港へ通じる道に面した商家

越智家住宅店舗及び居宅は、愛媛県西条市壬生川にある江戸時代末期の商家建築で、平成14年(2002年)2月14日に国の登録有形文化財となった。文化庁の国指定文化財等データベースは年代を1830年から1867年の間、構造を木造2階建・瓦葺、建築面積を346平方メートルと記録している。

建物は市街地を貫く幹線道路に北面して建つ。この道は本河原通と呼ばれ、堀川の港へ通じる物資の集散路だった。壬生川は瀬戸内海の燧灘に面し、かつては大曲川をさかのぼって荷船を寄せることができた。港と道と店構えは一続きの仕組みだったわけで、越智家が北を向いて建てたのは商いの必然である。

越智家の屋号は枡屋という。明治期には木蝋を扱い、その後は大阪から仕入れた肥料や農薬を周桑地域一帯へ卸して身代を築いた。地域随一の豪商と呼ばれた時期があったと、県の近代和風建築調査に基づく報告は記している。

登録の理由と、登録という制度

日本の建造物保護には二つの筋道がある。国宝・重要文化財の「指定」は強い規制と手厚い関与を伴う。もう一方の「登録有形文化財」は平成8年(1996年)に始まった制度で、外観を変更する際に届け出を求める代わりに、所有者が建物を日常の用に供したまま守ることを認める。個人所有の住宅や商店が対象の多数を占めるのは、この設計思想による。

越智家住宅店舗及び居宅の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録番号は38-0020、第32回登録で、告示は平成14年3月12日である。文化庁の解説は、この建物を伊予地方を代表する商家と位置づけ、街路景観の形成に欠かせない要素と評している。指定文化財のように作品としての完成度を問うのではなく、町並みの中でどう働いているかを問う基準だと考えればよい。

同じ敷地では、昭和2年(1927年)の数寄屋(38-0021)と茶室(38-0022)が同日に登録された。江戸末期の商家に、昭和初期の隠居所と茶室が加わる。一軒の商家が百年近くをかけて増築を重ねた記録が、そのまま三件の登録として残っている。

正面を読む

構成は表屋造風とされる。京・大坂で発達した形式で、店舗棟と居住棟を別に建てて接続する。ここでは表側の店舗を建ちの高い切妻造2階建とし、下屋庇を差し掛ける。奥の住居部は平屋に落とす。通りから見ると、高い屋根と低い庇が段をつくり、その奥に平屋の棟が続く。

屋根は本瓦葺。平瓦と丸瓦を組む重い葺き方で、費用がかかる。破風は漆喰で塗り込め、側壁は縦板張とする。通りに見える面は白く整え、見えない側は板のままとする。商家が体面と実利をどう配分したかが、素材の使い分けにそのまま出ている。

内部は非公開だが、調査報告によれば店舗部分には通り土間が奥へ抜け、これに面して帳場が開く。黒く艶の出た大黒柱が架構を受ける。さらに奥には来客用の応接間があり、こちらは洋風の設えという。木と紙で構成された和の空間の途中に、洋間が一室だけ挿さる。明治後期から昭和初期の商家によく見られる選択である。南側には家族の居室のほか、炊事場、洗い場、使用人の部屋が並んだ。往時は家族と奉公人を合わせて10人ほどがこの屋根の下で暮らしたと伝わる。

訪ねる

越智家住宅の内部は原則非公開である。愛媛県公式観光サイトも「内部は原則非公開」と明記しており、建物は現在も個人の所有下にある。見学は道路からの外観に限られる。ただしこの建物が評価されたのは街路に対する働きゆえであり、通りに立って正面を眺めるという行為こそ登録の趣旨にかなう。

アクセスはJR予讃線の壬生川駅から北へ約800メートル、徒歩10分ほど。特急も停車する駅である。車なら今治と西条を結ぶ国道196号沿い。撮影は公道からであれば問題ないが、居住地の中の建物であり、門内や隣家へレンズを向けることは避けたい。

時間があれば、南西へ約1.1キロメートルの西条市立東予郷土館まで足を延ばすとよい。入館無料、月曜休館。旧東予地域の歴史と、燧灘の浅瀬に生きるカブトガニの資料が並ぶ。歩けば、かつて枡屋の荷が行き来した通りをたどることになる。

Q&A

Q越智家住宅店舗及び居宅は内部を見学できますか。
A内部は原則非公開です。愛媛県公式観光サイトでもそのように案内されており、建物は個人の所有です。見学は建物前の公道からの外観に限られます。
Q越智家住宅店舗及び居宅はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A文化庁のデータベースは建築年代を江戸時代末期、西暦1830年から1867年の間としています。登録年月日は平成14年(2002年)2月14日、告示は同年3月12日、登録番号は38-0020です。
Q越智家住宅店舗及び居宅への最寄り駅からの行き方は。
AJR予讃線の壬生川駅から北へ徒歩約10分、距離にして約800メートルです。特急停車駅です。車の場合は国道196号沿い、西条市壬生川の市街地にあります。
Q越智家住宅店舗及び居宅の「登録有形文化財」は重要文化財と何が違いますか。
A登録は指定より緩やかな保護制度で、平成8年(1996年)に始まりました。外観を変更する際に届け出を要する一方、所有者は建物を通常どおり使い続けられます。個人所有の住宅や商店が対象の多くを占めます。
Q越智家住宅の敷地には他にも登録された建物がありますか。
Aあります。昭和2年(1927年)の数寄屋(38-0021)と茶室「樟蔭」(38-0022)が同じ敷地に建ち、同日付で登録されています。いずれも店舗及び居宅の奥に位置し、同様に非公開です。

基本情報

名称越智家住宅店舗及び居宅(おちけじゅうたくてんぽおよびきょたく)
所在地愛媛県西条市壬生川35-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 38-0020
指定年平成14年(2002年)2月14日登録/同年3月12日告示
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積346平方メートル
所有者個人(国のデータベースに所有者名の記載なし)
公開状況内部は原則非公開。外観は公道から見学可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「越智家住宅店舗及び居宅」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002694
文化遺産オンライン「越智家住宅店舗及び居宅」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/115574
愛媛県「えひめの文化財(たから)」越智家住宅店舗及び居宅ほか2件
https://www.pref.ehime.jp/ehimenotakara/605.html
いよぎん地域経済研究センター「愛媛の登録有形文化財 越智家住宅(西条市)」
https://www.iyoirc.jp/post_industrial/20110701-2/
いよ観ネット(愛媛県公式観光サイト)「【西条市】越智家住宅」
https://www.iyokannet.jp/spot/4214

最終更新日: 2026.07.31