戸前とは

戸前は、土蔵造の蔵の出入口とその前面を指す語である。厚い土壁を貫く数少ない開口であり、扉と庇がまとまって一つの構えをつくる。

岩手県の佐藤家住宅新蔵は大正11年の建築で、「壁面は水切で3段に区分し、最下部を煉瓦積、他を漆喰塗とし、屋根は桟瓦葺で軒先を海鼠壁風に納め、特異な持ち送りの戸前庇など、随所に装飾的要素を用いている」と解説されている。戸前庇は扉の上に設ける小さな屋根で、装飾が集まる位置でもある。

福島県の渡部家住宅土蔵は文政4年の建築で、「屋根は置き屋根式の切妻造・鉄板葺であるが、かなり急勾配で、妻面には頑丈な戸前庇を設けるなど、多雪地帯らしい造形がみられる」と解説されている。雪の多い地域では戸前庇が頑丈につくられる。

扉そのものも厚い。滋賀県のふじ石亭蔵は明治17年頃の建築で、「北面の主屋から続く通り庭側を出入口として、掛子塗の扉を吊り、外壁は漆喰塗仕上げとする」と解説されている。掛子塗は、扉と枠の合わせ目を段状に塗り重ねて隙間をなくす仕上げである。

蔵前との違い

近い語に蔵前がある。高知県の福田家住宅蔵及び番小屋は大正8年の建築で、「東面に下屋を差掛けて蔵前と3畳規模の番小屋に充てる」と解説されている。戸前の前に下屋を掛けて設けた作業や見張りの空間を指す用法である。

戸前が開口とその構えを指すのに対し、蔵前は前面に確保された空間を指す。記録では両方が使われるため、引用するときは元の語をそのまま用いるのが確実である。

見学するときは、蔵の妻側か平側のどちらに戸前があるかを確かめるとよい。妻入の蔵では三角形の壁の下に、平入の蔵では軒の下に開口が来る。戸前庇の形と持ち送りの意匠は、蔵ごとの個性が最も出る部分にあたる。

参考文献

文化庁 文化財の紹介 登録有形文化財(建造物)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
国指定文化財等データベース(文化庁)佐藤家住宅新蔵/切妻造・妻入、2階建の土蔵造
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003025
国指定文化財等データベース(文化庁)渡部家住宅土蔵/妻面に頑丈な戸前庇、多雪地帯らしい造形
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003055
国指定文化財等データベース(文化庁)ふじ石亭蔵/通り土間側を出入口とし、掛子塗の扉を吊る
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009183
国指定文化財等データベース(文化庁)福田家住宅蔵及び番小屋/下屋を差掛けて蔵前と番小屋に充てる
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003009

最終更新: 2026.08.30