屋敷でもっとも素朴な建物

苗羽(のうま)の石井家で、土蔵の下手から南へ下る細い道に沿って、小さな納屋が東の妻面を道へ向けて建つ。登録された石井家七棟のうちでもっとも質素な一棟で、瓦葺の屋根の下はおよそ二十平方メートル、外壁は素のままの土壁である。昭和16年(1941年)の建築で、醸造の作業場のための納屋であった。その価値は装飾にあるのではなく、ひとつの完結した醤油屋敷のなかで果たす役割にある。

小さな働きの小屋

納屋は石の基礎の上に建つ。東西に棟を通し、切妻造、桟瓦葺の屋根をかけ、妻面から入る妻入の形をとる。寸法はどれも小さく、棟の方向に二間半、奥行きは二間ほどである。仕上げに飾りはなく、外壁はただ土を塗ったまま、表面は素朴で飾り気がない。

その素朴さは、用途に正直である。醸造の作業場の納屋は、道具や材料、日々の生産にともなう雑多なものを納める場所であり、見られるためではなく役に立つために建てられた。道に面して妻を向けるその位置は、納屋を上手に並ぶ住まいの建物ではなく、屋敷南側の働きの建物のなかに置いている。

登録の理由と、見るべきところ

納屋は平成17年(2005年)2月9日に国の登録有形文化財となった。登録番号は37-0246、同日登録の石井家七棟のうちの一棟で、基準は歴史的景観への寄与である。他の建物と同じく、登録による緩やかな保護のもとで私有のまま残る。

その価値は、まさしく全体の絵を完成させる点にある。石井家の敷地の南側は醤油醸造の作業場であり、納屋はその働きの一角をなす。立派な主屋や端正な蔵は財を示しうるが、醸造の屋敷が実際にどう動いていたかを示すには、素朴な小屋や付属の建物が要る。控えめな建物が立派な建物とともに残るとき、その場所はかつての働きの場として読み解ける。そうした完結性は、保護に値するほどに稀なのである。

訪れる人にとって、納屋は華やかな建物から目を転じるための手がかりである。土蔵の下手の道にこれを見つけ、素のままの土壁と簡素な切妻の形に目をとめ、心のなかで南の醸造の作業場のなかに置いてみたい。そう見れば、七棟のうちでもっとも控えめなこの一棟が確かな働きをしていることが分かる。生産の区画の一辺を支え、屋敷を全体としてひとつに読ませているのである。

納屋は私邸の一部で公開されていない。道から眺めるにとどめたい。小豆島の醤油屋敷の働きの空間を屋内から知りたければ、近くのマルキン醤油記念館が公開されており、醤の郷(ひしおのさと)の散策路が苗羽の醸造の作業場や裏道のあいだを抜けている。

Q&A

Qなぜこんなに素朴な小さい建物を登録するのですか。
A働きの屋敷を完結させるからです。立派な建物は財を示しますが、素朴な納屋は醸造の作業場がどう動いたかを示します。控えめな建物が立派な建物とともに残ることで、場所全体を本来の働きの場として読み解けます。
Q納屋は何に使われたのですか。
A醸造の作業場のための納屋で、道具や材料、日々の生産にともなう雑多なものを納めました。上手の住まいではなく、屋敷南側の働きの建物のなかに置かれています。
Qどのくらいの大きさですか。
A小さく、およそ二十平方メートル、棟の方向に二間半、奥行き二間ほどです。登録された石井家七棟のうちでもっとも小さく素朴な一棟です。
Qいつ建てられたのですか。
A昭和16年(1941年)で、屋敷では新しい時期の一棟です。もっとも古い醤油蔵は明治18年(1885年)ごろの建築です。
Q近くで見られますか。
A土蔵の下手の道から眺められ、そこでは東の妻面が道に向いています。私邸の一部で内部は公開されていません。

基本情報

名称キッコ石石井家住宅納屋
所在地香川県小豆郡小豆島町苗羽字坂ノ山甲255
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号37-0246
登録年月日平成17年(2005年)2月9日(告示2月28日)
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
建築年昭和16年(1941年)
員数1棟
構造木造平屋建、瓦葺、建築面積約20平方メートル
公開状況私邸・内部非公開。外観見学のみ

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース キッコ石石井家住宅納屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00004654
文化遺産オンライン キッコ石石井家住宅納屋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/117534
醤の郷(ひしおのさと)を歩く 小豆島(うどん県旅ネット)
https://www.my-kagawa.jp/shodoshima/feature/shodoshima/beauty3
小豆島町 讃岐の醤油醸造技術について
https://www.town.shodoshima.lg.jp/gyousei/kakuka/shogaigakushuka/2/5909.html

最終更新日: 2026.06.25