黒漆喰の外壁をもつ大正7年の蔵

三井家住宅蔵は、愛知県犬山市大字犬山字東古券にある大正7年(1918年)建築の土蔵造2階建で、2004年(平成16年)に登録有形文化財となった。登録番号は23-0145である。

三井家の敷地の西端に建ち、明治22年(1889年)の主屋とは、屋根が一段低くなった落棟の部分、すなわち蔵前を介してつながる。木の軸組のまわりに厚い土壁を築き、漆喰で仕上げる土蔵造で、桁行5間、およそ9.1メートル、梁間3間、約5.5メートル。建築面積は50平方メートルである。

屋根は切妻造桟瓦葺。軒側ではなく妻面を街路に向けて据えられている。この向きひとつで、三井家住宅蔵は隣に建つ主屋と見え方が分かれる。主屋は長い軒側を同じ街路に見せているからである。

三井家住宅蔵が登録された理由

登録の根拠は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準である。蔵の場合、評価されるのは収蔵物ではなく街路に向いた面であり、三井家住宅蔵はその面が当初の構えのまま、かなりよく残っている。

犬山市はこの制度を厚く使ってきた。2025年(令和7年)に答申された分を含めると市内の登録有形文化財建造物は158件にのぼり、愛知県内580件の27パーセント近くを占める。そのなかで三井家住宅蔵の種別は住宅ではなく「産業3次」であり、主屋と同じく、この敷地が商いの場であったことが記録に残されている。

年代には立ち止まる価値がある。主屋が明治22年(1889年)、蔵が大正7年(1918年)で、その差は29年ある。商家の蔵は、しまうものができ、それを守る資力がそろってから建つ。1918年という年は、一家がこの地に来た時期ではなく、家運のある局面を指し示している。防火のための土蔵造は犬山では広く使われた工法でもあった。犬山市が城下町についてまとめた計画書は、犬山祭の車山を収める車山蔵が、防火と、漆塗りの車山に必要な湿度の両方の理由から、旧来は土蔵造であったと記している。

街路に向いた妻面を読む

壁が黒い。漆喰は白く仕上げるのが普通で、黒漆喰塗とした三井家住宅蔵は、周囲の木部の色のなかで平らな影のように立つ。黒がどこで途切れるかを見てほしい。腰の部分は海鼠壁で、方形の瓦を斜めに張り、目地を漆喰でかまぼこ状に盛り上げてある。上の壁面が吸ってしまう光を、この格子だけが受け止める。

1階の正面には瓦庇が横に走る。壁から段状に持ち出した持送りが庇を受け、その影のなかに小窓が開く。目を上げると、2階が同じ構成を小さく繰り返している。窓を閉じるのは両開きの土戸で、壁と同じ黒漆喰で塗られ、それぞれに瓦の小庇が付く。

この面にあるものは、どれも二つの仕事をしている。庇がなければ土壁は雨で流れる。土戸がなければ開口から火が入る。装飾に見えるものが、水と火を防いだ結果として現れている。三井家住宅蔵の前で数分立ち止まる価値は、そこにある。

三井家住宅蔵の見学方法

建物は個人の所有である。犬山市の登録有形文化財一覧も所有者を「個人」と記しており、内部の公開はなく、観覧料も見学時間の定めもない。街路に向いた妻面は公道から十分に見え、登録が守っているのもその面である。

街路からの外観撮影は差し支えない。敷地には立ち入らないこと、戸口を撮影の背景として扱わないこと。人の住む家に付属する、現役の建物である。

名鉄犬山駅の西口を出て、城下町を北へ徒歩約13分。犬山城はさらに北へ約600メートルの位置にある。同じ工法の蔵の内部を見たい場合は、南へ約200メートル、本町通り沿いの旧磯部家住宅で、市が明治期の土蔵を無料で公開している。午前9時から午後5時まで入ることができる。

三井家住宅蔵は曇りの日に向く。直射日光のもとでは黒漆喰が町並みに開いた穴のように潰れてしまうが、拡散した光であれば、海鼠壁の盛り上がった目地が質感として立ち上がる。

Q&A

Q三井家住宅蔵の内部は見学できますか
Aできません。個人の所有で公開されていません。街路に向いた妻面は、いつでも公道から見ることができます。
Q三井家住宅蔵はいつ建てられ、どの区分の文化財ですか
A大正7年(1918年)の建築で、2004年(平成16年)に登録有形文化財となりました。登録番号は23-0145です。登録は指定とは別の制度です。
Q三井家住宅蔵の腰にある黒と灰の格子模様は何ですか
A海鼠壁です。方形の瓦を斜めに張り、目地を漆喰でかまぼこ状に盛り上げてあります。土壁の足元を、跳ね返る雨や衝突から守る仕上げです。
Q名古屋から三井家住宅蔵までの行き方は
A名鉄名古屋駅から特急で犬山駅まで約25分、西口を出て城下町を北へ徒歩約13分です。
Q三井家住宅蔵は主屋と同じ登録に含まれますか
A含まれません。明治22年(1889年)の主屋と明治中期の渡り廊は、それぞれ23-0144、23-0146の登録番号を持ちます。3件とも2004年(平成16年)の同じ日に登録されました。

基本情報

名称三井家住宅蔵
所在地愛知県犬山市大字犬山字東古券682ほか
指定区分登録有形文化財(建造物)、登録番号23-0145
指定年平成16年(2004年)登録
員数1棟
寸法土蔵造2階建、瓦葺、建築面積50平方メートル
所有者個人
公開状況内部非公開。街路に向いた妻面は公道からいつでも見学可能。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「三井家住宅蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004251
文化遺産オンライン「三井家住宅蔵」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/141521
犬山市「犬山市の文化財」(登録有形文化財一覧を含む)
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001063/1001068.html
犬山市「登録文化財制度」
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001063/1001067.html
犬山市「犬山市歴史的風致維持向上計画」(第2期)
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001072/1001074.html
犬山市「旧磯部家住宅復原施設について」
https://www.city.inuyama.aichi.jp/kurashi/bunka/1001052/1003550/1001061.html

最終更新日: 2026.09.02