五稜郭跡 ― 北海道唯一の特別史跡、星形要塞が語る幕末日本の物語

北海道函館市のほぼ中央。空から見下ろせば、五つの突角を持つ大きな星が大地に刻まれています。深い水堀がその輪郭を縁取り、さらに約1,500本の桜が囲む――。これが、日本でただ一つしかない景観のひとつ、特別史跡「五稜郭跡」です。江戸幕府の最末期、開国に揺れる日本が西洋の築城術を本格的に取り入れて築いた稜堡式城郭。完成からわずか数年後、ここは戊辰戦争最後の戦い「箱館戦争」の舞台となり、日本の武士の時代が静かに幕を閉じる歴史的な場所ともなりました。北海道で唯一の特別史跡として、その姿を今も静かに留めています。

五稜郭跡とは

五稜郭は、函館山の麓から内陸へ約6キロメートル、函館市のほぼ中央の平地に築かれた城郭です。「五稜」の名のとおり、稜堡(りょうほ)と呼ばれる五つの突角が外側に張り出し、全体として大きな五芒星の形をしています。この稜堡形は、16世紀のヨーロッパで発達した城塞都市の防御思想を直接受け継いだものです。互いの稜堡が隣の稜堡の側面を援護できるため、伝統的な日本の城ではどうしても生じてしまう死角を消すことができます。星形の南西側には、馬出(うまだし)の役割を持つ三角形の半月堡(はんげつほ)が一基だけ築かれています。当初の設計では三基予定されていましたが、完成したのはこの一基のみでした。

星形の内部は約12万5,500平方メートル。その中に箱館奉行所の庁舎や蔵、役宅、庭園が配されました。土塁・石垣・水堀を含む全体の敷地は、25万平方メートルを超えます。あまりに大きく、そして地上からはその「星」の形を一目で捉えることが難しいため、後年に建てられた五稜郭タワーの展望台が、この城を理解するためのもう一つの入り口となっています。

なぜ特別史跡に指定されたのか

五稜郭跡は1922年(大正11年)に国の史跡に指定され、1952年(昭和27年)には、史跡の中でも特に学術的価値が高く、わが国文化の象徴たるものとして特別史跡に格上げされました。北海道で特別史跡に指定されているのは、現在もこの五稜郭跡だけです。その理由は大きく二つあります。

幕末日本の西洋受容を物語る稀有な遺構

五稜郭の設計を手掛けたのは、箱館の諸術調所教授であった蘭学者・武田斐三郎(たけだ あやさぶろう)です。彼はヨーロッパの築城書を学び、日本でほぼ前例のない稜堡式城郭の図面を引きました。予算や工期の関係で当初設計よりは簡略化されたものの、稜堡の幾何学的配置、水堀と石垣の組み合わせ、半月堡の設置といった洋式築城の原理は的確に踏襲されています。日本国内でこの形式を採る城郭は五稜郭と長野県佐久市の龍岡城の二つしかなく、なかでも五稜郭はその規模と完成度で群を抜いています。江戸時代後期の日本がいかに西洋の学問を吸収し、現実の建造物として結実させたかを示す、第一級の物的史料です。

箱館戦争の舞台となった歴史的な土地

1864年に概ね竣工した五稜郭は、当初、蝦夷地統治と北方防備を担う箱館奉行所として機能しました。しかし完成からわずか4年後、1868年に江戸幕府は崩壊します。海軍副総裁・榎本武揚(えのもと たけあき)率いる旧幕府軍は新政府への抵抗を続け、新選組副長として知られる土方歳三(ひじかた としぞう)も北上に加わりました。彼らは五稜郭を本拠地として「蝦夷共和国」と呼ばれる事実上の独立政権を打ち立てましたが、1869年5月、新政府軍の総攻撃を受けて降伏。土方歳三は箱館市街での戦闘中に銃弾を受け命を落としました。この一連の戦闘――箱館戦争――は戊辰戦争最後の戦いであり、武士の時代の終焉を象徴する出来事となりました。五稜郭の土塁と水堀は、その重要な歴史の一部始終を黙して見届けた稀有な遺構なのです。

魅力と見どころ

五稜郭タワーから望む完璧な星形

地上からは把握しきれない星形の全貌を、唯一はっきりと見渡せるのが五稜郭タワーです。高さ約107メートルの展望台からは、五つの稜堡と半月堡、そして広い水堀の輪郭が一望できます。とりわけ4月下旬から5月上旬、約1,500本のソメイヨシノが咲き誇る時期には、ピンクの星が緑の中に浮かび上がる、北海道を代表する名景となります。

復元された箱館奉行所

郭内の中央には、2010年(平成22年)に部分復元された箱館奉行所が建っています。当時の絵図面、出土遺物、文献調査の成果を踏まえ、創建当時と同じ位置・伝統工法・同種の用材を用いて、庁舎全体の約3分の1の規模で再現されました。内部には大広間や中庭、出土品の展示室があり、五稜郭がかつて蝦夷地統治の中枢としてどのように機能していたかを体感することができます。

土塁の上を歩く・水堀を渡る

五稜郭跡は、星形の土塁の上を一周して歩くことができる稀有な城郭です。稜堡の角度に立って隣の稜堡を見渡すと、設計者が想定した射線がはっきりと目に浮かびます。さらに、春から秋にかけては水堀で手漕ぎボートに乗ることもでき、石垣を間近に見上げながら水面から城を体感するという、他の城ではなかなか味わえない体験ができます。

兵糧庫と顕彰碑

箱館戦争後に大半の建物が解体された中、白壁の「兵糧庫」だけは難を逃れ、当時から残る唯一の建造物として現存しています。例年8月の限られた期間にのみ内部が特別公開されます。郭内には設計者・武田斐三郎を讃える顕彰碑もあり、その肖像レリーフの顔の部分は、知恵にあやかろうと多くの人に撫でられて金色に輝いています。海中から引き揚げられた幕末の大砲も展示されています。

四季それぞれの五稜郭

春は桜、夏は深い緑、秋は燃えるような紅葉。そして冬には、堀の輪郭を電飾で描き出す「五稜星の夢」と呼ばれるライトアップが行われ、雪の中に浮かび上がる星形の幻想的な光景が広がります。同じ場所が季節ごとに異なる表情を見せてくれるのも、五稜郭跡の大きな魅力です。

周辺情報

五稜郭跡は函館観光の主要スポットへのアクセスにも恵まれています。坂の街として知られる元町地区には、開港期に建てられた洋館や教会が建ち並び、市電を使って約15分ほどでたどり着けます。世界有数の夜景で知られる函館山ロープウェイ、活気あふれる函館朝市、海沿いの金森赤レンガ倉庫、温泉街として人気の湯の川も、いずれも一日で巡ることが可能です。五稜郭タワーの周辺にはスープカレー店やカフェも多く、散策の合間に休憩しやすい環境が整っています。函館市北洋資料館や函館市中央図書館も近く、より深く函館の歴史に触れたい方におすすめです。

Q&A

Qなぜ五稜郭は星の形をしているのですか?
A16世紀のヨーロッパで発達した稜堡式城郭の防御原理を取り入れたためです。五つの稜堡が互いの側面を援護し合うことで、伝統的な城に生じる死角を消すことができます。蘭学者・武田斐三郎が西洋の築城書を参考に設計しました。
Qいつ訪れるのが一番おすすめですか?
A4月下旬から5月上旬の桜の季節がもっとも華やかです。10月中旬から11月初旬の紅葉の時期は比較的落ち着いて散策できます。冬季の「五稜星の夢」イルミネーションも幻想的でおすすめです。
Q入場には料金がかかりますか?
A五稜郭跡(公園部分)の入場は無料で、年間を通じて開放されています。復元された箱館奉行所の内部見学および五稜郭タワーの展望台は、それぞれ別途有料となります。
Q函館駅からのアクセスを教えてください。
AJR函館駅前から市電(湯の川行き)で「五稜郭公園前」電停下車(約16分)、そこから徒歩約15分で到着します。バスを利用する場合は五稜郭タワー前まで直行する便もあります。
Q建造当時の建物は残っていますか?
A土塁・石垣・水堀といった大規模な構造物は当時のままよく残っています。建物のほとんどは明治初期に解体されましたが、白壁の兵糧庫だけは現存しており、また箱館奉行所の一部は2010年に伝統工法で復元されています。

基本情報

名称 特別史跡 五稜郭跡(ごりょうかくあと)
指定区分 1922年(大正11年)国史跡指定/1952年(昭和27年)特別史跡指定(北海道で唯一)
設計 武田斐三郎(箱館諸術調所教授・蘭学者)
築造 1857年(安政4年)着工/1864年(元治元年)概ね竣工/1866年(慶応2年)完成
形式 洋式稜堡式城郭(五稜の星形・半月堡一基)
敷地面積 総面積 約250,835平方メートル/郭内 約125,500平方メートル
所在地 北海道函館市五稜郭町・本通1丁目
開園時間(公園) 4月~10月 5:00~19:00/11月~3月 5:00~18:00(時期により変動)
箱館奉行所開館時間 4月~10月 9:00~18:00/11月~3月 9:00~17:00(最終入館は15分前)
アクセス JR函館駅から市電「五稜郭公園前」電停下車(約16分)、徒歩約15分
管理 所有:国(文化庁所管)/管理:函館市

参考文献

五稜郭跡 ― 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/160388
特別史跡五稜郭跡 ― 函館市
https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2014011601161/
五稜郭の歴史 ― 函館・五稜郭タワー公式ウェブサイト
https://www.goryokaku-tower.co.jp/history/
特別史跡五稜郭跡 ― はこぶら(函館市公式観光情報サイト)
https://www.hakobura.jp/spots/555
特別史跡五稜郭跡 ― HOKKAIDO LOVE!(北海道公式観光サイト)
https://www.visit-hokkaido.jp/spot/detail_11218.html

最終更新日: 2026.04.27