明治の地主屋敷に残る13件

森澤家住宅は、高知県安芸市土居にある明治中期の地主屋敷で、主屋・長屋門・北蔵をはじめとする建物・塀・石垣・水場の13件が、平成17年(2005年)11月10日に国の登録有形文化財となった。登録番号は39-0196から39-0208まで連続している。

敷地は南北に細長い。その中央に主屋が東西に棟を通して建ち、南面の中央に式台玄関を開く。長屋門は南東の隅、北蔵は北西の隅、離れは北東の隅を占め、四隅のうち三つを建物が押さえている。残る南西の隅には築地塀が二辺にわたって立つ。敷地の輪郭がそのまま建物と塀で描かれている、と言ってよい。

主屋のまわりには、日々の暮らしを支える小さな建物が寄り添う。北側に井戸屋、西側の敷地境に便所及び風呂、北西の敷地境に納屋、南東の敷地境に漬物部屋。さらに敷地の内外を分ける内塀・外塀・外周石垣と、水路に口を開いた石積みの汲み池がある。

ふつう文化財として残るのは主屋と門、せいぜい蔵までである。森澤家住宅では、便所や漬物部屋、洗い場までが同じ日に登録された。明治の地主の家が、どの仕事をどの建物に割り振って回っていたのかを、一つの敷地の上で最後まで追える。

13件の内訳と登録の評価

13件の内訳は、建物が8棟(主屋・長屋門・北蔵・離れ・納屋・漬物部屋・井戸屋・便所及び風呂)、塀が3件(内塀・築地塀・外塀)、それに汲み池1所と外周石垣1基である。文化庁のデータベースは、いずれも年代を明治中期としている。登録基準は13件とも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、高知県の登録有形文化財一覧にも、安芸市土居の森澤家住宅として13件が平成17年11月10日の登録で並ぶ。

文化庁の解説文が個々の棟に与えている評価を拾うと、屋敷の性格が見えてくる。主屋は「明治の地主屋敷の大規模な主屋」として貴重とされ、床上に9室を並べる。長屋門は武者窓と土佐漆喰の壁で格式ある屋敷構えを示し、北蔵は漆喰壁に水切瓦を4段取り付けた地方色のある意匠とされる。築地塀の南辺は、石積みの上に河原石を練り込んだ土塀を載せ、特色ある外観と評されている。

評価の言葉が「大規模」「格式」「地方色」「特色」と棟ごとに違うのは、13件が同じ役割を担っていないからである。表の構えを作る棟、財を納める棟、水と火を扱う棟、敷地を囲う構造物。その組み合わせ全体が、明治の地主の暮らしの型を示している。

敷地の構成をたどる

森澤家住宅の正面は南である。長屋門は南東の隅で南を向き、主屋の式台玄関も南面に開く。南西の隅から西辺と南辺に築地塀が延び、南辺は長さ15メートル、高さ1.8メートルの河原石入りの土塀になる。門から玄関までの南側が、来客を迎える表の空間にあたる。

東辺には外周石垣が築かれ、石垣は建物の基礎を兼ねる。この東辺に長屋門・漬物部屋・離れが並び、石垣の上に載る外塀が棟と棟のあいだをつないで東辺を閉じる。離れは北面に出格子窓、東面に武者窓を開き、外に向けても顔を持つ。敷地の東面には水路が沿い、汲み池のうち東面の2基はこの水路に向けて給排水の口をあけている。北側の汲み池の脇には、水路をまたぐ石橋が架かる。

北半分は屋敷の裏手である。主屋のすぐ北に井戸屋が建ち、主屋北面の東半は板塀で、離れの南庭は土塀で囲われる。この二つの塀が内塀として登録されている。北西の隅には北蔵が南を向いて建ち、東半を米蔵、西半を道具蔵とする。その近くの敷地境に、2階建の納屋が東を向く。

主屋の西側は水まわりの列である。敷地境に便所と風呂が南北に並び、風呂の焚き口は小さな別室として設けられている。東に土間を持つ主屋から見ると、井戸・汲み池・風呂・便所がそれぞれ別の方角に散る。水を汲む場所、洗う場所、湯を沸かす場所が、用途ごとに分けて配置されていることが分かる。

土居という土地

所在地の土居は、戦国期の安芸城を中心に、江戸時代に土佐藩家老の五藤家が整えた武家町「土居廓中」を含む地区である。土居廓中は平成24年(2012年)7月9日に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。安芸市は、河原石や古瓦を赤土で固めた練り塀や、右瓦と左瓦を風向きで葺き分けた屋根を、この町並みの特徴に挙げている。

森澤家住宅は武家屋敷ではなく、明治の地主の屋敷として登録されている。それでも、河原石を練り込んだ築地塀や、雨を切る水切瓦を持つ北蔵には、風雨の強いこの土地で建物を守るための工夫が共通して表れている。

見学とアクセス

森澤家住宅の内部公開の案内は、安芸市・安芸市観光協会の資料のいずれにも見当たらない(2026年9月25日確認)。所有者の名は文化庁のデータベースに載っていない。敷地に立ち入らず、外から外観を見るにとどめてほしい。撮影は公道からに限り、門の内や建物の内部へレンズを向けることは避けたい。

外から見えるとすれば、敷地の外周に沿って建つ棟と構造物である。南辺の長屋門と築地塀、東辺の外周石垣と外塀、北東の離れの外壁がこれにあたる。井戸屋・便所及び風呂・内塀など主屋に近い棟は敷地の内側にあり、外からはほぼ見えない。

最寄り駅は土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の安芸駅である。安芸市観光協会の案内では、安芸駅から土居の武家屋敷地区まで車で約5分、レンタサイクルで約10分。土居廓中には来客用の駐車場がなく、安芸市は保存地区の南にある溝ノ辺公園駐車場の利用を呼びかけている。一帯は人が暮らす住宅地なので、路上駐車はしないこと。

土居で屋敷の内部まで見学できるのは、市が一般公開している野村家住宅である。安芸市によれば、入館は無料で、午前8時頃から午後5時頃まで年中無休で開いている。便所風呂棟・納屋・井戸・塀などを備えた江戸末期の武家住宅で、森澤家住宅と同じように主屋のまわりへ附属屋を配した屋敷の構成を、内側から確かめられる。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 森澤家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005042
国指定文化財等データベース(文化庁) 森澤家住宅長屋門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005043
文化遺産オンライン 森澤家住宅主屋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/170352
高知県 国登録有形文化財<建造物>
https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/2023062200186/
安芸市 安芸市土居廓中伝統的建造物群保存地区
https://www.city.aki.kochi.jp/life/dtl.php?hdnKey=1381
安芸市観光協会 土居廓中・武家屋敷
https://www.akikanko.or.jp/kanko/doikatyu.html

最終更新日: 2026.09.25

基本情報

名称森澤家住宅
所在地高知県安芸市土居559
指定登録有形文化財 13件
座標33.51491, 133.91189