瀬戸街道に立つ門と塀
名古屋の北東、尾張旭市を抜ける旧瀬戸街道沿いに、瓦葺の塀を背にした切妻造の木の門が建つ。三宅家住宅の表構えである。門は腕木門で、柱から突き出した腕木が桟瓦葺の屋根を受け、間口はわずか1.4メートル。門の南端からは塀が街道に沿って西へおよそ30メートル延び、そこで北に折れて敷地の西辺を囲む。
門も塀も明治前期、西暦でいえば1868年から1882年ごろの建築にあたる。令和4年(2022年)2月17日、背後に建つ主屋・蔵とともに国の登録有形文化財に登録された。
「指定」ではなく「登録」
日本の建造物保護には二つの系統がある。一つは十九世紀にさかのぼる古い制度で、とりわけ価値の高い建物や美術工芸品を重要文化財、その頂点を国宝として扱い、現状変更に厳しい制限をかける。三宅家の門と塀が属するのはもう一方、平成8年(1996年)に始まった登録有形文化財の制度である。
この登録制度は、主に明治以降に建てられ、街並みの表情をかたちづくってきた数多くの建物を対象に設けられた。規制は比較的ゆるやかで、所有者は建物を使い続けながら、大きな改変の前に届け出ることを主な義務とする。三宅家の門と塀は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という登録基準のもとで登録された。守られているのは一棟の建物というより、旧街道がいまも十九世紀の道として読み取れる、その通り全体の景観である。
在郷商家の表構え
三宅家は江戸時代中期から、春日井郡新居村あたりに田畑を持つ地主であった。土地で得た資力は商いにも向けられる。江戸後期には木綿の糸を藍で染める紺屋を営み、明治初期にはこれに酒造が加わった。明治前期に建てられた住宅は、この二つの生業を兼ねる屋敷として構えられている。
町人でも農民でもないこうした商家を在郷商家と呼ぶ。その住まいは、町家らしい格式のある外観を取りながら、奥には農家のような深い作業空間を抱えることが多い。三宅家住宅もこの典型で、門と塀は街道を行く者が最初に目にする、屋敷の顔にあたる部分である。
見どころ
門の前に立つと、東を向いて街道に正対し、主屋正面の座敷前庭を画していることがわかる。屋根は切妻造、桟瓦で葺かれ、開口部には両開きの板戸が建つ。両脇には短い袖塀が添えられ、門の構えを引き締める。
塀の表情はこれとは異なる。柱を壁に塗り込めず外に見せる真壁造で、腰の部分には板を張る。西へ延び、北へ折れる線をたどると、屋敷のもとの境界がそのまま浮かび上がる。どれも華美ではない。見るべきは寸法の釣り合いであり、途切れずに続く灰色の瓦の連なりであり、この表構えがいまも街道に属しているという、その収まりのよさである。
門の奥には、ともに登録された建物が控える。主屋は入母屋造の屋根を載せ、低い二階窓を並べたつし二階風の構えを見せ、外壁は真壁の上に白い漆喰を塗る。内部の土間には、かつて藍を仕込んだ藍瓶が床に埋め込まれたまま残る。その傍らには、道具を納めてきた土蔵造二階建の蔵が建つ。
周辺の楽しみ
三宅家住宅は現役の個人住宅で、内部は公開されていない。ただし門と塀は公道に直接面しているため、外観は街道からいつでも眺められる。見学は歩道側からにとどめ、暮らす人の生活に配慮したい。住宅は折にふれ、愛知登文会が主催する特別公開イベント「あいたて博」に参加し、ふだん閉じられた建物を間近に見る機会が設けられることがある。
尾張旭市は名鉄瀬戸線の沿線にある。この路線は名古屋の中心と、街道の名のもととなった東の焼物のまち瀬戸とを結ぶ。尾張旭駅から歩いて行ける城山公園のスカイワードあさひには、無料の展望室と、下の階に郷土の歴史を扱う展示室がある。江戸時代に諸国をめぐった円空の手になる仏像五躯や、地域に伝わる民俗芸能の資料もそこで見られる。瀬戸の窯のまちは線路沿いに三十分ほど。やきものに関心があれば足を延ばす価値がある。
Q&A
- 三宅家住宅の中に入れますか。
- いいえ。現在も個人の住まいとして使われており、内部は公開されていません。門と塀は公道から眺められます。愛知登文会が主催する「あいたて博」の際に、敷地が公開されることがあります。
- 「登録有形文化財」とはどのような区分ですか。
- 平成8年(1996年)に始まった、比較的ゆるやかな保護の仕組みです。重要文化財や国宝を選ぶ古い指定制度とは別の系統で、主に明治以降の、街並みをかたちづくる建物を対象とし、所有者が使い続けることを前提としています。
- 登録されているのはどの建物ですか。
- 国指定文化財等データベースによれば、令和4年(2022年)2月17日に主屋・蔵・庭門及び塀の三件が同日付で登録されました。庭門と塀は合わせて一棟として数えられています。
- どうやって行けばよいですか。
- 名古屋・栄町から名鉄瀬戸線に乗り、瀬戸方面へ向かって尾張旭市内で下車します。路線はそのまま焼物のまち瀬戸まで続くため、名古屋からの日帰りの行程に組み込みやすい場所です。
- 近くに見どころはありますか。
- 城山公園のスカイワードあさひは無料で周辺を一望でき、下の階の郷土資料展示では円空仏も見られます。同じ路線の東端にある瀬戸は、やきものに関心のある人にとって次の目的地として手頃です。
基本情報
| 名称 | 三宅家住宅庭門及び塀(みやけけじゅうたくにわもんおよびへい) |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県尾張旭市西大道町五輪塚3676-1 |
| 区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 令和4年(2022年)2月17日/登録番号 23-0574 |
| 時代 | 明治前期(1868〜1882年) |
| 構造 | 門:木造、瓦葺、間口1.4メートル。塀:木造、瓦葺、総延長約30メートル |
| 員数 | 1棟(門と塀を合わせて登録) |
| 所有・公開 | 個人所有、非公開(外観は街道から見学可) |
| アクセス | 旧瀬戸街道沿い。名鉄瀬戸線、尾張旭市内(名古屋の北東) |
References
- 国指定文化財等データベース(文化庁):三宅家住宅庭門及び塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014169
- 文化遺産オンライン(国立文化財機構):三宅家住宅主屋
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/520887
- 尾張旭市公式ホームページ:三宅家住宅
- https://www.city.owariasahi.lg.jp/page/1899.html
- 尾張旭市デジタルミュージアム:三宅家住宅庭門及び塀
- https://www.city.owariasahi.lg.jp/site/digitalmuseum/39390.html
最終更新日: 2026.06.17