庭の中央に置かれた15平方メートル
越智家住宅茶室は、愛媛県西条市壬生川の越智家敷地中央部に建つ昭和2年(1927年)の茶室で、平成14年(2002年)2月14日に国の登録有形文化財となった。「樟蔭(しょういん)」の名で呼ばれ、文化庁の国指定文化財等データベースは、員数1棟、木造平屋建、瓦葺、建築面積15平方メートルと記録する。
15平方メートル。同じ敷地の店舗及び居宅は346平方メートル、数寄屋は248平方メートルである。敷地内で最も小さい建物が、唯一名前を与えられた建物でもある。
置かれた位置も面積と同じくらい重要だ。主屋と数寄屋に挟まれた敷地中央、南北に長い庭の中ほどに建つ。店舗及び居宅からも数寄屋からも、この茶室のある中庭を眺められる構成になっている。商いの場から庭を抜けて、客は四人も入れば一杯になる部屋に迎えられる。
本格の茶室であること
文化庁の解説は間取りを「三畳台目向う切り」と記す。語のひとつひとつが意味を持つ。三畳に台目畳、すなわち通常の四分の三ほどの長さの畳を加える構成は、千利休以来の小間の古典的な形式のひとつである。向切りは炉を客付の向こう、中柱の外側の隅に切る形で、亭主の座り方、釜への手の伸ばし方、客から点前がどう見えるかが変わる。
躙口を設けている点は決定的である。茶室らしい意匠がほしいだけなら、躙口は省ける。膝をついてくぐる入口をわざわざ備えたということは、実際に茶を点てるための部屋として造られたということだ。
文化庁が挙げる見どころは三つ。床柱を中柱に見立てた造り、変化のある棚の造作、そして精妙に配された開口部の格子である。床柱を中柱として扱う手法は、本来別の役割を負う部材に別の緊張を持ち込む工夫で、狭い室内に視線の起伏をつくる。解説は全体を「意趣に富んだ造り」と評している。
登録と、資料の食い違いについて
登録番号は38-0022、登録基準は「造形の規範となっているもの」、第32回登録で告示は平成14年3月12日。同じ基準は数寄屋にも適用され、通りに面した江戸末期の店舗及び居宅だけが「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で登録されている。三棟の性格の違いが、基準の選び分けにそのまま出ている。
登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった制度で、重要文化財の指定とは別系統にある。外観変更時の届け出を条件に、所有者は建物を使い続けられる。越智家のように年代も用途も異なる建物が一敷地に並ぶ場合、全体を博物館にせずに三棟を守れるこの制度は相性がよい。
資料には差がある。文化庁データベースは屋根を単に「瓦葺」と記すが、愛媛県の文化財ページは唐草一文字葺、外壁は土壁造り漆喰仕上げ、天井は網代、建具は各部屋で異なる、とより具体的に記述する。両者が矛盾するわけではないものの、記載の粒度が違う。一次資料としては文化庁データベースを優先すべきである。設計施工を今治の吉田工務店とする記述もあるが、これは地域研究機関の記事によるもので、国のデータベースには施工者の記載がない。
見られるのか
道路からも見えず、内部にも入れない。越智家住宅は個人所有で、愛媛県公式観光サイトも内部は原則非公開と案内している。茶室は敷地の中央、主屋の背後の庭の中にある。茶室が本来置かれるべき場所に置かれているがゆえに、通りすがりの訪問者の目には触れない。
それでも壬生川まで行く価値はある。本河原通に面した江戸末期の店舗及び居宅の正面は今も見られるし、その奥行きの深さを目で測れば、庭と茶室と隠居所がどこに並んでいるかの見当はつく。JR予讃線壬生川駅から北へ徒歩約10分、国道196号沿い。
実際に入れる茶の建築を求めるなら、県内の庭園や寺院に公開されている茶室がある。松山までは特急でおよそ1時間。越智家の周辺では、南西へ約1.1キロメートルの西条市立東予郷土館(入館無料、月曜休館)が、こうした茶室を注文できる商家を生んだ土地の歴史を扱っている。
Q&A
- 越智家住宅茶室はどのような建物ですか。
- 愛媛県西条市壬生川の越智家敷地中央に建つ、昭和2年(1927年)建築の茶室です。「樟蔭」の名を持ち、木造平屋建、瓦葺、建築面積15平方メートル。平成14年(2002年)に登録有形文化財となりました。
- 越智家住宅茶室は見学できますか。
- できません。個人所有で内部は原則非公開です。茶室は敷地中央の庭の中にあるため、公道からは見えません。
- 越智家住宅茶室の間取りはどうなっていますか。
- 文化庁の記録では「三畳台目向う切り」です。三畳に台目畳を加えた小間で、炉を向こう側の隅に切ります。躙口を備えた本格的な構成です。
- 越智家住宅茶室は誰が建てたのですか。
- 地域研究機関の記事は設計施工を今治の吉田工務店としています。ただし文化庁の国指定文化財等データベースに施工者の記載はなく、この点は二次資料に基づく情報です。
- 越智家住宅茶室はなぜ評価されているのですか。
- 登録基準は「造形の規範となっているもの」です。文化庁の解説は、床柱を中柱に見立てた造り、変化のある棚の造作、精妙に配された開口部の格子を挙げ、意匠だけの模倣ではない本格的な茶室として評価しています。
基本情報
| 名称 | 越智家住宅茶室(おちけじゅうたくちゃしつ)/通称「樟蔭」 |
|---|---|
| 所在地 | 愛媛県西条市壬生川32-1 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 38-0022 |
| 指定年 | 平成14年(2002年)2月14日登録/同年3月12日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、瓦葺、建築面積15平方メートル |
| 所有者 | 個人(国のデータベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 非公開。個人宅の庭園内に所在 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「越智家住宅茶室」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002695
- 愛媛県「えひめの文化財(たから)」越智家住宅店舗及び居宅ほか2件
- https://www.pref.ehime.jp/ehimenotakara/605.html
- いよぎん地域経済研究センター「愛媛の登録有形文化財 越智家住宅(西条市)」
- https://www.iyoirc.jp/post_industrial/20110701-2/
- いよ観ネット(愛媛県公式観光サイト)「【西条市】越智家住宅」
- https://www.iyokannet.jp/spot/4214
- 四国ツーリズム創造機構「越智家住宅」
- https://shikoku-tourism.com/spot/11845
最終更新日: 2026.07.31