、犬山城下の奥村家住宅5棟と尾関家住宅2棟も登録された。城下町の建物をまとめて拾い上げた回であり、そのなかに祭具を納める蔵が1棟だけ混じっている。

棟梁は市橋清次郎。犬山藩の御用大工の系譜を継ぐ大工である。同データベースの解説は、水平筋違や側壁の筋違に洋風建築技術の導入が認められると指摘している。筋違は軸組に斜めの材を入れて変形を抑える技法で、明治期の日本では西洋から入った構造の考え方として受け止められた。

江戸以来の御用大工の家系が、明治の構造技術を使って祭具の蔵を建てた。用途は近世のままで、造り方だけが更新されている。車山蔵の価値はこの重なりにある。

なお、蔵に納まる車山のほうは13輌そろって昭和39年(1964年)に愛知県の有形民俗文化財となり、祭礼そのものは平成28年(2016年)にユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」の一つに数えられている。建物である車山蔵は、それとは別に登録有形文化財として登録されている。

本町通りで見るべきところ

車山蔵を見落とすことはまずない。両隣の町家が2階建てで軒を揃えるなかに、平屋でありながら一段高い切妻の妻面が立ち上がっているからである。

正面は車山を通すための大きな開口で、閉じているときは板戸が壁のように見える。間口4.55メートルという数字は人の出入りには広すぎ、車輪と柱を持つ構造物を通すにはぎりぎりという寸法で、この蔵が何のためのものかを寸法そのものが示している。

妻面を見上げると、桁から棟までの三角形が大きくとられている。切妻の勾配はさほど急ではないので、高さの大半は壁が稼いでいる。軒下の壁面をたどると、外からでも柱の間隔がおおよそ読める。

祭りの二日間、車山蔵の板戸は開く。中から車山が引き出され、蔵は空になる。空になった蔵の内部を通りから覗けるのは、一年のうちこの時期だけである。

車山蔵の見学方法とアクセス

車山蔵は本町通りに面して建ち、外観はいつでも通りから見ることができる。拝観料や開館時間の設定はない。内部は非公開で、普段は板戸が閉じられている。

扉が開くのは犬山祭のときである。犬山祭は針綱神社の祭礼で、毎年4月第1土曜日・日曜日に行われる。13町内の車山と3町内の練り物が城下町に出るこの二日間、各町の車山蔵は車山を送り出す場所になる。

アクセスは名鉄犬山駅西口から。犬山市観光協会は駅西口から城下町まで徒歩約10分としており、本町通りをさらに北へ5分ほど進むと車山蔵の前に出る。犬山城の天守はここから北へ10分足らずで、城下町の南北をつなぐ道の途中に車山蔵があると考えるとわかりやすい。

撮影について。公道から外観を撮ることを妨げる掲示は出ていない。ただし車山蔵は現役の祭具を納める町内会の施設で、祭礼の当日は関係者が作業をしている。開扉時の内部撮影は現場の指示に従いたい。

Q&A

Q車山蔵は見学できますか。内部は公開されていますか。
A外観は本町通りから常時見学できます。拝観料はかかりません。内部は非公開で、通常は板戸が閉じられています。犬山祭で車山が曳き出されるときに扉が開きます。
Q車山蔵はいつ、誰によって建てられたのですか。
A明治42年(1909年)の建築です。棟梁は市橋清次郎で、犬山藩の御用大工の系譜を継ぐ大工でした。水平筋違や側壁の筋違に、当時新しかった洋風の構造技術が使われています。
Q車山蔵には、どの車山が納められているのですか。
A犬山市本町町内会の車山「咸英」(かんえい)です。三層構造で、最上層の上山にからくり人形の舞台があります。犬山祭に出る13輌のうちの1輌です。
Q車山蔵はどの区分の文化財ですか。
A登録有形文化財(建造物)です。車山蔵は平成11年(1999年)8月23日に登録されました。「指定」ではなく「登録」の制度によるもので、登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」とされています。
Q車山蔵へは、最寄り駅からどのくらいかかりますか。
A名鉄犬山駅西口が最寄りです。犬山市観光協会によると駅西口から城下町まで徒歩約10分で、本町通りを北へさらに5分ほど歩くと車山蔵の前に着きます。

基本データ

名称車山蔵(やまぐら)
所在地愛知県犬山市大字犬山字東古券779
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成11年(1999年)8月23日登録
員数1棟
寸法間口4.55メートル、桁行8.22メートル、桁高7メートル、建築面積37平方メートル
所有者犬山市本町町内会
公開状況外観は本町通りから常時見学可。内部は非公開(犬山祭の曳き出し時に開扉)

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 車山蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001275
文化遺産オンライン 車山蔵
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/147885
犬山市 犬山祭の車山行事
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1003487/1001066.html
犬山市観光協会 犬山城下町
https://inuyama.gr.jp/experience/detail/2/

最終更新日: 2026.09.03