主屋の奥に建つ道具蔵

名古屋と瀬戸のあいだに位置する尾張旭市。その西大道町、旧瀬戸街道に面した屋敷の奥に、三宅家住宅蔵は建っている。土蔵造の二階建で、主屋の後方、敷地の西辺寄りに位置する。文化庁の国指定文化財等データベースは建築年代を明治前期(1868〜1882年)とし、令和元年(2019年)に改修を受けたと記す。

三宅家は江戸時代中期から、新居村を中心に田畑を持つ地主であった。江戸後期には木綿糸を染める藍染の紺屋業を始め、明治初期には造り酒屋も営むようになる。屋敷は、この紺屋業と醸造販売を兼ねた在郷商家の住まいとして明治前期に建てられた。主屋の土間には今も藍瓶が埋め込まれ、かつての生業をうかがわせる。ここで取り上げる蔵は、道具や什器、家財を収めた道具蔵として使われてきた建物である。

「登録」文化財という枠組み

2022年(令和4年)2月17日、この蔵は主屋・庭門及び塀とともに登録有形文化財に登録された。注目したいのは「登録」という語である。「指定」ではない。

日本の文化財保護には二つの制度がある。戦前からの「指定」は、国宝・重要文化財など、限られた優品を対象に手厚く保護する仕組みだ。これに対し1996年(平成8年)に設けられた「登録」は、より緩やかな枠組みで、築後おおむね50年を経た数多くの建造物を対象とする。所有者が届け出によって登録し、大きな改変の前には届け出る。その代わりに、建物を使い続けながら一定の支援と評価を受けられる。開発のなかで失われがちな建物を、暮らしのなかで残していくための制度といえる。

蔵が登録された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。価値の核心はそこにある。名のある建築家でも、内部の名宝でもなく、旧街道沿いの商家の構えを、隣り合う建物とともに今に残している点が評価された。主屋・蔵・庭門及び塀の三件をあわせて見れば、門から蔵まで揃った在郷商家の屋敷構えが、街道の近代化のなかでほぼひと揃いのまま残っている。尾張旭ではそうそう見られない光景である。

蔵を読む

蔵はゆっくり眺めるほど面白い。土蔵造、すなわち木の軸組に厚い土壁を塗り込めた構法は、火に強く、内部の温湿度を安定させるために発達した。財や道具を守るにはうってつけである。屋根は切妻造で、桟瓦を葺く。桟瓦は、軽く安価な瓦葺を可能にした近世の工夫だ。出入口は屋根の平側、すなわち棟と平行な長い面に開き、戸口の上には土庇が小さく差し掛けられている。

視線を上げると、壁の上部に鉢巻と呼ばれる帯状の張り出しが軒蛇腹のように回る。外壁はモルタル仕上で、腰の部分を黒く塗る。水はねや汚れを目立たせない実際的な工夫である。内部は、一階を二室に分け、二階は一室で西面に窓を開く。小屋組は牛梁に角材の登り梁を架けた構成だ。

どれも派手ではない。豊かな屋敷にはどこにでもあった蔵の姿が、今では限られた場所にしか残っていない。それに気づく愉しみがある。

蔵のまわり

はじめに実際的な注意を一つ。三宅家住宅は現在も住居として使われており、一般には公開されていない。蔵や庭門は街道沿いの景観の一部として外から眺められるが、内部を見られる機会はごく限られる。その数少ない機会が、愛知県内の登録有形文化財所有者の会が2014年から続ける特別公開「あいたて博」である。ふだん閉じられた建物が、所有者や専門家の解説とともに開かれる。内部を見たいなら、訪問前に開催情報を確かめておきたい。

確実に楽しめる場所としては、尾張旭の中心部がよい。名鉄瀬戸線の尾張旭駅から徒歩15分ほどの城山公園には、旭城の建物と、無料で上れる展望施設スカイワードあさひがあり、最上階からは平野が広く見渡せる。少し足を延ばせば愛知県森林公園もある。瀬戸線は一方で名古屋市の中心部へ、もう一方で瀬戸へ通じている。瀬戸は窯と陶磁器の博物館で知られる町である。その焼き物こそ、かつて三宅家の門前を通って街道を下っていった品である。

Q&A

Q蔵の中に入れますか。
A通常は入れません。三宅家住宅は現在も個人の住居で、一般公開されていません。外観は街道から眺められ、内部は特別公開「あいたて博」の際にまれに開かれます。
Q「登録」と「指定」の文化財はどう違うのですか。
A指定(国宝・重要文化財など)は、最も重要な文化財を対象とする古くからの厳格な制度です。登録は1996年に始まった緩やかな枠組みで、地域の景観を支える数多くの歴史的建造物が対象です。所有者は建物を使い続けながら、大きな改変の前に届け出ます。
Q蔵はいつ建てられたものですか。
A文化庁は明治前期、1868年から1882年のあいだと位置づけています。2019年(令和元年)に改修されました。
Q何のための建物だったのですか。
A家の道具蔵、すなわち道具・什器・家財を収める蔵でした。米蔵や酒蔵とは区別されます。三宅家は藍染の紺屋業を営み、のちに酒造業も手がけました。
Q周辺へはどう行けばよいですか。
A名鉄瀬戸線が名古屋市の中心部と瀬戸を結び、尾張旭を通ります。住宅は西大道町の旧瀬戸街道沿いにあります。尾張旭駅からは市の主な見どころが徒歩15分圏内です。

基本情報

名称三宅家住宅蔵(みやけけじゅうたくくら)
所在地愛知県尾張旭市西大道町五輪塚3676
区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日2022年(令和4年)2月17日(登録番号 23-0573)
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
年代明治前期(1868〜1882年)/令和元年(2019年)改修
構造及び形式土蔵造二階建、瓦葺(切妻造桟瓦葺平入)、建築面積46㎡
員数1棟
公開状況個人住宅につき非公開(外観は街道から見学可)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014168
三宅家住宅主屋 — 文化遺産オンライン(国立情報学研究所)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/520887
三宅家住宅蔵 — 尾張旭市デジタルミュージアム
https://www.city.owariasahi.lg.jp/site/digitalmuseum/39391.html
三宅家住宅 — 尾張旭市公式ホームページ
https://www.city.owariasahi.lg.jp/kurasi/kyouiku/bunka/bunkazai/shiseki/miyakekejuutaku.html
愛知県国登録有形文化財建造物所有者の会(あいたて博)
https://www.aichi-tobunkai.org/

最終更新日: 2026.06.17