城崎温泉の花の寺・本住寺

兵庫県豊岡市城崎町、日本有数の温泉地として名高い城崎温泉の山寄りに、養法山 本住寺(ようほうざん ほんじゅうじ)は静かに佇んでいます。法華宗真門流に属するこの寺院は、室町時代後期の天文7年(1538年)に日壽上人によって開かれて以来、約500年にわたり地域の信仰と文化を支えてきました。

「花の寺」(はなのてら)の愛称で親しまれる本住寺は、四季折々の花々が境内を彩り、温泉街の賑わいとは一味異なる穏やかな空間を提供しています。その本堂は、国登録有形文化財(建造物)に登録されており、大正時代の大震災からの復興と卓越した職人技を今に伝える貴重な建築遺産です。

歴史的背景

本住寺は天文7年(1538年)、日壽上人によって城崎の地に開基されました。法華宗真門流は、日蓮聖人を高祖とし、日真大和尚を派祖とする日蓮門下の一派です。総本山は京都市上京区西陣に位置する本隆寺で、「焼けずの寺」(不焼寺)として知られる名刹です。本住寺は、その法脈のもと但馬の地で法華経の教えを広めてきました。

しかし、大正14年(1925年)5月23日午前11時10分、城崎の歴史を大きく変える災害が発生します。円山川河口付近を震源とするマグニチュード6.8の北但大震災です。この地震と直後に発生した大火災により、城崎温泉は町の約9割が倒壊・焼失し、272名もの尊い命が失われました。本住寺も例外ではなく、甚大な被害を受けたと考えられます。

震災後、城崎の人々は「共存共栄」の精神のもとに一丸となって復興に取り組みました。「外湯第一主義」を掲げて共同浴場の再建を優先し、住民が土地の1割を無償提供して道路幅を2倍に拡張するなど、防災を意識した先進的なまちづくりが進められました。現在の本住寺本堂は、昭和6年(1931年)に再建されたもので、まさにこの復興期の建築です。その後、平成11年(1999年)に増築が行われ、現在の姿となっています。

国登録有形文化財としての価値

本住寺本堂は、平成29年(2017年)10月27日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました(登録番号28-674)。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。

この本堂が文化財として評価される理由は、昭和初期の宗教建築の優れた実例であるとともに、北但大震災からの復興を物語る歴史的建造物としての価値にあります。城崎温泉街の開発が進む中、震災復興期の建築が良好な状態で残されていることは貴重であり、温泉街の歴史的景観に不可欠な要素として高く評価されています。

建築の見どころ

本住寺本堂は、木造平屋建、瓦葺きで、建築面積は約159平方メートルです。城崎温泉街の山寄りに位置する境内に南面して建っています。

格天井と折上格天井

堂内は全体にわたって格天井(ごうてんじょう)が施されており、特に内陣には折上格天井(おりあげごうてんじょう)が設けられています。折上格天井は、天井の縁を曲線的に折り上げて高さを出す技法で、格式の高さと荘厳な雰囲気を演出しています。この精緻な天井装飾は、昭和初期の職人の高い技術を示すものです。

来迎柱の装飾彫刻

内陣の来迎柱(らいごうちゅう)には、獅子鼻(ししばな)と獏鼻(ばくばな)の彫刻が飾られています。獅子と獏は仏教において護法の霊獣とされ、寺院建築における伝統的な装飾モチーフです。これらの木彫は力強くも繊細な造形で、堂内の荘厳さを一層引き立てています。

播州飾磨彫の龍

本堂の最大の見どころの一つが、向拝(こうはい)の蟇股(かえるまた)に施された龍の彫刻です。この彫刻は播州飾磨彫(ばんしゅうしかまぼり)の松本一門による作品とされています。播州飾磨彫は、現在の姫路市飾磨区を中心に発展した木彫の伝統で、祭り屋台や神社仏閣の彫刻で名高い技術です。力強い龍の造形は、参拝者を迎える向拝にふさわしい迫力を持っています。

三室構成の背面

本堂の背面は三つの空間に分かれています。中央間には須弥壇(しゅみだん)が設けられ本尊が安置されています。右脇間は開祖の壇、左脇間は位牌堂として、それぞれ張り出す形で設けられています。この配置は、仏法の教えと寺院の法脈の双方を大切に守り伝えてきた本住寺の歴史を物語っています。

拝観案内

本住寺は城崎温泉街の山側に位置しており、JR城崎温泉駅から徒歩約15~20分の距離にあります。境内は静かな環境に包まれ、温泉街の散策の途中に立ち寄るのに適した場所です。「花の寺」の名にふさわしく、春から初夏にかけては特に境内の花々が美しく咲き誇ります。

なお、本住寺は現在も宗教活動が行われている寺院ですので、参拝の際は静かにお参りいただくようお願いいたします。内部の見学については事前にお寺にご確認ください。

周辺の見どころ

城崎温泉は、7つの外湯(公共浴場)を巡る「外湯めぐり」で全国的に有名です。大谿川(おおたにがわ)沿いの柳並木と太鼓橋、木造の旅館が立ち並ぶ風情ある街並みは、浴衣と下駄で散策するのにぴったりの雰囲気です。

近隣の温泉寺は、養老年間(720年頃)に城崎温泉を開いた道智上人により天平10年(738年)に開創された古刹で、但馬最古の木造建造物である室町時代初期の本堂をはじめ、複数の国指定重要文化財を有しています。城崎温泉ロープウェイで大師山の中腹まで上がると、温泉街と日本海を一望できる絶景を楽しむことができます。

城崎周辺は山陰海岸ユネスコ世界ジオパークの一部でもあり、玄武洞や竹野海岸など雄大な自然景観も見どころです。冬季には日本海で水揚げされる松葉ガニ(ズワイガニ)を目当てに多くの観光客が訪れ、また但馬牛も全国的に評価の高いブランド牛です。

Q&A

Q本住寺本堂はどのような文化財ですか?
A本住寺本堂は、平成29年(2017年)10月27日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録番号は28-674で、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準により登録されています。昭和初期の宗教建築の好例として、城崎温泉の歴史的景観に貢献している点が評価されています。
Q本住寺と北但大震災にはどのような関係がありますか?
A大正14年(1925年)の北但大震災では、城崎温泉の約9割が倒壊・焼失する壊滅的な被害を受けました。現在の本住寺本堂は、震災後の復興期にあたる昭和6年(1931年)に再建されたもので、城崎の復興を象徴する建築の一つです。
Q建築的な見どころは何ですか?
A内陣の折上格天井、来迎柱に施された獅子鼻・獏鼻の彫刻、そして向拝の蟇股に飾られた播州飾磨彫・松本一門による龍の彫刻が主な見どころです。いずれも昭和初期の優れた職人技を今に伝えています。
Q本住寺へのアクセス方法を教えてください。
AJR山陰本線の城崎温泉駅から徒歩約15〜20分です。温泉街の山寄りに位置しており、外湯めぐりの散策とあわせて訪れることができます。所在地は兵庫県豊岡市城崎町湯島字長崎493-3です。
Qなぜ「花の寺」と呼ばれているのですか?
A本住寺は境内に四季折々の美しい花々が咲くことから「花の寺」(はなのてら)の愛称で親しまれています。山裾に位置する静かな境内は花の栽培に適した環境であり、特に春から初夏にかけて色とりどりの花を楽しむことができます。

基本情報

名称 本住寺本堂(ほんじゅうじほんどう)
山号 養法山(ようほうざん)
宗派 法華宗真門流
開基 日壽上人(天文7年・1538年)
現本堂建築年 昭和6年(1931年)/平成11年(1999年)増築
構造 木造平屋建、瓦葺、建築面積159㎡
文化財区分 国登録有形文化財(建造物) 平成29年(2017年)10月27日登録
登録番号 28-674
所在地 兵庫県豊岡市城崎町湯島字長崎493-3
所有者 宗教法人本住寺
アクセス JR山陰本線 城崎温泉駅より徒歩約15〜20分

参考文献

国指定文化財等データベース – 本住寺本堂
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00011992
本住寺 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%AC%E4%BD%8F%E5%AF%BA
養法山 本住寺 – 法華宗真門流 公式サイト
http://www.hokkeshu.jp/jiin/kinki/honjuuji.html
城崎全町崩壊からの復活 – 城崎温泉観光協会
https://kinosaki-spa.gr.jp/about/history/kita-tajima-earthquake/
法華宗真門流 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E8%8F%AF%E5%AE%97%E7%9C%9F%E9%96%80%E6%B5%81

最終更新日: 2026.04.03