正面を1間半だけ失った店

秋葉糀味噌醸造見世蔵は、茨城県結城市大字結城字浦町174-1にある大正時代の土蔵造および木造の店舗建築で、平成17年(2005年)2月9日に登録有形文化財として国の登録を受けた。

建てられたのは大正13年(1924年)である。ただし、建った姿のままでいた時間は長くない。昭和9年(1934年)、結城駅へ通じる県道の拡張にあたって、この建物は移築も建て替えもせず、正面を1半だけ切り取って断面をふさぐという道を選んだ。現在の正面が持つ違和感は、すべてこの判断から生まれている。

切り取られる前は、大規模な見世蔵だった。見世蔵とは、倉庫に用いる厚い土壁の構法をそのまま店舗に用いた町家をいう。街路に東面し、向かって左の南半は切妻造の平入、右の北半は寄棟造の妻入という構成であった。前面を落としたことで北半の屋根は寄棟から半切妻に変わり、二つの半分が、町のどこにも似た例のない稜線で出会うことになった。

秋葉家が結城で商いを始めたのは天保3年(1832年)と伝わる。かつては醤油の醸造も手がけていた。現在は見世蔵の奥へ続く工場で味噌を醸造し、この登録建造物がその販売の場になっている。一つの敷地で生業が続いてきたことは、建物の読み方にも関わってくる。

改変された建物が登録された理由

平成17年(2005年)の登録に用いられた基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」であり、秋葉糀味噌醸造見世蔵に付された登録番号は08-0168、同じ回に結城市内からまとめて登録された一群の一つである。この建物は登録有形文化財、すなわち指定ではなく登録を受けたもので、日々の商いに使われ続けている建物を受け止められるのがこの区分である。

大きく手が入った建物は、ふつう評価では不利になる。結城市はこれを逆から論じている。内外装ともに当初の姿とはかなり異なっているものの、前面を切り取った結果として出来上がった他に例を見ない特異な外観こそ、むしろこの建造物の大きな特徴である、という読み方である。街路に面した面には見世蔵らしい意匠がほとんど残っていない。その不在自体が、昭和初期の道路計画が壁に書き込んだ記録になっている。

残ったのは骨格である。柱、梁、根太といった主要構造部材と、土蔵造の壁の一部は現存する。一方で1階店舗部分の平面はかなり改変されている。訪れる人が向き合うのは、大正13年(1924年)の骨組みが昭和9年(1934年)の顔をつけて立っている姿である。

見どころ

間口は広い。開口7間半の正面に桟瓦葺の庇が架かる。その下に下屋はない。この幅の建物としては珍しいが、前面を建て直さずに切り落とした以上、当然の帰結でもある。

北端の軒を目で追ってほしい。もとは寄棟だった半切妻の部分だけ、軒下に蛇腹が水平に廻る。正面に残る装飾らしい装飾はほぼこれ一本で、気づいた瞬間、他の面の素っ気なさが偶然ではなく選択に見えてくる。

そのうえで屋根を端から端まで読むとよい。南半は妻を手前に向けて切妻を見せ、北半は棟の向きを変えて妻側から迫ってくる。無傷の建物であれば、この二つの扱いは別々の建物に属するはずのものである。ここではそれが一軒の店の左右であり、その継ぎ目はかつて正面があった位置に重なっている。

内部は1階の南半が土間の店舗、北半が居室になる。2階は10畳の座敷を含む4室で、主屋の背後には平屋の附属屋が醸造の工場へ向かって続く。登録上の建築面積は108平方メートル。同じ通りに並ぶ小ぶりな見世蔵と比べると、秋葉糀味噌醸造見世蔵はおよそ倍の面積を占めている。

秋葉糀味噌醸造見世蔵の見学方法

秋葉糀味噌醸造見世蔵は民間の所有で、現在も商いに使われている。見学料や入場券の制度はない。外観は公道からいつでも観察でき、間口が広いぶん、向かいの歩道からでも正面全体を一度に視野に収められる。1階には営業時間中に客として入ることができるが、2階と背後の醸造施設は公開されていない。

店舗の営業時間はおおむね午前9時から午後6時まで、日曜が定休とされる。ただしこれは店側が定めるもので、文化財の情報として公表されているわけではなく、変わることもある。内部に入るつもりなら事前に確かめてから向かいたい。公道からの外観撮影に制限はない。屋内で撮る場合は一言断ること。

建物はJR水戸線の結城駅から北へ徒歩8分ほど、他の登録有形文化財が点在する旧街道沿いに建つ。駅の側から歩いて近づくほうが最初の一目は良い。この建物の正面を奪った拡張された道路が、いま7間半の間口を一度に見渡せるだけの距離をこちらに与えているからである。

Q&A

Q秋葉糀味噌醸造見世蔵の内部に入ることはできますか。
A1階には営業時間中に客として入ることができます。2階と背後の醸造施設は公開されておらず、建物を対象とした見学ツアーもありません。
Q秋葉糀味噌醸造見世蔵の営業時間は。見学に料金はかかりますか。
A建物を眺めることに料金はかかりません。店舗の営業はおおむね午前9時から午後6時まで、日曜定休とされていますが、店側が定めるものですので事前にご確認ください。
Q秋葉糀味噌醸造見世蔵が他の見世蔵と外観が違うのはなぜですか。
A昭和9年(1934年)の県道拡張で、大正13年(1924年)建設の建物の正面を1間半切り取ったためです。北半の屋根が半切妻になっていることも、街路側に見世蔵らしい意匠がほとんど残っていないことも、この改変に由来します。
Q秋葉糀味噌醸造見世蔵はいつ建てられたのですか。
A大正13年(1924年)の建設で、昭和9年(1934年)に大きく改造されています。秋葉家が結城で商いを始めたのは天保3年(1832年)と伝わり、現在の建物より前からこの地にありました。
Q結城駅から秋葉糀味噌醸造見世蔵へはどう行けばよいですか。
AJR水戸線の結城駅から北へ徒歩8分ほど、旧街道沿いです。大字結城字浦町174-1にあり、間口の広い正面が目印になります。

基本データ

名称秋葉糀味噌醸造見世蔵(あきばこうじみそじょうぞうみせぐら)
所在地茨城県結城市大字結城字浦町174-1
指定区分登録有形文化財(登録番号08-0168)
指定年平成17年(2005年)2月9日登録
員数1棟
寸法建築面積108平方メートル、間口7間半、2階建の一部平屋、土蔵造および木造、瓦葺
所有者民間所有。詳細は公表されていない
公開状況外観は公道から自由に見学可。1階は営業時間中に入店可、2階と背後の醸造施設は非公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「秋葉糀味噌醸造見世蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004508
結城市 登録有形文化財「秋葉糀味噌醸造」
https://www.city.yuki.lg.jp/kosodate-kyouiku/shougaigakushuu/bunkazai/bunkazai/tourokuyuukei/page003231.html
結城市 登録有形文化財一覧
https://www.city.yuki.lg.jp/page/dir002754.html

最終更新日: 2026.09.06