堀端通りに面した二十メートルの正面
木屋旅館本館は、愛媛県宇和島市本町追手にある明治44年(1911年)建築の木造二階建旅館建築で、平成26年(2014年)4月に国の登録有形文化財に登録された。宇和島城の南東、かつて城の堀に沿って延びていた通りに南面して建つ。
創業者は饅頭屋・木屋徳右衛門の息子、徳三郎である。開業当初の性格は行楽の宿ではなく、商用客を泊める商人宿だった。間取りにもその出自が残っている。
通りの向かい側に立つと、まず横幅が目に入る。一階の正面は二十メートルを超えて途切れずに続き、その荷重を柱に差し通した一本の差物が受けている。前面には出格子が並ぶ。中から通りは見えるが、外からは室内が見えにくい。装飾で押してくる建物ではない。効いているのは比例のほうだ。
登録の理由と建物の構成
登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まったもので、国宝・重要文化財を生む指定制度とは性格が異なる。おおむね築五十年以上を経て保存の価値がありながら、使い続けられることが前提となる建造物を対象とし、大きな改変にあたっては許可ではなく届出を求める。木屋旅館本館は登録番号38-0110、第77回登録として平成26年4月25日に登録された。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
文化庁のデータでは、員数1棟、木造2階建、瓦葺、建築面積269平方メートル。年代は明治44年(1911年)、平成23年(2011年)改修と記載される。所有者は宇和島市。
評価の対象は正面の景観だけではない。桁行の中央部に玄関ホールと階段室を置き、客室を東西に振り分ける構成をとる。そして東西の各室には、床の間・違い棚・床柱といった座敷飾が室ごとに異なる意匠で設けられている。同じ組み合わせを繰り返した部屋がない。地方城下町の明治末期の営業旅館として、これはかなり手のかかった造りで、当時の商家が客をもてなすということをどう考えていたかを読み取れる部分でもある。
廃業から十七年、引き算による再生
宿としての営業は八十四年続いた。後藤新平が泊まり、のちに首相となる犬養毅も泊まった。作家では司馬遼太郎、吉村昭、五木寛之、国語学者では金田一春彦の名が伝わる。やがて建物の傷みが通常の手入れで追いつかない段階に入り、平成7年(1995年)に廃業した。
そのまま十七年、建物は空いたままだった。
再生を担ったのは、宇和島の地元企業と有志が出資して立ち上げた「木屋旅館再生プロジェクト」で、改修設計は建築家の永山祐子が平成23年(2011年)4月から翌年3月にかけて手がけた。手法は足すことではなく抜くことだった。二階の床を三か所で広く抜き、畳のかわりに透明のアクリル板を入れる。その上の天井も抜き、古い屋根の架構が下から見えるようにする。最も高いところで約八メートルの吹き抜けが、水平方向にしか展開していなかった明治の平面に垂直の軸を通した。日中は二階の窓から入った光が一階の床に落ちる。古いタイル張りの浴室は、タイルを線状に一部だけ残して全体を墨色に塗り込めた。
この解釈が建物にとって最良だったかどうかは、意見の分かれるところではあるだろう。明治の座敷は手を入れずに見たい、という立場も当然ある。ただ、建物が立ち続け、使われ続ける状態は保たれた。登録制度が本来想定しているのはその方向である。文化財登録は再開業の二年後に行われた。
現在は一日一組限定の一棟貸しで、二名から最大十名まで。チェックイン時にスタッフが利用方法を案内して鍵を渡し、夜間は常駐しない。宿泊しない場合でも、宇和島市の観光案内は館内を見学できる施設として紹介しているため、内部を見たい人は事前に宿へ問い合わせるとよい。日によっては宿泊客が滞在中で見学できないこともある。JR宇和島駅からは徒歩約15分、タクシーで約5分。宿泊者用の駐車場は2台分ある。
館内の撮影可否は運営側の条件によるので、これも事前に確認しておきたい。坂を少し上れば現存十二天守のひとつ宇和島城があり、半日で両方を回れる距離にある。
Q&A
- 木屋旅館本館には宿泊できますか。予約はどうすればよいですか。
- 宿泊できます。一日一組限定の一棟貸しで、二名から最大十名程度まで利用できます。予約は宿への直接連絡か宿泊予約サイトを通じて事前に行います。チェックイン時にスタッフが対応しますが、夜間は館内に常駐しません。
- 木屋旅館本館は宿泊しなくても内部を見学できますか。
- 宇和島市の観光案内では見学できる施設として紹介されていますが、その日の宿泊状況によって可否が変わります。訪問前に宿へ問い合わせてください。二十メートルを超える出格子の正面は、公道からいつでも見ることができます。
- 木屋旅館本館へはJR宇和島駅からどう行きますか。
- 徒歩約15分、タクシーなら約5分です。宇和島駅へはJR予讃線の特急で松山から約80分。車の場合は松山から松山ICより四国横断自動車道で宇和島朝日ICまで進み、そこから一般道で約60分が目安です。
- 木屋旅館本館の見どころはどこですか。
- 外部では、二十メートルを超える間口に差物を一本通し、出格子を並べた明治の正面構え。内部では、東西の客室が室ごとに異なる座敷飾を備えている点と、平成24年(2012年)の改修で建物の中央に生まれた高さ約八メートルの吹き抜けから屋根の架構を見上げられる点です。
- 木屋旅館本館は重要文化財ですか、登録有形文化財ですか。
- 登録有形文化財です。国宝・重要文化財を指定する制度とは別に、平成8年(1996年)から始まった登録制度によるもので、使いながら残すことを前提とした区分にあたります。登録は平成26年(2014年)4月25日です。
基本情報
| 名称 | 木屋旅館本館(きやりょかんほんかん) |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県宇和島市本町追手 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号38-0110 |
| 指定年 | 平成26年(2014年)4月25日登録(第77回登録) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積269平方メートル |
| 所有者 | 宇和島市 |
| 公開状況 | 営業中の宿泊施設(一日一組・一棟貸し)。内部見学は事前問い合わせが必要。外観は公道から見学可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) 木屋旅館本館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010071
- 文化遺産オンライン 木屋旅館本館
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/230998
- 宇和島市 国登録有形文化財 木屋旅館
- https://www.city.uwajima.ehime.jp/site/sizen-bunka/kiyaryokan.html
- うわじま観光ガイド 木屋旅館(見学)
- https://www.uwajima.org/spot/kiyaryokan.html
- 木屋旅館 公式サイト
- https://kiyaryokan.com/
最終更新日: 2026.08.06