明治32年の門が街路をつくる
市塚章一家住宅長屋門は、茨城県桜川市真壁町飯塚にある明治32年(1899年)建築の長屋門で、平成15年(2003年)7月1日に国の登録有形文化財に登録された。
長屋門は、門というより細長い建物である。中央を通り抜けられるようにし、その左右を蔵や納屋、あるいは使用人の部屋にあてる。市塚章一家住宅長屋門は間口16.5メートル、建築面積75平方メートル。屋根は寄棟造で桟瓦葺、軒は桁を前に出す出桁造とし、垂木は間隔をあけて配る疎垂木とする。
手の込みようが分かるのは中央の門口である。欅材を使っている。堅く木目の詰んだ材で、仕上がりが美しく出るため、見せる場所に選ばれる木だ。門口の左右は漆喰の白壁に腰海鼠壁、それ以外の面は柱を見せる真壁造とする。
登録された理由
市塚章一家住宅長屋門の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。建物単体ではなく通りに対する評価で、文化庁の解説も、この門が敷地北側の街路景観の核になっていると記す。同じ解説は、海鼠壁をもつ長屋門は真壁で唯一だとも述べている。
背景には真壁という町の性格がある。中世の真壁城に付属する集落から始まり、江戸時代には笠間藩の陣屋が置かれ、木綿の集散地として、のちには米穀と酒造の町として栄えた。天保8年(1837年)の大火を境に、屋根は茅葺から瓦葺へ、商家の建物は蔵造へと移っていく。明治には建設が最も盛んになった。桜川市は町とその周辺に約100棟の登録文化財があるとし、その多くは平成11年(1999年)に市が制度活用に踏み切った成果である。平成22年(2010年)には中心部の約17.6ヘクタールが重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
登録有形文化財は指定より緩やかな制度で、外観を変えるときに届け出を求める代わりに、こうした建物を国の記録に載せる。今も暮らしが続く家の門にとっては、無理のない仕組みといえる。
通りから何を見るか
市塚章一家住宅長屋門で足を止める価値があるのは海鼠壁である。平瓦を壁面に留め、瓦と瓦の目地を白い漆喰で盛り上げる。斜め格子が浮かび上がり、低い日差しを受けると目地そのものが影を落とす。盛り上がった目地の断面を海鼠に見立てたのが名の由来だ。もとは海沿いの町や城郭で、壁の腰を雨の跳ね返りから守るために使われた技法で、内陸の農家の門に現れるのは珍しい。
次に少し離れて、16.5メートルを一度に眺めたい。建物は長く、意図して低い。軒の線は端から端までほとんど途切れない。疎垂木は軒下に影の隙間をつくる。門口脇の白い漆喰は、板の暗さに対して明るい矩形として見える。この門が通りの視線を引き受けているのは、そうした対比の積み重ねによる。
真壁では建物の状態も話の一部になる。平成23年(2011年)の東日本大震災で、保存地区は全国の同種の地区の中で最も大きな被害を受けた。市の説明では、伝統的建造物の9割以上が損傷している。以後の修理は長く続き、災害復旧と通常の修理を同時に進める形がとられてきた。
市塚章一家住宅長屋門の見学とアクセス
市塚章一家住宅長屋門は人が住んでいる個人の住宅の門である。見学は前面の街路からに限られ、拝観料も公開時間もなく、内部を見ることはできない。門をくぐったり敷地に入ったりしないこと、カメラは建物に向け、住む人に向けないことをお願いしたい。公道からの撮影は制限されていない。
真壁へは少し計画がいる。かつて町を通っていた鉄道は昭和62年(1987年)に廃止された。最寄り駅はJR水戸線の岩瀬駅で、タクシーで約15分。岩瀬駅前にはレンタサイクルがあり、真壁までは約10キロメートル、自転車で約60分である。桜川市バス「ヤマザクラGO」が岩瀬駅と真壁を結び、筑波山口まで走る。車なら北関東自動車道の桜川筑西インターチェンジから約20分。
時期についてひとつ。2月上旬から約1か月、町なかで雛人形が飾られる。2026年は2月4日から3月3日までだった。混み合う週末には中心部で交通規制がかかるため、この時期の飯塚周辺は歩きやすく、車では動きにくい。
Q&A
- 市塚章一家住宅長屋門の中に入れますか?
- 入れません。現に暮らしが営まれている個人の住宅の門で、見学できるのは敷地北側の街路から見る外観だけです。
- 市塚章一家住宅長屋門に拝観料や見学時間はありますか?
- どちらもありません。公道から眺める形なので料金も時間の制限もありませんが、海鼠壁の陰影を見るなら明るい時間帯が向きます。
- 市塚章一家住宅長屋門はいつ建てられ、いつ登録されましたか?
- 明治32年(1899年)の建築です。国の登録有形文化財に登録されたのは平成15年(2003年)7月1日です。
- 市塚章一家住宅長屋門は真壁のほかの門とどこが違いますか?
- 腰海鼠壁です。文化庁の解説は、海鼠壁をもつ長屋門は真壁でこの1棟だけだと記しています。
- 市塚章一家住宅長屋門へは公共交通機関でどう行きますか?
- JR水戸線の岩瀬駅からタクシーで約15分、または桜川市バス「ヤマザクラGO」で真壁方面へ。岩瀬駅のレンタサイクルなら約10キロメートル、約60分です。
基本データ
| 名称 | 市塚章一家住宅長屋門(いちつかしょういちけじゅうたくながやもん) |
|---|---|
| 所在地 | 茨城県桜川市真壁町飯塚 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 2003年登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 間口16.5メートル、建築面積75平方メートル |
| 所有者 | 個人 |
| 公開状況 | 外観のみ。前面の街路から見学。内部は非公開 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)市塚章一家住宅長屋門
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003376
- 文化遺産オンライン 市塚章一家住宅長屋門
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/179596
- 桜川市 桜川市真壁伝統的建造物群保存地区
- https://www.city.sakuragawa.lg.jp/education/bunkazai/city_bunkazai/kuni_bunkazai/page003423.html
- 茨城県教育委員会 桜川市真壁伝統的建造物群保存地区
- https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-8557/
最終更新日: 2026.09.05