参道に立つ煉瓦煙突

山田家の主屋の北東に、高さ十八メートルほどの角形の煉瓦煙突が立つ。南面には「源氏正宗醸造元」の文字が煉瓦に直に書き記されている。ここが酒を醸す蔵であり、その煙突が釜場を支えていたことを、これ以上ないほど端的に示す一行である。

現在この煙突は、かつて連なっていた建物から離れて独立して建つ。中程までをモルタルで塗り仕上げ、その上は煉瓦の地肌をあらわす。積み方はイギリス積で、小口の段と長手の段を交互に重ねることで、面に規則正しい市松状の肌理が生まれる。産業の構築物であると同時に、八栗寺への道から瓦屋根越しに望める目印でもある。

建造は大正後期、およそ大正元年から十四年(一九一二~二五)、山田家の酒造業が盛んだった時期にあたる。この種の煉瓦煙突は明治・大正の造り酒屋や工場に広く見られたが、完全な姿で残る例は多くない。それが登録に値する理由の一つでもある。

頂部の細部

煙突は見上げるほどに味わいがある。上部では煉瓦を薄く刎ね出して細い帯状のバンドをつくり、頂部には歯飾状のコーニス、すなわち小さな歯型の突起を並べた蛇腹を回している。実用一点張りの筒に添えられた控えめな装飾で、煙突もまた通りの景観の一部だと意識されていた時代の仕上げである。

イギリス積を選んだ点にも意味がある。背の高い自立した構造物に適した堅牢な積み方で、その一定した繰り返しが、単に機能的なだけでない、眺めて心地よい肌をつくる。モルタルの仕上げが途中で切れるあたりでは、下の滑らかな面と上の露出した煉瓦とを、ひと目で見比べることができる。

登録の理由

煙突は平成十三年(二〇〇一)十月十二日、主屋や屋敷内の他の建物と同じ回の登録で、登録有形文化財となった。適用基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、この煙突はそれをそのまま体現している。屋敷の上に抜きん出て立ち、近づく人に酒造の来歴を告げ、主屋・酒蔵・門がつくる景観の一群をまとめる要となっている。

現在この屋敷でうどんを食べに訪れる人にとって、煙突は登録八件のなかで最も見つけやすい。入口から北東の方向を探し、南面に今も読める醸造元の名を確かめてみたい。

Q&A

Q煙突の高さはどれくらいですか。
Aおよそ十八メートルです。角形の煉瓦造で、現在はかつて連なっていた建物から離れ、独立して建っています。
Qイギリス積とは何ですか。
A小口を並べた段と長手を並べた段を交互に積む方法です。堅牢で規則正しい市松模様が生まれ、背の高い煙突に適しています。
Q煙突に書かれた文字は何ですか。
A南面に酒の銘「源氏正宗」の醸造元名が煉瓦へ直接記され、この地がかつて酒蔵であったことを示しています。
Q近くで見られますか。
A煙突は現在「山田家」うどん店が使う屋敷地内に立ち、敷地から望めます。営業中の店舗ですので配慮のうえご覧ください。
Qいつ建てられましたか。
A大正後期、およそ一九一二年から二五年、山田家の酒造がさかんだった頃に築かれました。

基本情報

名称山田家(旧清酒源氏正宗醸造元)煙突
所在地香川県高松市牟礼町牟礼3186
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日2001年(平成13)10月12日/登録番号 37-0080
時代大正後期(1912〜1925年頃)
構造煉瓦造、高さ約18m、1基
現況「うどん本陣 山田家」屋敷地内に所在

References

文化庁 国指定文化財等データベース — 山田家(旧清酒源氏正宗醸造元)煙突
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002464
文化遺産オンライン — 山田家(旧清酒源氏正宗醸造元)煙突
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/115344
うどん本陣 山田家 — 公式サイト
https://www.yamada-ya.com/
うどん県旅ネット(香川県観光協会)— うどん本陣 山田家
https://www.my-kagawa.jp/udon/521/

最終更新日: 2026.07.05