鳴海宿の一角に残る黒漆喰の蔵
下郷家住宅(千代倉本家)紅葉蔵は、愛知県名古屋市緑区鳴海町にある明治24年(1891年)建築の土蔵で、令和6年(2024年)8月15日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
建物は土蔵造の二階建。屋根は切妻造の本瓦葺で、東面には桟瓦葺の下屋が差し掛かる。建築面積は91平方メートル。外壁は黒漆喰で塗り込められ、腰まわりには下見板が張られている。漆喰の蔵といえば白壁を思い浮かべる人が多いだろうが、下郷家住宅(千代倉本家)紅葉蔵の外壁は黒い。街道の側から近づくと、まずこの色の違いに気づく。
千代倉は、鳴海の商家として続いてきた下郷家の家名と結びついた呼び名である。名古屋市の観光公式サイトは、下郷千代倉本家を江戸時代から約400年続く商家と紹介している。紅葉蔵が建つのは、東海道の宿場町であった鳴海宿の中心部にあたる一画で、敷地の南西隅にこの蔵が据えられ、その北側に中蔵が屋根を一段落として接続する。
名称の読みは資料によって揺れている。文化庁の文化審議会答申(令和6年3月15日)は「しもざとけ」とふりがなを付す。一方、国指定文化財等データベースの紅葉蔵の項は「しもさとけ」と振る。同じデータベースでも中蔵の項は「しもざとけ」であり、二種類の読みが並存している状態にある。本記事では答申の表記にしたがった。
登録有形文化財としての評価
紅葉蔵に適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。登録番号は23-0607、第107回の登録にあたる。同じ日に、北隣の中蔵も23-0608として登録された。
文化審議会の答申は、この二棟を「東海道鳴海宿中心部にある商家の家財蔵2棟」としてひとまとめに扱い、重厚な外観が紅葉蔵とともに商家の敷地景観を形づくっている、と結んでいる。評価の軸が一棟だけの珍しさではなく、二棟が並んで街道沿いの敷地に与えている効果に置かれていることが読み取れる。
明治24年という建築年も見落とせない。鳴海は名古屋市に編入される前から街道沿いに商家が連なった土地で、緑区の資料によれば、千代倉家の菩提寺である誓願寺の境内には下郷家の墓地と鳴海俳諧塚があり、山門は四代元雄の代に自宅から移されたものだという。土地に根を張った家が、明治に入ってから改めて建てた蔵が紅葉蔵である。
登録有形文化財の制度は、指定制度のように現状変更を強く制限するものではない。建物を使い続けながら守るための仕組みで、所有者は株式会社千代倉、現在も収蔵施設として機能している。
紅葉蔵の見どころ
外から見て最も分かりやすいのは、黒漆喰と本瓦葺の組み合わせである。桟瓦より重い本瓦を載せるには、それを支える軸部が要る。防火と防湿のために厚く塗り重ねた壁と、重量のある屋根、そして腰の下見板。この三つが揃った外観は、商家が蔵に求めた性能をそのまま形にしている。
東面に差し掛かる下屋は、屋根を桟瓦葺として本体より軽く納めている。ここは荷の出し入れをする側で、下屋の下に立てば雨に濡れずに戸前に取り付ける。南側の二間分は中蔵の下屋と一連のガラス戸になっており、二棟の東面がひと続きの面として読める。
二階は北面に神棚を備える。蔵に神棚を設ける例は珍しくないが、位置が記録に残ることは多くない。文化庁の解説はこの神棚と、太い地棟に登梁形式の小屋を見せる構えを並べて挙げている。地棟は小屋組の下を通る太い横材で、そこから棟へ向かって斜めに梁を登らせるのが登梁形式である。二階に上がれば、天井を張らずに見せたその架構が目に入る造りになっている。
紅葉蔵に納められてきたのは、文化庁の解説によれば商家の調度品と文書である。隣接する千代倉歴史館は、歴代当主が書き継いだ日記や所蔵品を企画展で公開しており、松尾芭蕉や池大雅との交流に関わる資料も扱う。緑区に残る千鳥塚は貞享4年(1687年)の建立で、刻まれた鳴海の俳人六名のうちに知足軒寂照の名がある。紙と道具を長く抱え続けてきた家であることが、蔵の性格を決めている。
見学方法とアクセス
紅葉蔵は非公開である。名古屋市の観光公式サイトも、千代倉歴史館に隣接する蔵について非公開と明記している。内部の見学はできず、敷地は私有地であるため、立ち入りや撮影については歴史館の案内にしたがいたい。
隣接する千代倉歴史館は、年4回の企画展の会期中に開館する。開館時間は午前10時から午後4時30分まで、入館は午後4時までとなっている。休館日は月曜日から水曜日で、祝日でも開かない。企画展の会期外は展示替えのため閉館するため、訪ねる前に会期を確認しておく必要がある。
入館料は一般500円、高校生・大学生300円、小中学生100円、未就学児は無料。支払いにはクレジットカードや交通系ICなどの電子マネー、QRコード決済も使える。駐車場はないので、公共交通での来訪が前提になる。
最寄り駅は名鉄名古屋本線の鳴海駅で、東口から徒歩約4分。駅の東側に旧東海道が通り、その沿線に高札場の復元や誓願寺、天神社といった鳴海宿ゆかりの地点が点在している。紅葉蔵の外観そのものを目当てに歩くというより、宿場の町割りをたどる道筋の中にこの敷地があると考えたほうが実際に近い。
Q&A
- 下郷家住宅(千代倉本家)紅葉蔵は見学できますか。内部に入れますか。
- 紅葉蔵は非公開で、内部の見学はできません。名古屋市の観光公式サイトも、千代倉歴史館に隣接する登録有形文化財の蔵を非公開と案内しています。敷地は私有地のため、立ち入りや撮影は歴史館の案内にしたがってください。隣接する千代倉歴史館は企画展の会期中に開館し、時間は午前10時から午後4時30分、入館は午後4時までです。
- 下郷家住宅(千代倉本家)紅葉蔵はいつ建てられ、いつ文化財になりましたか。
- 建築は明治24年(1891年)です。登録有形文化財(建造物)への登録は令和6年(2024年)8月15日で、登録番号は23-0607。北隣の中蔵も同じ日に登録されています。
- 紅葉蔵へのアクセスは。最寄り駅からどのくらいかかりますか。
- 名鉄名古屋本線の鳴海駅が最寄りで、東口から徒歩約4分です。所在地は名古屋市緑区鳴海町字相原町27ほか。駐車場はないため、鉄道での来訪が前提になります。
- 紅葉蔵と中蔵はどこが違いますか。
- 紅葉蔵は明治24年(1891年)の建築で、建築面積91平方メートル、屋根は本瓦葺、外壁は黒漆喰塗です。中蔵は2年後の明治26年(1893年)建築で63平方メートル、屋根は桟瓦葺、外壁は漆喰塗。紅葉蔵の北側に屋根を一段落として接続しています。
- 紅葉蔵には何が納められていたのですか。
- 文化庁の解説は、商家の調度品や文書のための蔵と説明しています。隣接する千代倉歴史館では、歴代当主が書き継いだ日記や所蔵品が企画展で公開されており、松尾芭蕉や池大雅との交流に関わる資料も紹介されています。
基本データ
| 名称 | 下郷家住宅(千代倉本家)紅葉蔵 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市緑区鳴海町字相原町27他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 令和6年(2024年)8月15日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積91平方メートル、土蔵造二階建 |
| 所有者 | 株式会社千代倉 |
| 公開状況 | 非公開。隣接する千代倉歴史館は企画展会期中に開館(午前10時から午後4時30分、入館は午後4時まで) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース「下郷家住宅(千代倉本家)紅葉蔵」(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015025
- 文化遺産オンライン「下郷家住宅(千代倉本家)紅葉蔵」
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/608223
- 文化審議会の答申(登録有形文化財(建造物)の登録)令和6年3月15日(文化庁)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/pdf/94080301_03.pdf
- 名古屋市「国登録文化財」一覧
- https://www.city.nagoya.jp/kankou/rekishi/1017268/1034462/1017208.html
- 名古屋市緑区「鳴海周辺のみどころ一覧1」
- https://www.city.nagoya.jp/midori/miryoku/1024793/1024801/1024802.html
- 名古屋市公式観光情報 名古屋コンシェルジュ「千代倉歴史館」
- https://www.nagoya-info.jp/spot/detail/256/
最終更新日: 2026.08.31