うどん店として生きる旧家の主屋
四国霊場第八十五番札所・八栗寺の参道を七十メートルほど入ると、塀に囲まれた屋敷地のほぼ中央に大きな瓦屋根が現れる。山田家の主屋である。門前には行列ができていることが多いが、その多くは登録有形文化財を見に来た人ではなく、讃岐うどんを目当てに訪れた客だ。この建物は、住まいの記憶と現役の飲食店という二つの役割を同時に担っている。
山田家は讃岐に根を張った家柄で、江戸時代には周辺の村々を束ねる大庄屋を務めた。明治に入ると酒造業へ転じ、「源氏正宗」の銘で酒を醸した。いま訪ねる主屋は、その酒屋の居宅部として大正後期、およそ大正元年から十四年(一九一二~二五)の間に建てられたものである。
桁行十四間におよぶ大規模な木造で、入母屋造・本瓦葺の屋根を架ける。上層は背の低いつし二階とし、漆喰で塗り込めた格子状の虫籠窓を並べる。西日本の商家や豪農の家に見られる形式で、家の格をそのまま外観に映している。
登録が語るもの
主屋は平成十三年(二〇〇一)十月十二日、第三十回の登録で国の登録有形文化財となった。同じ屋敷内のいくつかの建造物と一括での登録で、適用された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
この基準はこの場所によく当てはまる。ここでの価値は突出した一点の意匠にあるのではなく、居宅・酒蔵・煉瓦煙突・長屋門、そして庭まわりの小さな構築物までが、建てられた当初の位置関係を保ったまま一群として残っている点にある。主屋はその要に立つ。規模と屋敷地中央という位置が、これを建てた家の格を一目で伝える。
登録上の種別は酒造業に由来する産業関連の建物とされるが、その建築そのものは讃岐の大規模な民家の系譜に属する。主屋を読むときは、この二つの筋道を同時にたどることになる。
訪ねて眺める
主屋は現在「うどん本陣 山田家」として営業しているため、内部は柵で仕切られておらず、実際に上がって過ごすことができる。かつて客を迎えた座敷に腰を下ろし、うどんを待つ。食事室は背後の旧酒蔵にまで続いており、一度の食事で登録建造物のいくつかを通り抜けることになる。
目を留めたい点が二つある。まず暖簾と店の意匠は、山田家の縁者で香川ゆかりの画家・和田邦坊(一八九九~一九九二)の手になる。その図案が古い家に近代の署名を添えている。次に、座敷からは周囲の建物に囲まれた庭を望むことができる。膳と膳の合間、少し手を止めて眺めたい景色だ。
店は繁盛しており、多い日には数千人が訪れる。昼の混雑を外して訪れれば、静かな主屋に向き合え、上壁に落ちる虫籠窓の影にも気づきやすい。
Q&A
- 主屋の中に入れますか。
- 入れます。「うどん本陣 山田家」として営業しており、店で食事をするのが通常の見学の形です。建物単体の拝観料はありません。
- 建物はいつ頃のものですか。
- 大正後期、おおよそ一九一二年から二五年の間に、山田家の酒造業の居宅として建てられました。
- 虫籠窓とは何ですか。
- 格子の桟を漆喰で塗り込めた窓で、虫かごの目のように見えることからこの名があります。西日本の裕福な家の二階部分によく用いられました。
- どうやって行けばよいですか。
- 高松市牟礼町、八栗寺の参道沿いにあります。ことでん志度線の八栗駅から徒歩約二十分、高松市街からの路線バスも利用できます。
- 屋敷内の他の建物も登録されていますか。
- はい。主屋は屋敷内の登録建造物八棟のうちの一つで、ほかに二棟の酒蔵、煉瓦煙突、石灯籠、長屋門、庭門、小さな地蔵堂があります。
基本情報
| 名称 | 山田家(旧清酒源氏正宗醸造元)主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 香川県高松市牟礼町牟礼3186 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 2001年(平成13)10月12日/登録番号 37-0075 |
| 時代 | 大正後期(1912〜1925年頃) |
| 構造 | 木造2階建、瓦葺、建築面積284㎡、1棟 |
| 現況 | 「うどん本陣 山田家」として営業(一般公開) |
References
- 文化庁 国指定文化財等データベース — 山田家(旧清酒源氏正宗醸造元)主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00002459
- 文化遺産オンライン — 山田家(旧清酒源氏正宗醸造元)主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/193459
- うどん本陣 山田家 — 公式サイト
- https://www.yamada-ya.com/
- うどん県旅ネット(香川県観光協会)— うどん本陣 山田家
- https://www.my-kagawa.jp/udon/521/
最終更新日: 2026.07.05