辻の丘に南面して建つ大規模農家
坂入家住宅主屋は、茨城県石岡市辻字山下179にある明治前期の木造平屋建の茅葺民家で、平成22年(2010年)に登録有形文化財となった。
石岡市の解説によれば、位置は市の南西部にあたる辻集落である。背後に山林を負う小高い丘の南斜面に建ち、北と西は竹林に囲われる。敷地の中央に主屋が座り、南東の隅に蔵、西側にマデヤ、北西に木小屋が置かれ、東側には池のある庭園が開く。
建てられたのは明治前期で、明治24年(1891年)に改修の手が入っている。江戸期の制約が解けたあと、この地方の有力な農家が自分の家をどこまで大きく構えたか。坂入家住宅主屋はその答えのひとつで、町家でも屋敷でもなく、あくまで働く農家の形を保ったまま規模だけを押し広げている。
登録の理由
登録年月日は平成22年(2010年)4月28日、告示は同年5月20日。登録番号は08-0240で、第67回の登録にあたる。挙げられている登録基準は、国土の歴史的景観に寄与しているものという第一号で、登録有形文化財の大半がこれに拠っている。
文化庁の解説文は登録の理由を二点に絞る。当地方の大規模農家の姿を伝えていること、そして茅葺屋根、とりわけトオシモノと呼ばれる軒付が見るに足るものであること。坂入家住宅主屋は類型の標本として、同時に手仕事として評価されている。
十年後、石岡市が別の枠でも保護をかけた。令和2年(2020年)3月26日、景観法にもとづく市の景観重要建造物の第3号となっている。市の評価文は、三方を緑に囲まれた敷地と、書院造の座敷に面する池の庭を挙げ、この地域の民家の完成形と位置づけている。
見どころ
まず屋根である。寄棟造の茅葺で、桁行21メートル、梁間9.6メートル、建築面積は222平方メートル。石岡市の資料は同じ建物を間口11間半、奥行5間と尺貫法で記す。棟の中央には小さな越屋根が乗り、そこだけ桟瓦葺になっている。竈で煮炊きをしていた時代に煙を抜いた開口である。
次に目線を下げて軒を見る。トオシモノは、藁を下地に新しい茅と古い茅を交互に葺き重ね、一層ごとに刈り込んで軒付を厚く作る技法だ。仕上がりは明暗の縞となって軒先に帯を描く。手間のかかる仕事で、そのことが見た目に出る。
内部は東西で性格が分かれる。西側三分の一ほどが土間で、農作業がそのまま家の中へ入ってくる場所だった。東側は床を上げ、六間取に区切られ、外周を縁側がまわる。改まった座敷は東を向き、池の庭に面する。同時期の四間取の農家を見慣れた目には、この平面がどれだけ横へ伸びているかがすぐ分かる。
見学方法
坂入家住宅主屋は現役の個人住宅であり、公開されていない。拝観の受付も見学時間も設定されておらず、内部に入ることはできない。敷地は三方を竹林と山林に閉ざされているため、公道からの外観の眺めも部分的なものにとどまる。辻を訪れる場合、前の道は見物のための場所ではなく人が暮らす集落の道であることを念頭に、敷地には立ち入らないでほしい。
撮影も同じ線引きになる。公道から坂入家住宅主屋の屋根の輪郭を撮ることは差し支えないが、庭や付属屋、住まう人にレンズを向けるのは避けたい。誰かの敷地に入らずに済む撮影位置は限られている。
最寄り駅はJR常磐線の石岡駅で、辻は駅の西およそ10キロに位置する。車で20分ほどの道のりになる。旧八郷地域のこのあたりは路線バスの便が薄く、集落を通る便もないため、実際にはレンタカーか駅からのタクシーということになる。筑波山の北の尾根が落ちた先に広がる農地のなかを、道は緩やかに登っていく。
この地域の茅葺建築そのものを目当てにするなら、石岡市の景観重要建造物は現在14件を数え、その多くが同じ山あいに散る茅葺の主屋や長屋門である。坂入家住宅主屋より道に近い位置に建つものもあり、市が写真と所在地を公表している。
Q&A
- 坂入家住宅主屋は見学できますか。内部公開はありますか。
- 個人のお住まいのため公開されておらず、内部の見学はできません。拝観料や見学時間の設定もありません。敷地は竹林と山林に囲まれ、公道から見える範囲も限られます。
- 坂入家住宅主屋はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
- 文化庁は建立年代を明治前期とし、明治24年(1891年)の改修を記録しています。登録有形文化財となったのは平成22年(2010年)4月28日、登録番号は08-0240です。
- 坂入家住宅主屋のトオシモノとは何ですか。
- 茅葺屋根の軒先を厚く作る技法で、藁の上に新しい茅と古い茅を交互に葺き重ね、一層ずつ刈り込んでいきます。仕上がった軒付には明暗の縞模様が現れます。
- 坂入家住宅主屋はどのくらいの大きさですか。
- 桁行21メートル、梁間9.6メートル、建築面積222平方メートルで、全体に一つの寄棟の茅葺屋根がかかります。建物は平屋建です。
- 坂入家住宅主屋のある辻へはどう行きますか。
- JR常磐線石岡駅から西へおよそ10キロ、車で20分ほどです。集落を通る路線バスがないため、レンタカーか石岡駅からのタクシーが現実的な手段になります。
基本データ
| 名称 | 坂入家住宅主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 茨城県石岡市辻字山下179 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成22年(2010年)登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 桁行21メートル、梁間9.6メートル、建築面積222平方メートル、平屋建、茅葺 |
| 所有者 | 個人(氏名非公表) |
| 公開状況 | 非公開。個人住宅のため内部・敷地とも見学不可 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 坂入家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008095
- 文化遺産オンライン 坂入家住宅主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/211413
- 石岡市の歴史と記憶 坂入家住宅
- https://www.city.ishioka.lg.jp/rekishitokioku/hitonoikizukai/page001376.html
- 石岡市 景観重要建造物を指定しました
- https://www.city.ishioka.lg.jp/shigoto_sangyo_machi/keikan/page006091.html
最終更新日: 2026.09.08