師範学校本館の中央部だけが残された
北海道教育大学函館校北方教育資料室(旧函館師範学校)は、函館市八幡町にある大正3年(1914年)建築の木造2階建校舎で、平成12年(2000年)に国の登録有形文化財に登録された。
いま建っているのは、建物の断片である。旧函館師範学校本館は横に長い建物だった。昭和40年代、新校舎の建設にともなって本館全体が取り壊されることになり、中央部だけが切り離され、移築されて残った。目の前にあるのはその部分だ。建築面積320平方メートル、木造、瓦葺、外壁は下見板張。正面中央に3階建のランタン付塔屋が立ち上がり、その手前に切妻造の車寄が突き出す。
残されたものであることは、プロポーションを見れば分かる。あの高さの塔屋は、左右に長い対称の立面を統率するために設計されたものだ。両翼を失った今は頭でっかちに見える。身体を失った顔、と言ってもいい。正面に立つと、失われた長さのほうがかえって想像しやすい。
骨格は明治、細部は大正
国の記録はこの建物について、的確な指摘をしている。全体骨格は明治調であるが、細部には大正期の簡略化された意匠が認められる、と。どちらも歩道に立ったまま確認できる。
明治調の骨格とは、左右対称の構成、中央の塔屋、下見板張の壁、突き出した車寄という組み合わせを指す。明治10年代以降、官立の学校や庁舎で全国的に用いられた定型である。大正の簡略化のほうは、むしろ「ないもの」に現れる。繰形は明治期の同種の建物より浅く、持ち送りや飾り縁は削られ、装飾の語彙が薄い。大正3年の時点で、公共木造建築における凝った洋風意匠への熱はすでに冷めていた。予算のほうも、それにあわせて締まっていた。
登録は平成12年4月28日、告示は同年5月17日。登録番号01-0022、登録基準は「造形の規範となっているもの」。函館は登録有形文化財の洋風木造建築が全国でも密度高く残る町で、この建物は同じ日にプレイリー・ハウス(旧佐田邸)とともに登録されている。
日付について一点。現地の説明板には登録を平成12年2月18日と記したものがあり、文化庁の記録と一致しない。本稿は文化庁の日付に従った。
百年の教員養成史が収まる部屋
函館の教員養成は、この建物より古い。明治9年(1876年)2月に函館小学教科伝習所が開校し、明治13年に官立函館師範学校と改称、明治19年の北海道庁設置にともなって廃校となった。以後、四半世紀にわたって養成は途絶える。明治45年(1912年)に文部大臣が新設を認許し、大正3年4月1日、北海道函館師範学校が開校した。この校舎が竣工した年である。
その後の系譜は切れ目なく続く。昭和18年に北海道第二師範学校、昭和24年に北海道学芸大学函館分校、昭和41年に北海道教育大学函館分校、平成5年に函館校。大学は創立を大正3年とし、開校にあたって東久世伯爵から賜った「土地墾闢、人民蕃殖」の語を建学の理念に据えている。
保存を動かしたのは卒業生だった。同窓会である夕陽会を中心に旧校舎の保存運動が起こり、昭和42年(1967年)に本館中央部を残す方針が決まって現在地へ移築され、資料室として再出発した。平成20年(2008年)5月には夕陽会創立90周年記念事業として大規模改修が実施され、築90年を越えた建物の姿が整えられている。
室内には、明治9年の伝習所から師範学校期を経て現在の大学に至るまでの資料が並ぶ。学校関係文書、教育資料、教員や卒業生の作品など。収蔵品は平成12年から13年にかけて4つのテーマに分類整理され、いまも同窓会が管理にあたっている。
内部を見学したい場合は事前の申し出が必要である。見学可能な時間は平日の午前9時から午後5時まで。オープンキャンパスや卒業式などの行事の日には一般開放も行われる。函館駅前から函館バス47系統で約20分、「教育大通」下車徒歩約5分。市電を使う場合は「五稜郭公園前」下車、徒歩約15分。車ならJR函館駅から約10分、函館空港から約25分である。外観の撮影は構内のアプローチから可能だが、展示資料の撮影は事前に確認を。
Q&A
- 北海道教育大学函館校北方教育資料室の内部は見学できますか。
- 事前にお申し出いただければ見学できます。見学可能な時間は平日の午前9時から午後5時までです。オープンキャンパスや卒業式などの行事日には、申し込みなしでの一般開放も行われています。
- 北方教育資料室へは函館駅からどう行けばよいですか。
- 函館バス47系統で約20分、「教育大通」下車徒歩約5分です。82系統なら約10分、「宮前町」下車徒歩約10分。市電の場合は「五稜郭公園前」下車、徒歩約15分。車ならJR函館駅から約10分、函館空港から約25分です。
- 旧函館師範学校本館は、なぜ一部だけが保存されているのですか。
- 昭和40年代の新校舎建設にともない、本館は取り壊されることになりました。卒業生による保存運動を受けて昭和42年(1967年)に中央部を残す方針が決まり、その部分が現在地へ移築されて資料室になりました。両翼部分は残されていません。
- 北方教育資料室の塔屋はどのようなものですか。
- 正面中央に立ち上がる3階建の塔屋で、頂部にランタン(採光のための小さな望楼)が載ります。明治期の官公庁建築や学校建築で、正面の軸線を示すために用いられた形式です。塔屋の下には切妻造の車寄が突き出しています。
- 北方教育資料室にはどのような資料が展示されていますか。
- 明治9年(1876年)の函館小学教科伝習所から現在の大学に至る、函館の教員養成に関わる資料です。師範学校時代の記録、教育資料、教員や卒業生の作品などが含まれます。収蔵品は平成12〜13年に4つのテーマへ分類整理され、同窓会が管理しています。
- 函館校の近くに他の登録有形文化財はありますか。
- 函館には多数あります。プレイリー・ハウス(旧佐田邸)は平成12年の同じ日に登録されました。ほかに遺愛学院講堂、函館中華会館、高龍寺の諸堂なども国の登録有形文化財です。
基本データ
| 名称 | 北海道教育大学函館校北方教育資料室(旧函館師範学校) |
|---|---|
| 所在地 | 北海道函館市八幡町1-2 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 01-0022 |
| 指定年 | 平成12年(2000年)4月28日登録・同年5月17日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積320平方メートル |
| 所有者 | 国立大学法人北海道教育大学 |
| 公開状況 | 内部見学は事前申し出制、平日9時〜17時。オープンキャンパス・卒業式等の日は一般開放 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)/北海道教育大学函館校北方教育資料室(旧函館師範学校)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001543
- 文化遺産オンライン/北海道教育大学函館校北方教育資料室(旧函館師範学校)
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/181453
- 北海道教育大学函館校/歴史と沿革
- https://www.hokkyodai.ac.jp/hak/intro/history.html
- 北海道教育大学夕陽会(函館校同窓会)/夕陽記念館
- https://sekiyoukai.com/memorial-hall/
- 函館市/函館市の文化財一覧
- https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/docs/2016072500056/
最終更新日: 2026.08.27