敷地の最奥に建つ土蔵

伊藤家住宅蔵は、愛知県犬山市大字犬山字東古券677にある江戸時代末期の土蔵造で、平成17年(2005年)2月9日に登録有形文化財(建造物)に登録された。土蔵造2階建、切妻造の平入、桟瓦葺で、建築面積は59平方メートルある。

建つ位置は、本町通りに面した主屋の東裏、細長い敷地のいちばん奥である。犬山城下の町家は間口が狭く奥行きが長い区画に建てられており、通りに近いほうから店、住まい、蔵という順に並ぶのが基本の形だった。伊藤家住宅蔵はその最後尾に置かれた棟にあたる。主屋の背面北側から出る渡廊下がここまで届く。

規模は桁行4間半、梁間2間半。1間を約1.8メートルとして換算すると、およそ8.2メートル掛ける4.5メートルになる。建築年代は江戸末期、西暦でいえば1830年から1867年ごろとされる。

塗り込めない意匠という選択

伊藤家住宅蔵を見て最初に気づくのは、装飾の少なさである。土蔵は本来、火災から家財を守るための建物だが、財力を示す場としても扱われ、鉢巻や海鼠壁で外観を飾る例が各地にある。この蔵はそれをほとんどやっていない。

文化庁の記録は、軒裏と妻面の破風、桁の端を塗り込めただけの簡素な造りだと記す。つまり、燃えやすい木部を土で覆うという防火上の必要から生じる最小限の処理だけがあり、そこから先の装飾に進んでいない。柱に丸太をそのまま用いている点も同じ判断の延長にある。製材して角柱にすれば見た目は整うが、丸太のままでも構造は成り立つ。

それでいて、この蔵は小さくない。比較的大型でありながら軒の低い、重心の下がった構えを持つと文化庁の記録は評価している。装飾を足すのではなく、寸法と比例で建物の格を出す考え方がここにある。派手さのない外観をどう見るかで、この建物の印象は大きく変わる。

登録の理由と、深い庇の役割

伊藤家住宅蔵の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。登録番号は23-0182で、同じ日に登録された主屋の23-0181に続く番号が振られた。告示は平成17年(2005年)2月28日。主屋と蔵を1組として扱う考え方が、この連番から読み取れる。

文化庁データベースの分類で、伊藤家住宅蔵の種別は「住宅」である。通りに面した主屋が商業を意味する「産業3次」に分類されているのと対照的で、表で商いをし奥で暮らすという町家の使い分けが、台帳の区分にも反映されている。

構造上いちばんの見どころは、西面の戸前の全面に張り出す庇である。出は1間半、およそ2.7メートルに及ぶ。土蔵の扉まわりは土で塗り固められており、雨が当たり続けると表面が傷む。深い庇はその劣化を防ぐための備えで、同時に扉を開けたまま荷を出し入れできる作業場所にもなる。

この庇の出は、装飾を切り詰めたこの建物のなかで、明らかに手間と材をかけている部分である。何を省き、何に費用を回したかという判断が、外から見て分かる形で残っている。

見学方法

伊藤家住宅蔵は個人が所有する建物で、内部は公開されていない。拝観の制度も料金設定もない。

敷地の最も奥に建つため、本町通りからその姿を見ることはほぼできない。主屋の間口越しに奥をのぞいても、通り庭の先が暗く、蔵まで視線は届きにくい。伊藤家住宅蔵を目で確かめたい場合は、主屋1階で営業している革製品店に立ち寄り、店の許す範囲で奥の様子をうかがうのが現実的な方法になる。店の営業時間は10時から19時、水曜が定休である。ただし蔵そのものは店舗の営業範囲ではないため、立ち入りを求めることは控えたい。

撮影について、私有地の内側にあたるため、無断での撮影は避ける。通りからの町並みの撮影には制限がない。

場所までの行き方は、名鉄犬山線・広見線の犬山駅西口から西へ進み、本町通りを北へ折れて徒歩約10分。伊藤家住宅蔵は主屋と同じ677番地にあり、両者の距離は30メートルほどしかない。犬山城天守からは南へ約600メートルの位置になる。

Q&A

Q伊藤家住宅蔵は見学できますか。内部は公開されていますか。
A個人所有の建物で、内部は公開されていません。拝観料の制度もありません。敷地の最奥に建つため通りからも見えにくく、外観を確かめる機会は限られます。
Q伊藤家住宅蔵はどのような構造の建物ですか。
A土蔵造2階建で、切妻造の平入、桟瓦葺です。建築面積は59平方メートル、桁行4間半、梁間2間半。柱には丸太を用い、軒裏と妻面の破風、桁端だけを塗り込めた簡素な造りです。
Q伊藤家住宅蔵の西側にある深い庇は何のためのものですか。
A西面の戸前の全面に、出が1間半(約2.7メートル)の庇が張り出しています。土で塗り固めた扉まわりを雨から守るための備えであり、扉を開けたまま荷を出し入れする作業空間にもなります。
Q伊藤家住宅蔵は重要文化財ですか。
A重要文化財ではなく、登録有形文化財(建造物)です。平成17年(2005年)2月9日に登録されました。重要文化財が国による「指定」であるのに対し、登録有形文化財は「登録」の制度にあたり、根拠となる仕組みが異なります。
Q伊藤家住宅蔵の場所と、犬山駅からの行き方を教えてください。
A愛知県犬山市大字犬山字東古券677、本町通りに面する伊藤家住宅主屋の東裏にあります。名鉄犬山駅の西口から西へ進み、本町通りを北へ折れて徒歩約10分です。

基本データ

名称伊藤家住宅蔵(いとうけじゅうたくくら)
所在地愛知県犬山市大字犬山字東古券677
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 23-0182
指定年平成17年(2005年)2月9日登録(告示は同年2月28日)
員数1棟
寸法桁行4.5間、梁間2.5間、建築面積59平方メートル
所有者個人(犬山市の登録有形文化財一覧による)
公開状況非公開。敷地の最奥に建ち、本町通りからはほぼ見えない

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース ― 伊藤家住宅蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004578
文化庁 国指定文化財等データベース ― 伊藤家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004577
犬山市 ― 登録有形文化財一覧(PDF)
https://www.city.inuyama.aichi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/068/toroku.r8.2.27.pdf
犬山市 ― 犬山市の文化財
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001063/1001068.html
犬山市 ― 登録文化財制度
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001063/1001067.html

最終更新日: 2026.08.29