王橋:城崎温泉の復興を象徴する名橋

城崎温泉街の中心を流れる大谿川に堂々と架かる王橋(おうはし)は、単なる道路橋ではありません。1925年(大正14年)の北但大震災による壊滅的な被害からの復興事業の一環として1927年(昭和2年)に建設されたこの橋は、城崎温泉の不屈の精神と卓越した美意識を体現しています。御影石造の灯籠付き親柱がそびえ立ち、社寺建築の意匠を取り入れた高欄が美しいこの橋は、2015年に国登録有形文化財に登録され、柳並木が続く城崎温泉の象徴的な景観を今も支え続けています。

歴史的背景:北但大震災からの復興

1925年(大正14年)5月23日、マグニチュード6.8の大地震が北但馬地方を襲いました。地震とそれに伴う火災により、城崎温泉の町の約8割が全焼し、283名もの尊い命が失われました。千年以上にわたって栄えてきた温泉町は、存亡の危機に直面したのです。

当時の城崎町長・西村佐兵衛の指揮のもと、壮大な復興計画が始動しました。最も大きな課題の一つが大谿川の治水でした。震災前は川と道路の段差がわずか数十センチしかなく、大雨のたびに水害に見舞われていました。復興にあたり、河岸には玄武岩を積み上げて高さ70~80センチの側壁が張り巡らされ、それに合わせて橋も高く架け替える必要が生じました。これが、城崎温泉の街並みを特徴づける弓形橋群が誕生したきっかけです。

上流の弓形橋群(愛宕橋、柳湯橋、桃島橋、弁天橋)が1926年(昭和元年)に完成したのに対し、王橋は翌1927年に建設されました。一の湯の目の前という温泉街で最も交通量の多い場所に架かるこの橋は、自動車やバスの通行にも対応できるよう設計されました。1964年(昭和39年)には改修が行われ、現代の交通需要に対応しつつ歴史的な外観が保たれています。

文化財指定の理由と価値

王橋は2015年(平成27年)11月17日に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。その指定理由は複数にわたります。第一に、昭和初期の鉄筋コンクリート造橋梁の優れた事例であり、道路の角度に合わせた斜橋形式を採用している点が技術的に評価されています。第二に、高さ3メートルを超える灯籠付き親柱や、社寺建築の意匠を引用した青銅製装飾の高欄など、伝統的な日本の美意識を近代インフラに巧みに融合させたデザインが高く評価されています。第三に、北但大震災からの復興を物語る貴重な近代化遺産として、城崎温泉の景観を構成する不可欠な要素となっています。

国の登録有形文化財のほか、兵庫県景観条例に基づく景観形成重要建造物等にも指定されており、温泉街の景観保全における重要な役割が認められています。

建築的特徴と見どころ

王橋は鉄筋コンクリート造の桁橋で、橋長12メートル、幅員12メートルの規模を持ちます。中央に橋脚が立つ構造で、道路と川が直交しないため斜橋形式が採用されています。大型バスもすれ違える十分な幅を確保し、温泉街の主要交通路としての役割を果たしています。

最も目を引くのは、四隅にそびえ立つ巨大な御影石造の親柱です。高さ3メートルを超えるこれらの親柱は、頂部に灯籠を戴き、神社の参道を思わせる荘厳な雰囲気を醸し出しています。高欄には青銅製の飾り窓や装飾が施され、仏教寺院や神社建築からインスピレーションを得たデザインが橋全体に格調高い和の趣を与えています。

なお、王橋の名前にまつわる興味深い逸話があります。もともとは「玉橋」(たまはし)と書かれていましたが、昭和30年代に橋銘板から濁点が取り除かれ、「王橋」(おうはし)に改められました。「川は濁らない方がよい」という縁起を担いだ改名で、清らかさへの願いが込められています。

訪問ガイド

王橋は城崎温泉街の中心部に位置し、いつでも自由に見学・通行することができます。城崎温泉を代表する外湯「一の湯」の目の前に架かっており、温泉街を散策する際の自然な拠点となっています。橋のたもとには飲泉場が設けられており、温泉水を無料で味わうことができます。

特に夕暮れ時から夜にかけてが見ごたえがあります。一の湯と王橋がライトアップされ、柳が揺れる大谿川の水面に温かな光が映り込む光景は、城崎温泉で最も印象的な眺めの一つです。歌舞伎座を思わせる一の湯の桃山様式の門構えと、灯籠を戴く王橋の親柱が織りなす景色は、格好の写真スポットとしても人気です。

昼間には、王橋から下流に続く弓形橋群(愛宕橋、柳湯橋、桃島橋、弁天橋)の美しい連なりを眺めることもできます。これらの橋は全て同時期の復興事業で建設された鉄筋コンクリート造の橋で、ともに登録有形文化財として登録されています。

周辺の見どころ

城崎温泉はそれ自体が奥深い魅力を持つ目的地であり、王橋はまさにその中心に位置しています。城崎温泉の最大の特徴は「外湯めぐり」の文化です。7つの共同浴場にはそれぞれ異なる趣と歴史があり、浴衣と下駄で巡る温泉街散策は城崎ならではの体験です。王橋のすぐそばの一の湯は、天然の岩盤を削って造られた洞窟風呂が名物です。

城崎文芸館では、志賀直哉をはじめとする文人たちと城崎温泉との深い縁を知ることができます。志賀直哉が療養中に執筆した短編小説「城の崎にて」は、日本文学史上の名作として知られています。大谿川沿いの柳並木を浴衣姿で散策する風情は、何世代にもわたって受け継がれてきた城崎の伝統です。

温泉街の奥にはロープウェイで温泉寺へ登ることができ、城崎温泉を開いた道智上人にゆかりのある1,300年以上の歴史を持つ古刹を訪ねることができます。また、近隣の山陰海岸ジオパークでは、日本海が生み出したダイナミックな海食崖や美しい海岸線を楽しめます。冬季には松葉ガニ料理が最大の魅力となり、全国から美食家が訪れます。

Q&A

Q王橋はいつ、なぜ建設されたのですか?
A王橋は1927年(昭和2年)に、1925年の北但大震災からの復興事業の一環として建設されました。温泉街で最も交通量の多い大谿川の渡河地点に、自動車やバスにも対応できる橋として設計されました。
Q王橋の建築的な特徴は何ですか?
A高さ3メートルを超える御影石造の灯籠付き親柱と、社寺建築の意匠を取り入れた青銅製装飾の高欄が最大の特徴です。近代的なコンクリート橋でありながら、日本の伝統的な美意識を見事に融合させたデザインとなっています。
Qなぜ「玉橋」から「王橋」に名前が変わったのですか?
Aもともと「玉橋」と書かれていましたが、昭和30年代に「川は濁らない方がよい」という縁起を担いで、橋銘板から濁点が取り除かれ「王橋」に改められました。清らかさへの願いが込められた改名です。
Q王橋の見学に入場料はかかりますか?
A王橋は城崎温泉街の中心にある公道橋であり、いつでも無料で見学・通行できます。橋のたもとには無料の飲泉場もあり、温泉水を味わうこともできます。
Q王橋へのアクセス方法を教えてください。
AJR城崎温泉駅から温泉街のメインストリートを約10分歩いた場所にあります。城崎温泉のシンボルである一の湯の目の前に架かっているため、非常にわかりやすい場所です。

基本情報

名称 王橋(おうはし)
種別 国登録有形文化財(建造物)
建設年 1927年(昭和2年)、1964年(昭和39年)改修
構造 鉄筋コンクリート造桁橋(斜橋形式)、橋長12m、幅員12m
登録年月日 2015年(平成27年)11月17日
所有 兵庫県
所在地 兵庫県豊岡市城崎町湯島
アクセス JR城崎温泉駅から徒歩約10分

参考文献

王橋 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/291689
大谿川 弓形橋群・王橋 — ザ・たじま 但馬事典
https://the-tajima.com/spot/125/
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010844
城崎温泉観光協会 — 城崎全町崩壊からの復活
https://kinosaki-spa.gr.jp/about/history/kita-tajima-earthquake/
城崎温泉 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%8E%E5%B4%8E%E6%B8%A9%E6%B3%89

最終更新日: 2026.03.29