萬乗醸造離れとは
萬乗醸造離れは、愛知県名古屋市緑区大高町にある大正期(1912年から1925年ごろ)の木造平屋建座敷で、平成19年(2007年)7月31日に登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は23-0241。主屋の北西にある8畳座敷の西へ続く10畳座敷と、その西南にある茶室からなる。
建築面積は48平方メートル、屋根は瓦葺。10畳座敷は北西隅に2畳の上段床を設けており、これは表千家の残月亭を写したものとされる。上段床とは床を一段高くした構えで、座敷の中に格の差をつくる。茶室は3畳半で、小振りな床の前と脇に板を嵌めた床構えを持つ。文化庁の解説は茶室について4畳半の規模とも記しており、数え方の違いがある。
いずれも数寄屋造の系譜に属する。数寄屋造は茶室の手法を住宅の座敷に取り込んだ形式で、面皮柱や細い部材を用い、書院造の重い格式をゆるめる方向で発達した。萬乗醸造離れは、その近代における実作にあたる。
なぜ登録有形文化財なのか
萬乗醸造離れの登録基準は「造形の規範となっているもの」である。萬乗醸造で登録された12件のうち、この基準が適用されたのは萬乗醸造離れだけで、残る11件はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」による。
基準の違いは評価の理由の違いである。他の11件は町並みや醸造場の構成に対する寄与を評価された。萬乗醸造離れは、建物そのものの造形の質が評価対象になっている。愛知県教育委員会の解説は、良質で凝ったつくりの近代数寄屋建築と記す。
酒造家の座敷が数寄屋の水準で建てられた背景には、当主の交際がある。同解説は、主屋・離れ・茶室が名古屋の経済人の文化を示すものとして貴重だと述べている。萬乗醸造離れは、酒を造る場所であると同時に人を迎える場所でもあった敷地の性格を示している。
見どころ
10畳座敷の上段床が萬乗醸造離れの中心である。写しの元とされる残月亭は、千利休の屋敷にあった座敷に由来し、床脇に立つ柱と上段の構えで知られる。それを2畳の規模で写すというのは、原型の寸法をそのまま持ち込むのではなく、比例と構えを移す仕事になる。
茶室の床構えも独特である。小振りな床の前と脇に板を嵌める。板を嵌めることで床の間の開口が縮まり、掛物や花に向かう視線が絞られる。一般的な床の間の納まりからは外れており、施主か大工の判断が入っていると考えられる。
萬乗醸造離れは主屋の8畳座敷と続いており、住まいの奥へ向かうにつれて格式が上がる構成になっている。座敷の前には庭が設けられている。
ただし萬乗醸造離れは敷地の奥にあり、外からは見えない。ここに挙げた造作は、公開の機会がない限り実見できない。文化庁と愛知県教育委員会の解説文が、現状で内容を確かめられる資料である。
見学方法とアクセス
萬乗醸造離れは公開されていない。稼働中の酒造会社の敷地内にあり、立ち入りもできない。敷地の奥に位置するため、公道から外観を見ることも難しい。萬乗醸造は公式サイトの「よくあるご質問」で、蔵での直売を行っていないと説明している。訪ねても購入や見学の受付はない。
撮影は公道からの範囲に限られるが、萬乗醸造離れ自体を捉えることはできない。敷地内や作業に向けた撮影は控えたい。特別公開の予定は、文化庁および愛知県教育委員会の公開情報では確認できなかった。
最寄り駅はJR東海道本線の大高駅で、徒歩約15分。駅から旧市街に入り、大高川の左岸を西へ歩くと酒蔵の町並みに入る。名古屋市緑区が案内する歴史散策路「大高城下コース」は、この町並みを経て大高城跡へ向かう約5.7キロの経路である。萬乗醸造離れは通りからは見えないが、主屋の黒い壁の奥にあると考えてよい。
Q&A
- 萬乗醸造離れは見学できますか?内部は公開されていますか?
- 公開されていません。稼働中の酒造会社の敷地の奥にあり、立ち入りも外観の見学もできません。特別公開の予定は公開情報では確認できませんでした。
- 萬乗醸造離れへのアクセスは?最寄り駅からどのくらいですか?
- JR東海道本線の大高駅から徒歩約15分の位置に敷地があります。名古屋市緑区の歴史散策路「大高城下コース」の経路上です。
- 萬乗醸造離れはいつ建てられたのですか?
- 1912年から1925年ごろ、大正期の建築と推定されています。平成19年(2007年)7月31日に登録有形文化財に登録されました。
- 萬乗醸造離れが他の11件と登録基準が違うのはなぜですか?
- 萬乗醸造離れだけが「造形の規範となっているもの」で登録されているためです。他の11件は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」による登録です。
- 萬乗醸造離れの残月亭写しとは何ですか?
- 10畳座敷の北西隅に設けられた2畳の上段床が、表千家の残月亭を写したものとされることを指します。上段床は床を一段高くした構えです。
基本データ
| 名称 | 萬乗醸造離れ |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市緑区大高町字西門田41 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成19年(2007年)7月31日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積48平方メートル。10畳座敷に2畳の上段床、茶室は3.5畳 |
| 所有者 | 株式会社萬乗醸造 |
| 公開状況 | 非公開(稼働中の醸造施設の敷地内。外観は公道から見学可) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006584
- 愛知県の国・県指定文化財と国の登録文化財(愛知県教育委員会)
- https://www.pref.aichi.jp/kyoiku/bunka/bunkazainavi/yukei/kenzoubutu/kunitouroku/1253-1264.html
- 緑区の歴史散策路・大高城下コースの紹介(名古屋市緑区役所)
- https://www.city.nagoya.jp/midori/miryoku/1024793/1024794/1024797.html
- よくあるご質問(株式会社萬乗醸造)
- https://kuheiji.co.jp/contact/faq/
最終更新日: 2026.09.02