水に備えて床を上げた蔵

旧村上家住宅土蔵は、愛媛県大洲市大洲字志保町東にある明治中期(1883年〜1897年)建築の蔵で、令和5年(2023年)8月7日に登録有形文化財となった。木蝋商の村上家の屋敷のうち、志保町(しおまち)通に面する主屋の背後に、中庭を挟んで建つ。木造2階建、瓦葺、建築面積34平方メートル。通りに面した3棟とは向きが違い、敷地の裏通り側を正面とする。

大洲の市街地は肱川(ひじかわ)が大きく蛇行する内側に開けており、この川の氾濫による浸水を繰り返し受けてきた土地である。旧村上家住宅土蔵はその条件のもとで建てられた。切石を積んだ基礎の上に建物を載せ、1階の床の高さを上げてある。装飾ではなく、水を計算に入れた設計である。

建築年代は明治中期とされ、主屋の明治2年頃(1869年)より新しい。村上家が木蝋の商いで喜多郡屈指の豪商となり、7代目の村上長次郎が大洲銀行の設立に関わっていく時期と重なる。令和元年(2019年)に改修された。

4棟でひとつだけ、登録基準が違う

旧村上家住宅土蔵の登録基準は「造形の規範となっているもの」である。同じ日に登録された主屋・付属屋・貸家の3棟はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」であり、土蔵だけが別の基準で登録されている。通りの景観をつくる町家として評価された3棟に対し、この蔵は造形そのものが評価された。

その造形の中身は、外壁の仕上げに集約される。全体は土蔵造で、漆喰を白く塗り上げる。壁の下部(腰)には海鼠壁を張る。平瓦を並べ、目地に漆喰を蒲鉾形に盛り上げる仕上げで、盛り上がった目地が海鼠に似ることからこの名がある。愛媛県の解説は、旧村上家住宅土蔵では3面の腰壁を海鼠壁としていると記す。

海鼠壁は雨や湿気に強く、壁の下部を守る実用的な仕上げでもある。水に備えて床を上げ、腰を海鼠壁で固めるという二段構えが、この蔵の設計を貫いている。

屋根は桟瓦葺切妻造で、長辺側に入口をとる平入である。登録有形文化財は建物を使いながら守る制度で、蔵のように用途が失われやすい建物こそ、この枠組みが効いてくる。

見どころ

まず足元を見てほしい。切石積の基礎が地面から立ち上がり、その上に白い壁が載る。基礎の高さの分だけ、建物全体が持ち上がっている。肱川の水位が上がったときに床上まで達しないようにという判断が、この段差に表れている。

次に腰の海鼠壁である。白い漆喰の平滑な面と、格子状に走る目地の凹凸が、同じ白でまったく違う表情をつくる。曇りの日でも陰影が出るのは、目地が立体的だからである。

内部は各階とも板敷きの一室で、間仕切りがない。階段は西辺に設けられている。蔵は物を積むための建物なので、床は板張り、部屋は分けない。旧村上家住宅土蔵もその原則どおりに造られている。運営者によれば、この蔵はかつて甲冑や屏風などを納める宝物庫として使われていた。

旧村上家住宅土蔵は敷地の裏通りに面しているため、主屋の正面がある志保町通からは直接見えない。裏側にまわると、白壁と海鼠壁が路地に向かって立っている。

見学方法とアクセス

旧村上家住宅土蔵は、分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」のOKI棟を構成する建物の一つで、現在は客室に改修されている。内部を見られるのは宿泊者に限られる。外観は敷地の裏通り側から見ることができ、料金はかからない。

路地からの外観撮影は自由に行える。内部は客室なので、撮影の可否は運営者に確認してほしい。

最寄り駅はJR予讃線の伊予大洲駅で、南へおよそ1.5キロ。徒歩なら20分ほど、車では5分ほどである。前日までに予約すれば、運営者が駅まで車を迎えによこす。車では松山自動車道の大洲肱南インターチェンジから約10分。宿泊者の駐車場所は「おはなはん通り駐車場」に指定されている。

旧村上家住宅土蔵を探すときは、志保町通で主屋の正面を確認したうえで、屋敷の東側へまわり込むとよい。主屋との間には中庭がある。

よくある質問

Q旧村上家住宅土蔵の内部は見学できますか。
A現在は宿泊施設の客室に改修されているため、内部を見られるのは宿泊者に限られます。外観は裏通り側から無料で見ることができます。
Q旧村上家住宅土蔵の1階の床が高いのはなぜですか。
A肱川の氾濫による浸水を避けるためです。切石積の基礎の上に建てて床高を上げてあります。
Q旧村上家住宅土蔵はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A明治中期、西暦では1883年から1897年頃の建築と考えられています。令和5年(2023年)8月7日に登録有形文化財(建造物)として登録されました。
Q旧村上家住宅土蔵の登録基準は他の3棟と違うのですか。
A違います。主屋・付属屋・貸家が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」であるのに対し、土蔵は「造形の規範となっているもの」として登録されています。
Q旧村上家住宅土蔵へはどう行けばよいですか。
AJR予讃線の伊予大洲駅から南へおよそ1.5キロ、徒歩20分ほどです。車なら5分ほどで、運営者が前日までの予約制で送迎車を出しています。松山自動車道の大洲肱南インターチェンジからは約10分です。

基本データ

名称旧村上家住宅土蔵(きゅうむらかみけじゅうたくどぞう)
所在地愛媛県大洲市大洲字志保町東379
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年令和5年(2023年)8月7日登録
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積34平方メートル
所有者株式会社KITA
公開状況宿泊施設の客室として活用。外観は裏通りから見学可、内部は宿泊者に限る

参考文献

国指定文化財等データベース 旧村上家住宅土蔵(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00014695
文化遺産オンライン 旧村上家住宅土蔵
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/527327
わがまちの文化財 旧村上家住宅 主屋・付属屋・土蔵・貸家(大洲市)
https://www.city.ozu.ehime.jp/site/bunkazai/66298.html
えひめの文化財 旧村上家住宅主屋ほか3件(愛媛県)
https://www.pref.ehime.jp/ehimenotakara/758.html
NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町 OKI棟
https://www.ozucastle.com/stay/oki
NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町 アクセス
https://www.ozucastle.com/access/

最終更新日: 2026.09.04