城下町の通りに連なる塀
愛知県犬山市の旧城下町、東古券の一画に、木と瓦でつくられた塀がおよそ48メートルにわたって屋敷地をめぐっている。これが宮田家住宅塀である。宮田家は江戸時代、犬山藩主成瀬家に勘定方として仕えた家柄で、この一帯はかつて城下の武家地にあたっていた。現在みられる塀は昭和6年(1931年)、当主で医師の宮田錠吉が屋敷を整えた際に築かれたもので、平成18年(2006年)に登録有形文化財となった。
寺院の堂宇や城の天守ではなく、屋敷を囲う塀が国の文化財に登録されている点は珍しく感じられるかもしれない。宮田家住宅塀が登録された理由は、その立地そのものにある。犬山の町割りは江戸期からほとんど変わっておらず、この塀は旧武家地の通りの景観を昔のままに保つ要素のひとつとなっている。
「登録」と「指定」のちがい
日本では歴史的建造物を二つの制度で保護しており、宮田家住宅塀を理解するうえでこの区別が手がかりになる。古くからある制度が「指定」で、国宝や重要文化財がこれにあたる。価値がきわめて高いと判断された比較的少数の建造物を対象とし、現状変更などに強い規制がかかる。徒歩圏にある犬山城天守は、この指定制度の頂点に位置する国宝である。
宮田家住宅塀が属するのは、もう一方の「登録」制度である。これは平成8年(1996年)の文化財保護法改正で設けられた仕組みで、とりわけ近代以降の幅広い建造物を対象とする。所有者が建物を使い続けながら維持できるよう、指定よりも緩やかな枠組みとして設計された。登録基準のひとつに「国土の歴史的景観に寄与しているもの」があり、宮田家住宅塀はこの基準によって登録されている。
塀の構造を読む
塀は一様な囲いではない。敷地西辺の中央に開く正門のほか、旧物置の南北にも塀が建ち、敷地西北角と北辺には背の高い高塀が立ち上がる。低い塀は真壁造で、柱を漆喰で塗り込めず壁面にあらわす造りとし、屋敷脇を流れていた水路の玉石護岸の上に据えられている。腰には簓子で押さえた下見板を張り、上部には目板瓦の小屋根を載せる。高塀はこれと異なり、切石を積んだ基礎の上に建ち、桟瓦葺の小屋根を頂く。通りを歩くと、丸みのある玉石から角の通った切石へと、基礎の表情が切り替わるのがわかる。
この塀は単独で計画されたものではない。茶の湯を嗜んだ錠吉が昭和初期から戦中にかけて整えた屋敷構えの一部である。二階建の土蔵は塀と同じ昭和6年に建てられた。主屋の對依軒は表千家の久田無適齋宗也の構想と指導のもと、京数寄屋師の高橋為吉が施工した数寄屋造で、昭和19年(1944年)に完成した。明治期の簡素な井戸屋形がこれに加わる。登録された建造物をあわせて見ると、塀までもが保護に値すると判断された理由が見えてくる。
塀を見る、そして周辺をめぐる
宮田家住宅は個人の住居であり、内部は公開されていない。しかし塀は外から眺めることでその役割を果たす建造物であり、その前の通りを歩くことが鑑賞のしかたとなる。敷地は犬山観光の主要な散策路からほど近く、城下町を歩く一日のなかに自然に組み込める。
町歩きの中心はやはり国宝犬山城である。その天守は現存最古級で、国宝に指定された五つの城天守のひとつに数えられる。城から南へ延びる本町通り沿いには、町家を活かしたカフェや工芸品店が並ぶ。内部に入れる建物としては、江戸期の商家を登録有形文化財とした旧磯部家住宅が無料で公開されており、奥行きの深い町家の造りを実見できる。どんでん館では、ユネスコ無形文化遺産「犬山祭」の車山が展示されている。少し離れた有楽苑には国宝の茶室如庵があり、茶を好んだ宮田家の屋敷とあわせて訪ねると味わいが深い。
Q&A
- 宮田家住宅の内部は見学できますか。
- いいえ。個人の住居であり、内部は公開されていません。登録対象の塀は通りから眺めることができ、城下町散策のなかで楽しめます。
- なぜ塀が文化財に登録されているのですか。
- 「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録されました。町割りがよく残る犬山城下にあって、宮田家の塀や正門、屋根の連なりが旧武家地の町並みを保つ役割を担っており、これは登録制度が守ろうとする価値そのものです。
- 登録有形文化財と指定文化財はどう違うのですか。
- 古くからある「指定」は国宝や重要文化財など価値の高い建造物を対象とし、強い規制がかかります。平成8年に設けられた「登録」は、近代の建物を含む幅広い対象を緩やかに保護する仕組みです。宮田家住宅塀は登録、近くの犬山城は指定にあたります。
- 塀はいつ建てられたものですか。
- 昭和6年(1931年)です。医師で茶の湯を嗜んだ宮田錠吉が屋敷を整えた際に築かれました。
- どのように行けばよいですか。
- 名鉄犬山駅または犬山遊園駅から徒歩圏で、名古屋からは電車でおよそ25〜30分です。宮田家の敷地は駅と犬山城のあいだの通りに位置します。
基本情報
| 名称 | 宮田家住宅塀(みやたけじゅうたくへい) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県犬山市大字犬山字東古券719 |
| 区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 23-0232 |
| 登録年月日 | 平成18年(2006年)10月18日 |
| 建設年 | 昭和6年(1931年) |
| 員数・構造 | 1棟/木造、瓦葺、延長約48メートル |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 公開状況 | 個人住居のため内部非公開。塀は通りから見学可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)宮田家住宅塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005887
- 文化遺産オンライン(NII)宮田家住宅對依軒
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/196879
- 文化遺産オンライン(NII)宮田家住宅蔵
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/190610
- 文化遺産オンライン(NII)宮田家住宅井戸屋形
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/143151
- 犬山観光ナビ 犬山城下町
- https://inuyama.gr.jp/castle-town.html
最終更新日: 2026.06.18