使い終えた水を里川へ返す34メートル

徳田発電所放水路は、茨城県常陸太田市徳田町にある大正15年(1926年)建設の水路で、平成16年(2004年)11月8日に登録有形文化財となった。コンクリート造、延長34メートル。発電所本館の下方、南西面から出た水を里川の左岸へ導く開渠である。

断面は台形に近い。敷幅は2.4メートルで、側壁は法勾配3分をつけた谷積の石積とする。上端では幅4.8メートル、深さは3.5メートルに達する。里川に面する側には33メートルの石積護岸が続き、水路と護岸が別々ではなく一体のものとして築かれている。水路の上には鉄筋コンクリート造の橋が架かる。

34メートルという長さは、上流の余水路が254メートルあることを思えば短い。徳田発電所放水路に与えられた役割は距離を稼ぐことではなく、水車を出た水を、川岸を削らずに元の流れへ戻すことにある。106.15メートルを落ちてきた水は勢いを保ったまま建屋を抜けてくるので、受け止める側の石積には相応の精度が要る。

登録の理由と、徳田発電所放水路が持つ価値

徳田発電所放水路は、本館・余水路・取水所とともに平成16年(2004年)11月8日に登録され、同月29日に告示された。登録番号は第08-0148号。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、制度としては登録有形文化財にあたる。

文化庁の解説は、水路に架かる鉄筋コンクリート造橋を含めて「優れた石積技術を確認できる」と評価している。評価の対象が構造物の規模ではなく施工の質に置かれている点が、この物件の性格をよく示している。

谷積は、石を斜めに向かい合わせて積み、荷重を斜め下へ流す積み方である。目地が菱形に並ぶので遠目にも見分けがつく。徳田発電所放水路の側壁はこの谷積を法勾配3分で立ち上げており、同じ手法が里川水系の他の放水路にも共通して使われている。中里発電所の放水路は延長11メートル、賀美発電所は64メートル、小里川発電所は142メートルで、長さは大きく違うのに側壁の積み方はどれも法勾配3分の谷積である。工事を担った石工の技術が水系全体で共有されていたことがうかがえる。

里川水系の発電施設は、平成29年度(2017年)に「里川水系水力発電所群」として土木学会選奨土木遺産に選ばれている。

徳田発電所放水路の見どころ

石積を近くで見たい。谷積の目地は斜格子を描き、川に面した護岸へそのまま続いていく。水路の石と護岸の石が同じ寸法、同じ勾配で積まれているため、どこまでが水路でどこからが護岸なのかは境目がはっきりしない。設計と施工が分かれていない時代の仕事である。

水路に架かる鉄筋コンクリート造の橋も見ておきたい。大正末に鉄筋コンクリートを小さな管理用の橋に使うのは、当時としては新しい選択だった。石積の水路の上に近代的な材料の橋が載るという組み合わせが、この時期の土木構造物によく表れている。

出口では、放水が里川の流れに合流する。水量は毎秒0.78立方メートル。上流側には余水路の出口があり、発電に使われなかった水はそちらから川へ戻る。徳田発電所放水路と余水路は、同じ川へ違う経路で水を返す二本の水路として並んでいる。

晴れた日の午後は、水面の反射が石積の目地を照らし、菱形の陰影が浮かび上がる。堰堤も建屋も見た後で、最後にここへ立ち寄ると、水がひとまわりして戻ってくる経路の全体が像を結ぶ。

徳田発電所放水路の見学方法とアクセス

徳田発電所放水路は東京発電株式会社が所有する現役の発電施設の一部であり、一般向けの公開や見学会は案内されていない(2026年9月時点)。水路の内部や敷地内へは立ち入れないため、見学は公道および川沿いからの外観に限られる。撮影は公道上からであれば差し支えない。水路の縁は滑りやすく、増水時は危険なので近づかないこと。

公共交通の場合、JR水郡線の常陸太田駅から茨城交通「小中・里川線」に乗り、「徳田発電所」バス停で降りる。所要はおよそ80分。停車する便は平日で1日3本程度、土日祝は運行がない。時刻は常陸太田市の「里美地区公共交通マップ」で確認したい。

車では常陸太田市街から国道349号を北へ進み、里川沿いの県道に入る。市街地から約1時間。見学者用の駐車場はない。道幅が狭く見通しも良くないため、車を降りて歩く際は対向車に注意したい。冬季は路面が凍る。

Q&A

Q徳田発電所放水路は見学できますか。
A現役の発電施設の一部のため一般公開はされていません。敷地内へは立ち入れず、見学は公道や川沿いからの外観に限られます(2026年9月時点)。
Q徳田発電所放水路はどのような構造ですか。
Aコンクリート造の開渠で、延長34メートル、敷幅2.4メートル。側壁は法勾配3分の谷積、里川に面して33メートルの石積護岸を一体的に築き、水路の上に鉄筋コンクリート造の橋が架かります。
Q徳田発電所放水路と余水路はどう違うのですか。
A放水路は水車を通った水を里川へ返す水路で、延長34メートル。余水路は水槽で余った水を川へ逃がす水路で、延長254メートルあります。合流点は余水路のほうが上流側です。
Q徳田発電所放水路の谷積とは何ですか。
A石を斜めに向かい合わせて積み、荷重を斜め下へ逃がす石積の技法です。目地が菱形に並ぶのが特徴で、里川水系の各発電所の放水路に共通して用いられています。
Q徳田発電所放水路へのアクセス方法を教えてください。
AJR水郡線の常陸太田駅から茨城交通「小中・里川線」で「徳田発電所」バス停まで約80分です。バスは平日1日3本程度、土日祝は運休。車では常陸太田市街から国道349号経由で約1時間かかります。

基本情報

名称徳田発電所放水路
所在地茨城県常陸太田市徳田町
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 第08-0148号
指定年平成16年(2004年)11月8日登録
員数1所
寸法コンクリート造、延長34メートル、鉄筋コンクリート造橋及び石積護岸33メートル付
所有者東京発電株式会社
公開状況非公開(現役の発電施設。敷地内は立入不可、外観は公道から見学可)

参考文献

国指定文化財等データベース 徳田発電所放水路(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004318
いばらきの文化財 徳田発電所放水路(茨城県教育委員会)
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-6352/
指定・登録文化財一覧(常陸太田市)
https://www.city.hitachiota.ibaraki.jp/kyoiku-bunka-sports/kyoiku-iinkai/bunka-geijutsu/bunkazai/page003374.html
有形文化財(東京発電株式会社)
https://tokyohatsuden.co.jp/csr/cultural_property/
選奨土木遺産 里川水系水力発電所群(土木学会関東支部)
https://www.jsce.or.jp/branch/kanto/04_isan/h29/h29_4.html
里美地区公共交通マップ(常陸太田市)
https://www.city.hitachiota.ibaraki.jp/data/doc/1784094668_doc_40_0.pdf

最終更新日: 2026.09.07